フィジカルAI(Physical AI)とは:用語解説
フィジカルAIとは
フィジカルAI(Physical AI)とは、ハードウェア的実体(ロボットや自動運転車など)にソフトウェア的知能(AI)を統合し、物理世界における知的認識・判断・行動を自律的に実現するAIシステムを指します。従来のデジタル空間での処理に留まらず、現実世界に対して直接的な働きかけ(移動、操作、加工など)を行います。さらに、行動結果のデータから最適な行動を学習し、未知の状況や環境にも柔軟に適応できます。

●フィジカルAIのプロセスと主な役割
フィジカルAIは、認識・判断・行動・学習のプロセスをどのように捉えているのでしょうか。その概要を表1に示します。

ロボティクスの進化から見るフィジカルAI
●ロボティクスの歴史
ロボット観点で振り返ると、プログラムされた機械として産業用ロボットが誕生して以降、高速化・精密化・安全性・安定性を追求し続ける長い歴史を経てきました。制御工学が成熟するに従い、ロボットというハードウェアと動かすソフトウェアによるロボティクス(ロボット工学)が発展していきます。現在に至るまでロボティクスは、人手不足や業務効率化を目指し、工場の自動化や自動運転(SDV)など多くの分野で社会実装されています。
なお、従来のロボティクスが単一作業特化型ロボットとして役割を果たしてきたのに対し、AI搭載のロボットは、物理空間において自律的な状況判断が可能となっています。前者は各動作にティーチングが必要ですが、後者のAIロボティクスは、実データとシミュレーションデータも含めた大量のデータをAIに学習させることで、未知の環境でも指示に対応することが可能です。
このように世界のロボット市場は、産業用ロボットから、移動ロボット、ドローン、車輪型ヒューマノイドロボットへと進化し、近年は、手足を備え人間のように歩行・移動する本格的なヒューマノイドロボットなど、人間の環境で共存・協調するロボットおよび連携システムの開発が盛んになっています。
●フィジカルAIとロボット/AIエージェント/生成AIの違い
AI観点でみると、目標の達成に向けて状況を認識、判断・計画し、環境に応じて改善するサイクルを自律的に繰り返しながらタスクを実行するものに、AIエージェントが挙げられます。しかしAIエージェントはあくまでもデジタル上に閉じた行動に留まり、物理空間にも介在するフィジカルAIとは行動領域が異なります。フィジカルAIは、より広範なAIシステムであり、単なるデジタル上の情報処理に留まらない、現実世界への直接的な働きかけが特徴で、その影響も大きくなります。なお、生成AIは、強力な推論や言語処理能力を持ちますが、1回のパスで応答を生成する点が、サイクルを自律的に繰り返すフィジカルAIやAIエージェントとは大きく異なります。表2にそれぞれの違いを示します。


フィジカルAIの活用事例
これまで主にデジタル空間で発展してきたAIは、現実世界に展開する動きを見せています。特にフィジカルAIの活用は、通路が規定された製造現場や物流倉庫など整備された環境を中心に、深刻化する労働力不足への対応や、危険な環境での作業に適用することによるリスク低減、現場の自動化による生産性向上への取り組みが進んでいます。現時点では、人の動きや物の配置などが頻繁に変化する空間の状況把握が難しく、人が生活する住宅やオフィスでは適用が困難ですが、AI、センサー、モビリティ技術の発展と融合により、福祉や医療などの分野におけるQOL向上など、その活用範囲の広がりが期待されています。以下表3で活用事例を紹介します。

