犯罪心理学×AIでカスハラから従業員を守る!
~東洋大学と富士通の革新的な取り組み事例~

2024年6月27日
近年、社会問題となっている「カスタマーハラスメント」(以下、カスハラ)。
深刻な被害が増え続ける中、2024年6月には厚生労働省が法改正の検討を開始するなど、国全体で従業員を守るための取り組みが進行しています。
企業には従業員を守る義務があり、カスハラに対して毅然とした対応を行うための教育が求められていますが、専門的な知識が必要となるため非常に難易度が高く、対応しきれていないのが現実です。
この問題に対して、東洋大学と富士通はAIを活用した「カスタマーハラスメント体験AIツール」の開発を進めています。この取り組みと、目指す未来について、東洋大学社会学部長 桐生 正幸 教授、富士通 紺野 剛史に聞きました。
社会問題化するカスタマーハラスメント
近年、社会問題となっているカスハラ。顧客の理不尽な要求や攻撃的な言動によって、企業活動が妨げられたり、従業員がうつや退職に追い込まれたりといったニュースが、連日のように飛び交っています。
なぜ今、カスハラが注目されるのでしょうか。元山形県警科学捜査研究所(科捜研)研究員で、犯罪心理学の観点からカスハラを分析する桐生 正幸 教授が実施した調査によると、販売・レジ業務・クレーム対応を行う従業員の約75%もの人がカスタマーハラスメントの被害に遭った経験を持つことがわかっています。桐生教授は、その背景をこう語ります。
桐生 氏:従来、企業はクレームを「企業の財産」と捉え、顧客の要望に応えることで、サービスや商品の改善と企業の発展につなげてきました。しかし2000年代以降、時代と共にクレームの形態も変化し、金銭や謝罪を求めるのではなく、ただ怒りをぶつけるような「悪質なクレーム」が増加しました。クレーム対応の窓口となる従業員は疲弊し、対応できない従業員は辞めてしまい、新たな従業員を投入するという悪循環も生まれています。
このような状況を受けて、労働組合同盟のUAゼンセンは2017年に初めて悪質クレームに焦点を当てた調査を行いました(注1)。悪質なクレームを受けた従業員のストレスの実態や深刻な被害状況がデータとして顕在化され、国や企業がカスハラ対策へ真剣に取り組む契機のひとつになりました。

――カスハラは「悪質クレーム」としてこれまでも存在していたのですね。カスハラには、どのような定義があるのでしょうか。
桐生 氏:定義は、非常にあいまいです。私は、「要求内容」と「態度・言動」の程度によって、グラデーションが存在すると考えています。
意見、要望、クレーム、苦情、これらはすべて「要求」です。その要求内容が一般的な常識に基づいているか、あるいは過度で悪意があるかによって分けることができます。さらにその要求を述べるときの態度や言動が友好的・理性的・抑制的なものなのか、あるいは権威的・感情的・攻撃的・反社会的なものなのかも重要となります。
暴行や脅迫、暴力行為といった、明らかに法律で対応できる行為はカスハラではなく、れっきとした犯罪行為です。カスハラは、嫌がらせを含む一方、要求内容が一般的な常識に基づいていたり、抑制的に行われている場合には、加害者本人に全く自覚がないケースもあります。
さらに業種や業態によっても基準が異なるなど、カスハラを一律に定義するのは困難です。











