記事公開日:2025年12月24日
カナデビア株式会社 様
「DXを『自分ごと化』する秘策とは?~対象社員3,500人の心を動かすeラーニング制作の舞台裏~」
環境プラントの設計・製造などを手がけ、2025年に創業144年を迎えたカナデビア株式会社(旧・日立造船株式会社)。同社は全社的なDX推進に向けて「DX人材グランドデザイン」を策定し、スキルレベルに応じた教育プログラムを全社員に向けて展開しています。
しかし、その中で多くの社員がITやDXについて「難しくてわからない」「IT部門の役割で、自分の業務とは関係がない」と感じており、IT/DXスキル習得への意欲が低いことが課題となっていました。
この課題を解決するため、同社は富士通および富士通ラーニングメディア(FLM)と連携。DX推進への第一歩として「まずはIT/デジタルに興味を持ってもらう」ことを目的に、親しみやすく理解しやすいeラーニングコンテンツを作成し、全社員に向けた展開を始めました。その結果、約3,500人にのぼる社員のDXリテラシー向上への意識を高めることに成功しました。
社員にDXを「自分ごと」として捉えてもらうため、同社はどのような点に注力し、どのようにプロジェクトを推進したのでしょうか。ICT推進本部 デジタル戦略企画室 DX人材育成グループの山下智史様、山口広暉様にお話を伺いました。
DX推進の土台は「人材レベルの定義」から
──まずは御社が推進されているDX戦略の全体像についてお聞かせください。
山下様:当社のDX戦略は、製品・サービスの価値向上を目指す「事業DX」、業務効率化と生産性向上によって働き方改革の実現を目指す「企業DX」、そしてそれらを支える「DX基盤」の3つの柱で構成されています。「DX基盤」における重点的な施策として、「DX人材育成」を位置づけています。
DX人材に求められるスキルはレベル0からレベル3までの4段階に区分しており、当DX人材育成グループでは、それぞれのレベルに応じた施策を日々推進しています。「レベル3」はDX企画を推進しビジネスを創る人材で、主に管理職層を想定しています。その下位に位置する「レベル2」は主に中堅層で、リーダーを支援しDXを具現化する人材としています。その下の「レベル1」「レベル0」は全社員を想定しており、「レベル1」はデジタルを理解し活用出来る人材、「レベル0」はデジタルを最低限知っている人材としています。
──そうした全体像のなかで、今回導入されたレベル0層向けeラーニングは、どのような目的で実施されたのでしょうか。
山口様:業務でITやデジタルを活用するために必要となる最低限のリテラシーを習得してもらうことが目的でした。「DXとは何か」という根本的な理解を促し、そのうえでツール活用による業務効率化のヒントを得てもらうことで、「全社員がDXに前向きになる」ことを重視しました。
「興味を持ってもらう」ことから始まるDX人材育成
──今回のeラーニング施策を導入する以前、レベル0層に関してはどのような課題がありましたか?
山下様:当社ではMicrosoft 365をプラットフォームとして業務を行っていますが、レベル0層の多くはメールや電話を主なコミュニケーション手段としており、Microsoft Teamsなどを積極的に活用する社員は少数でした。生産性向上や業務効率化のために、これからはデジタルツールを最大限活用することが求められますので、まずは「デジタルに興味を持ってもらうこと」が最も重要であると考えました。
山口様:レベル0層の中には、ITやデジタルに忌避感を抱いている社員も多くいました。そのため、まずは「DXは全社員が取り組むべきテーマである」という理解の醸成から始める必要がありました。
山下様:ITやデジタルに抵抗を感じている社員にとっても、今回のeラーニングは取り組みやすく、興味が持てるものでなければなりません。当社ではこれまでも情報セキュリティなどのeラーニングを行ってきましたが、「文章を読み、確認テストに回答する」という形式が多く、どうしても受講意欲が湧きづらいと感じていました。従来のものとは違い、社員を強く惹きつけられる、言葉を選ばずに言えば「ぶっ飛んだeラーニング」が必要だと考えました。
枠にとらわれないコンテンツ提案から始まった共創
──社員の興味を喚起する「ぶっ飛んだeラーニング」を制作するにあたり、富士通およびFLMに依頼された経緯をお聞かせください。