富士通が取り組むフィジカルAIとは
●信頼できる中核テクノロジー、フィジカルAI
富士通はこれまでに「Fujitsu Kozuchi AI Agent」など、デジタル領域でのAI技術を発展させてきました。今後、社会や経営がAI-drivenへと変容していくことを見据え、「テクノロジー起点の価値創造(Technology-driven)」をテーマに、信頼できるテクノロジーによる事業創出と社会課題の解決に取り組んでいきます。その中核テクノロジーの一つが「フィジカルAI(Physical AI)」です。
エンタープライズ利用を念頭に設計された富士通のAIプラットフォーム Fujitsu Kozuchiでは、AIエージェント、Physical AI、その基盤となるPhysical OSを体系的に整備し、デジタルと現実世界を一体的に扱うアーキテクチャを構築しています。
●AIインフラ×ロボティクスによる実用的なフィジカルAI
フィジカルAI領域では、多様な強みを持つパートナーとの連携が不可欠です。ロボティクスや倫理など複数分野の知見を統合し、フィジカルAIの中核技術開発と社会実装を目指しています。その取り組みの一環として、富士通はカーネギーメロン大学とグローバル共同研究拠点「Fujitsu-Carnegie Mellon Physical AI Research Center」を設立。この拠点で得られる技術を取り込みながら、ロボット、センサー、システム、空間を統合するプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi Physical OS」を開発しています。本プラットフォームは、過去の行動経験や人の模倣をもとにロボットのタスク適応力を高める行動知能と、ロボットが活動できる実環境の情報を提供する空間知能の両面で、業務指示に基づき複数のロボットやシステムの協調を可能にします。これにより、より高度で柔軟な実世界タスクへの適応を実現します。
また、富士通はNVIDIA社と協業し、産業の垣根を越えて社会全体に最適なソリューションの構築に取り組んでいます。本協業などの取り組みの一環として、フィジカルAIやAIエージェントをシームレスに連携させる技術「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を公開しています。さらに、産業ロボット大手である安川電機様のAIロボティクス技術を融合したフィジカルAIの社会実装に向け、協業検討を開始しています。
●富士通の笠島工場におけるフィジカルAI実践
富士通自らも、スーパーコンピューターや量子コンピューターといったミッションクリティカルな機器を生み出す石川県笠島工場を実証の場としています。複数のロボットが収集するリアルタイムなデータを富士通のAI基盤が統合連携し、空間知能が協調制御することで工場を最適化。多品種小ロット生産への柔軟な対応、熟練技術者の知見と技能の継承、さらなる生産効率と品質向上という複雑な課題に対し、Physical AIが新たな解を創出します。
笠島工場で培われる実践知は、製造業に留まらず、物流、医療、建設、そして社会インフラへと展開されていくことを見据えています。人の知見・AIの知能・ロボットの実行力が協働する新たな社会に向けて、高い信頼性と責任あるAIシフトを通じ、富士通は社会全体の進化を支えていきます。

よくある質問
Q1. フィジカルAIとロボットの違いは何ですか?
A1. ロボットは、物を掴む・運ぶ・移動するといった物理的な動作を行う「機械そのもの」を指します。一方、フィジカルAIは、そのロボットや機械が周囲の状況を認識し、自律的に判断・行動するためのAI技術です。
例えば、製造現場でロボットアームが対象物の形状や配置に応じて動作を調整したり、自律移動ロボットが人や障害物を避けながら最適なルートを選択したりする際には、フィジカルAIが活用されています。つまり、ロボットが「身体」だとすると、フィジカルAIは「頭脳」にあたります。
Q2. フィジカルAIはどのような業界で使われていますか?
A2. フィジカルAIは、製造業、物流、モビリティ、警備、清掃、医療・介護など、現実世界で機械やロボットが動作する幅広い業界で活用されています。例えば、自律型ロボットアーム、自動運転システム、巡回警備ロボット、清掃ロボットなどに活用されており、人手不足への対応や現場の自動化・生産性向上への期待が高まっています。
Q3. フィジカルAIの提唱者は誰ですか?
A3. フィジカルAIは、NVIDIAのCEO ジェンスン・フアン氏が提唱した概念です。同氏は「CES 2025」において、「フィジカルAIの時代」が到来すると述べています。
Q4. フィジカルAIに注力している企業は?
フィジカルAIに取り組む企業として、NVIDIAや富士通が挙げられます。富士通はNVIDIAと協業し、フィジカルAIに注力しています。協業の成果として、NVIDIAのソフトウェアスタックと富士通の技術を統合した「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を開発しました。
また、富士通はロボット産業界をリードするファナック株式会社、株式会社安川電機、および川崎重工業株式会社の各社と、フィジカルAI分野における事業検討を開始しました。
関連サイト

関連リンク
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