富士通のデジタルツイン技術で、ベルギーにおける水素利用の普及を推進

2026年10月22日

持続可能な物流の実現に向け、デジタルツイン技術で運用効率と経済性を検証

水素ステーションに輸送トラックが駐車している

富士通は、水素燃料電池トラックの運用および物流効率をデータに基づいて評価できる、デジタルツインを活用したシミュレーション技術を開発し、その有効性を検証しました。この技術は、車両特性、運用データ、走行ルートの状況、水素インフラ情報を、統合した仮想環境に統合することで、運送事業者、インフラ事業者、車両メーカーや政策立案者などの関係者が実運用に先立ち、輸送シナリオを分析し、車両運用を最適化すること可能になります。

富士通は、欧州における事業運営、イノベーション、モビリティ活動を担うトヨタの欧州統括会社Toyota Motor Europe NV/SA(以下、TME)、再生可能エネルギーの生産・開発を手掛け、再生可能水素の生産および水素充填インフラの分野で事業を展開しているベルギーの企業であるVirya Energy NV/SA、ならびにベルギーおよびベネルクス地域における水素産業の発展を推進する業界団体WaterstofNet VZWと連携し、2026年1月から10月にかけてフランダースの道路網における物流業務をシミュレーションする実証実験を実施しました。本実験では、陸上物流における水素燃料電池トラックの性能と運用効率をシミュレーションで評価し、デジタルツイン技術が将来の水素物流エコシステムの設計と最適化をどのように役立てられるかを検証しました。

背景

運輸業界は、気候変動対策に向けた幅広い取り組みの一環として、ディーゼル車への依存を減らし、バッテリー式電気自動車や水素燃料電池車をなど代替え輸送自動車(代替パワートレイン)への移行が課題になっています。従来の総所有コスト(Total Cost of Ownership:TCO)は、燃料価格、保険、保守メンテナンスなど費用面に重点を置いている一方で、運用上やインフラ上の制約が十分に考慮されていない場合が多いです。また、従来の総所有コストでは、ディーゼルトラック1台とバッテリー電気自動車(BEV)または水素燃料電池トラック1台との比較が行われます。しかし、輸送事業者は自社の保有車両全体を把握した検討が求められます。このような意思決定を支援するためには、交通事業者、政策立案者、および水素ステーション事業者が、検証済みの運用データを必要とします。こうした背景のもと、4社は、燃料費だけでなく、最適な輸送ルートや水素ステーションの立地も考慮した、水素燃料電池トラックの利用に関する多面的なシミュレーション実証に取り組みました。

デジタルツイン技術 - GAMBIT(Generative Agent-based Modelling and Behavioral Inference in Transport)

GAMBITは、実際の走行データで学習した生成AIと大規模な交通シミュレーションを組み合わせ、輸送ネットワーク全体における個々の車両の挙動を再現するシミュレーション技術です。あらかじめ定義した運転方程式や局所的な地域ごとに適合した調整を行う従来手法とは異なり、GAMBITでは、実際の交通規則や運用規則を遵守しつつ、車種ごとに道路や時間帯によってどのように走行するかを観測データから直接学習します。これにより、コストのかかる手作業での調整を削減できます。また、車両群全体を扱うアーキテクチャにより、個々の車両の詳細情報を損なうことなく、より大規模な車両群へ効率的に拡張できるよう設計されています。その結果、水素や電気の充電インフラから貨物輸送業務、道路網の変更に至るまで、複雑でコストのかかる意思決定を、現実世界で実施する前に都市全体で検証できる新たな手法が実現します。

ベルギーでのディーゼル車、バッテリー式電気自動車、および水素燃料電池トラックのシミュレーションによる走行ルートと給油・充電パターンを示しています。
図 ベルギーの物流ネットワークにおける、ディーゼル、バッテリー電気、水素燃料電池の各トラックの走行ルートと燃料補給・充電パターンのシミュレーション結果