山下様:今回のようなコンテンツ制作は初めての試みでしたので、複数の企業にお声掛けし、検討しました。どの企業からも魅力的な提案をいただきましたが、FLMさんの初期提案のタイトルに、「転生したらIT企業社員だった件」とあったのです。それを見た瞬間、直感的に「これだ!」と思いました。企業向けの学習コンテンツに、漫画のようなタイトルをご提案くださったFLMさんであれば、私たちが求める「ぶっ飛んだeラーニング」を実現出来るのでは、と感じました。
また、今回のeラーニングを制作するにあたり、私たちは社員の目を惹きつけるためのオリジナルキャラクターを、当社の共創パートナーである立命館大学の学生さんと共に作成しました。お声掛けした企業にはこのキャラクターの使用を前提としてご提案いただきましたが、FLMさんにサンプルとして見せていただいたコンテンツは、キャラクターが掛け合いをしながら学んでいく内容で、私たちのイメージに非常に近いものでした。
山口様:教材の構成やストーリー設計も、DXに馴染みのない社員にとって理解しやすく、最適な内容だと感じました。過去事例を拝見して、FLMの皆さんならキャラクターの世界観を活かしたコンテンツを作ってくれるだろう、と確信することもできました。上司も「これでいこう」と即決でしたね。
──当初は設計のみを依頼されていたとのことですが、最終的に制作までお任せいただけた理由を教えてください。
山口様:設計を進める中で、富士通およびFLMさんがストーリー展開やキャラクター設定はもちろん、キャラクターの細かいセリフに至るまで、非常に明確にイメージされていることが分かりました。
また、打ち合わせの中では様々なご提案をいただきましたが、どれも単に「こうすれば親しみやすくなる」といった表層的なものではありませんでした。デジタルリテラシーの向上を目指す層には、何をどういう形で提供すれば理解を促せるか、どうすれば彼らが自発的に興味を抱いてくれるかが考慮されており、企画の本質や当社の想いをしっかりと捉えたものでした。
それまでのやりとりで、品質や制作コンテンツに全幅の信頼を寄せていたことに加えて、人材育成の専門家として強い熱意と高い理解力を持って取り組んでくださる姿勢を感じ、制作まで一任することを決めました。
社員の反応が示した「自分ごと化」の成果
──完成したeラーニングコンテンツをご覧になった際の印象をお聞かせください。
山下様:立命館大学の学生さんと共同開発したキャラクター設定が、ストーリーの展開に自然に組み込まれており、完成度の高さに感動しました。最初にいただいた全体シナリオを読んだ時点で高い期待感を持っていましたが、それを越えるものでした。
山口様:社交辞令ではなく、本当に素晴らしい出来栄えでした。品質的に申し分なく、シンプルだけどわかりやすい。長すぎず短すぎず、テンポ感もちょうどいい。ターゲットとなるレベル0層のペルソナを、確実に捉えられていると強く感じました。
また、キャラクターの世界観を活かした遊び心のあるセリフが随所に挿入されており、受講者の興味を惹きつけていました。このようなことは一見「どうでもいい」と思われがちですが、受講者に作品を愛してもらうためには、実は非常に重要な要素だと考えています。受講者の関心にまで十分に気を配っている点に、感銘を受けました。
山下様:ご担当いただいた富士通およびFLMの皆さんが、私たち以上にキャラクターを含めた作品のことを愛してくれていると感じましたね。
──受講された社員の皆様からの反応はいかがでしたか。
山下様:受講後のアンケートでは、「満足度」の設問に対して6割以上の受講者からポジティブな反応が寄せられました。「今までにない、画期的なeラーニングだった」「非常にわかりやすく、DXの意味が理解できた」といった声が多く、デジタルツールの基本的な操作を学ぶことが出来る社内のDX講座への参加も増加しています。今回のeラーニングをきっかけに、ITやDXの学習に意欲的な社員が増えており、非常に良い傾向だと感じています。
期待するのは「まだ見えていない部分」の提案
──その後、レベル1層向け人材育成や新入社員研修も富士通およびFLMに依頼されたと伺っています。継続的に選ばれている理由を教えてください。
山下様:富士通およびFLMさんは「顧客視点」に基づいた提案力が非常に高いと感じたため、追加での依頼を決めました。両社とも当社の意図を正確に汲み取り、常に期待を上回る提案をしてくれる。立場上はクライアントとベンダーですが、その垣根を越えて「共創パートナー」として真摯に取り組んでくださいます。