実証実験の概要

この実証実験は、WaterstofNet、Virya Energy、およびトヨタ・モーター・ヨーロッパが、保有車両の脱炭素化に向けた複数のシナリオを分析し、輸送用途ごとに最適な技術を選択できるようにすることを目的として実施しました。富士通のデジタルツイン技術GAMBITを用いて、ベルギーのフランダース地方の道路網とインフラをモデル化し、交通動態(注1)、制限速度、ディーゼル給油所、水素ステーション、電気自動車用充電ステーションなどの燃料補給・充電インフラを再現しました。シミュレーションでは、水素燃料電池トラック、電気トラック、ディーゼルトラックの3種類の車両を対象に、港から倉庫や小売店への多段階配送を含む範囲で、物流業務を検証しました。

  • 期間:2026年1月6日~2026年10月16日
  • 対象モデル:
    • ベルギーのフランダース地方における各種道路、標高・勾配、交差点、制限速度、一方通行規制、大型車両規制、および燃料補給インフラ。
    • 道路網の総延長:5,101 km
    • シミュレーション対象車両総数:39台
    • 物流センター:2か所
  • 実験結果:
    • インフラ計画および車両導入計画の意思決定におけるデータ駆動型シミュレーションの価値を実証:
      このシミュレーションフレームワークでは、輸送事業者、インフラ開発者、政策立案者に、従来のモデルでは捉えきれない詳細な運用上の知見を得ることができます。インフラの利用可能性、交通動態、燃料補給パターンなど、現実の制約をモデル化することで、ステークホルダーが単なるコスト想定ではなく、実際の制約条件下でのシミュレーションに基づいて、車両の導入戦略を評価できます。このデータドリブンでのアプローチは、車両導入計画やインフラ整備の優先順位に関する、根拠に基づく意思決定を支援します。
    • 水素燃料電池トラックの運用上の実現可能性とコスト競争力の道筋を確認:
      シミュレーションの結果、水素燃料電池トラックはディーゼルトラックと同様に配送予定を遂行できたため、車両運用事業者は、運用体制の再構築や保有車両の増加を行うことなく、既存の配送スケジュールを維持できることができました。さらに、現行価格では水素利用の燃料コストはディーゼルより高いものの、水素価格が目標水準を下回る場合にはコスト競争力を確保できることが確認されました。シミュレーションでは、水素燃料電池トラックは走行中にCO₂、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質を一切排出しませんでした(注2)。
    • 水素燃料電池トラックの導入に適したルートを特定する可能性について評価:
      道路状況や走行パターンを分析し、航続距離、燃料補給時間、車両の利用可能性など、モデル化した条件下で水素燃料電池トラックが運用上の優位性を発揮し得るルートを特定しました。その結果、保有車両を一律に転換するのではなく、こうした優位性が特に重要となるルートを優先して水素燃料電池トラックを導入することで、より的を絞った移行戦略を実現できる可能性が示されました。さらに、パートナーによる分析を通じて、水素燃料電池トラックが適する可能性のある用途を特定するためのルート選定手法の妥当性も確認しました。

今後の展望

富士通は、本実証実験とデジタルツイン技術から得られた有用な知見を活用し、欧州の運輸・エネルギー分野におけるデータ駆動型の水素物流計画を引き続き支援していきます。実証実験での成果は、2026年10月26日から30日までにベルギーのブリュッセル・エキスポで開催される「EU Hydrogen Week」で紹介する予定です。
今後、富士通は、運送事業者、インフラ事業者、車両メーカーとの連携を強化し、本シミュレーション実証で得た知見と成果を生かして、商用物流におけるデータ駆動型の水素利用を加速します。ベルギーでの取り組みを継続するとともに、ベネルクス地域全体、ベネルクス地域全体から周辺の地域まで拡大し、ベネルクス地域における低排出型の商業物流の実現に貢献することを目指します。

注記

交通動態(トラフィック・ダイナミクス):実際の交通状況の変化は、交通渋滞、速度の変動、発進・停止の繰り返し、時間帯・道路種別・ルートに応じた交通流の変化などを通じて、車両の運行に影響します。これらの要因は、燃料消費量、所要時間、車両の運用効率に直接影響します。

排出量:排出量は、資源の採掘、製造、物流、保守、使用後の処理、エネルギー生産など、ライフサイクル全体を通じて依然として発生する可能性があります。また、タイヤやブレーキの摩耗による粒子状物質の排出など、使用中に発生する排出量もあります。さらに、発電に使用される水素については、その製造方法によってはCO₂の排出を伴う場合があります。

商標について

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