山口様:私も山下と同じように感じています。富士通およびFLMさんは制作コンテンツの品質が高く、同時に「ユーザー目線の解像度」が非常に高いと感じています。DX人材育成施策においては社員こそが主役であり、彼ら彼女らが今回のような学習コンテンツを観てどう感じるかが、今後のDXへのモチベーションに直結します。その際に重要となることが「品質」と「ユーザー目線の解像度」の高さであり、両社はその2点についてのこだわりが非常に強い。そのためeラーニングだけでなく、その他の案件に関しても安心してお任せ出来ると思っています。
──最後に、今後のDX推進と人材育成における展望、そして富士通およびFLMへの期待をお聞かせください。
山下様:当社のDX推進は、全社的にはまだまだ「浸透」とは言い難い状況です。選抜型の教育および全社員を対象とする草の根型教育によって、徐々にですが着実に、DXを推進してまいります。今後も両社には良き理解者でありパートナーとして伴走いただくとともに、当社がまだ気づいていない課題や可能性についても積極的にご提案いただけますと幸いです。
関連情報
富士通担当者からのメッセージ
組立製造事業本部
組立インダストリー事業部
組立第四ビジネス部
秋山 拓哉
デジタル人材育成やDX推進をされる中、富士通の全社DXプロジェクト「フジトラ」などの社内実践に共感をいただき、2024年よりご支援がはじまりました。
これまでも幾つもの変革を遂げてこられたカナデビア様が、今後の更なる飛躍に向けてデジタルと人、企業文化醸成への取組みと現在は全社的なデジタルスキルの底上げにも注力されています。
これからも富士通の実践経験とFLMの教育メソッドを合わせながら、カナデビア様のDX推進をサポートさせていただきます。
富士通ラーニングメディア担当者からのメッセージ
デジタル人材育成ソリューション事業本部
(左から)マネージャー 前田 真太郎、
西村 りさ、安達 碧
「eラーニングコンテンツにおいて、今までにない世界観を作る」というご要望は、我々にとっても非常にチャレンジングなものでした。しかしカナデビア様には貴重なお時間をたくさん頂戴し、何度も何度も検討会を行わせていただいたことで、ある意味ひとつのプロジェクトチームとなって企画を進めることができました。カナデビア様が本気で一緒に考えてくださり、ご意見を頂戴できたからこそ、効果的なコンテンツを作ることができたと思っています。(前田)
企業のeラーニングとしては珍しい「ややシュールでユニークな世界観」を入れ込むことに不安もありましたが、カナデビアの皆様に良い意味で笑っていただき、安心しました。そして、ただ単に奇をてらいたいわけではないという当社の意図も十分にご理解いただけ、内容を一緒にブラッシュアップさせていくことができました。
制作期間全体を通して、制作者として非常に恵まれた場所に立たせていただいたと感じております。(西村)
私は制作フェーズからの参画でしたが、その時点でカナデビア様と当社が「より受講者にワクワクしてもらえるコンテンツづくり」という思いを共有し、企画を進めている印象を受けました。
コンテンツ制作にあたっては、社員の皆様にデジタルを身近に感じ、興味を持っていただくことを重視し、私たちからは遊び心のあるアイデアを提案しました。そこにカナデビア様が現場のリアリティを加えてくださったことで、いっそう職場での活用イメージを描きやすく、キャラクターがより生き生きと躍動するコンテンツになったと考えております。(安達)
カスタマーサクセス本部
関西・中部エリアビジネス統括部
谷口 潤子
今回のeラーニングコンテンツ制作では当社が有しているノウハウを十分に生かすことができ、コンテンツを「共創」できたと感じています。これもひとえに、カナデビア様が当社の提案を評価し、向き合ってくださったからこそ、ここまでたどり着けました。
今後もカナデビア様のDX推進に関してお役に立てるようしっかり伴走し、そして私自身も成長してまいりたいと思います。
※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。
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