なぜ今、世界はインドに注目するのか。イオンCTOが見たインド富士通研究所の挑戦と可能性

2026年10月8日

世界トップレベルのIT人材が集まる国として、存在感を高め続けるインド。富士通がSIerからテクノロジーカンパニーへと変革を進める中、そのグローバルR&D(研究開発)の中核を担うのが、インドに設立した「Fujitsu Research of India Private Limited(FRIPL)」です。設立以来、研究領域と組織を急速に拡大してきたFRIPLは、富士通の最先端の研究開発をけん引する存在へと進化しています。

なぜインドがこれほどまでにIT先進国として成長し、どのようなカルチャーがイノベーションを生み出しているのか。現地での対話を通じて見えてきた「組織と人材の未来像」について、イオン株式会社 CTO 山﨑 賢 氏と、FRIPLの立ち上げをけん引した豊田 建、イオン担当セールスの増田 孝志が、それぞれの視点から意見を交わしました。

世界が注目するインドと、富士通最大の海外研究拠点

今、世界中の企業がインドに熱い視線を送っています。
高い経済成長と政府主導のイノベーション推進政策を背景に、世界トップレベルのIT人材が集まる国として存在感を高めている、インド。現在では多くのグローバル企業がインドに研究開発拠点を構え、企業の持続的な成長と競争力向上を支える重要な拠点となっています。

一方、富士通の研究所では、世界8カ国で約1,430名の研究者が最先端テクノロジーの研究に取り組んでいます。SIerからテクノロジーカンパニーへの変革を進める中で、研究所が果たす役割はますます重要になっています。
そのグローバル戦略の一環として、2022年4月に設立したのが、「Fujitsu Research of India Private Limited(FRIPL)」です。拠点を構えるベンガルールは「インドのシリコンバレー」とも呼ばれ、多くのIT企業と優秀なエンジニアが集まる世界有数のテックハブとして知られています。
FRIPLでは、AIや量子コンピューティングをはじめ、幅広い分野の研究開発を推進。インド工科大学(IIT)やインド理科大学院(IISc)といったトップクラスの研究機関との共同研究にも取り組んでいます。組織は急速に拡大し、現在は約400名(注1)が在籍する富士通最大規模の海外研究所となりました。

インドの若く優秀な研究者・エンジニアの力を結集し、研究開発に不可欠なソフトウェア技術を強化していくことがFRIPLのミッションです。最先端技術とイノベーションを通じて、世界が直面する複雑な社会課題の解決に挑む。富士通のグローバルR&Dを支える中核拠点として大きな期待を集めています。

  • 注1:2026年7月1日付で、ネットワーク関連部門を1Finity India Private Limitedとして独立。
Fujitsu Research of India Private Limited(FRIPL)オフィスビルの外観
Fujitsu Research of India Private Limited(FRIPL)オフィスビル

イオンCTOが「未知なるインド」に目を向けた理由

富士通は、FRIPLの立ち上げと成長の過程で、数多くの挑戦や困難を経験してきました。その過程には、インド発のイノベーション創出やグローバル人材の活用を考える上で、多くの示唆が含まれています。
取り組みや現地の実態に触れるため、イオン株式会社 CTO 山﨑氏がFRIPLを訪問されました。

――訪問の経緯をお聞かせください。

山﨑氏:私が担当する開発子会社のイオンスマートテクノロジー株式会社では、エンジニアのリソース不足が大きな課題となっていました。採用だけで需要に見合う人材を確保することは難しく、有力な打ち手の一つとしてオフショア開発を検討していました。
前職において、ベトナムにおけるオフショア拠点の立ち上げを経験し、それぞれの国民性や考え方については理解していましたが、インドについては未知の部分が多くありました。
インドを選択肢として検討するのであれば、実際に現地を訪れ、文化や価値観、そこで働くエンジニアのレベルを自分の目で確かめなければ意思決定はできないと考えていました。

インタビュー中の山﨑氏
イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO 山﨑 賢 氏

増田:山﨑様とお話しする中で、インドへの関心の高さを感じていました。「なぜインドがこれほどまでにIT先進国として成長しているのか」「なぜベンガルールなのか」といったテーマについて、意見交換をしてきました。
富士通自身も、未来を担う様々なテクノロジーの研究開発をインドで進めています。実際にFRIPLの現場を見ていただくことで、インドの人材や研究開発環境、そしてこの国が持つ可能性をより深く感じていただけるのではないかと考えました。

インタビュー中の増田
富士通株式会社 エンタープライズ事業 イオングループユニット Global Account Director 増田 孝志

グローバルR&Dに、世界トップレベルの人材が集う

今回の訪問では、富士通とFRIPLの歩みを題材に、成功だけでなく、直面した課題や失敗、それらをどのように乗り越えてきたのかについても率直に共有しました。
例えば、世界有数の人材競争市場であるインドで、どのように優秀な人材を採用してきたのか。日本とインドの研究者が互いに刺激を受けながら連携し、スピード感のある研究開発につなげるためにどのような工夫をしているのか。文化や価値観、働き方の違いを乗り越えながら、グローバルな組織マネジメントをどのように構築してきたのか。
加えて、先端技術分野における研究開発の取り組みや、現地企業・大学とのオープンイノベーションの実践事例などについても共有しました。

――FRIPLを訪問してみて、どのような印象を持ちましたか。

山﨑氏:全ての内容が、本当に素晴らしかったです。採用プロセスから組織運営の実態に至るまで、非常にオープンにお話しいただけたことが印象に残っています。一般的な視察やパッケージツアーでは、ここまで踏み込んだ内情を聞く機会はなかなかありません。
現地の研究者とも様々な形でコラボレーションさせていただき、日々直面しているリアルな課題や取り組みについて、率直な意見交換をすることができました。ハイレベルなディスカッションが大変楽しく、有意義な時間を過ごせました。

――実際に現地を訪れる価値をどのように感じていますか。

豊田:現在、富士通研究所では、研究テーマごとに世界中の研究者が連携するグローバルチーム型の体制で研究を進めています。そのため、FRIPLでは「インドの研究開発」ではなく、富士通がグローバル全体で推進している最先端の研究開発そのものをご覧いただきました。
FRIPLにとって最大の財産は、人材です。インドの雰囲気や人材のレベル感、研究者たちの考え方なども含めて、現場を肌で感じていただくことが大切だと考えています。

――FRIPLには、どのような人材が集まっているのでしょうか。

豊田:IIT BombayやIIT DelhiをはじめとするIIT各校やIIScといった名門校の出身者に加え、国内外の大手IT企業で経験を積んだ専門人材が活躍しています。
設立当初は3年間で50名規模の組織を目標としていましたが、予想を大きく上回るペースで採用が進み、多様な研究者やエンジニアが集う研究開発拠点へと成長しました。

――優秀な人材にとって、FRIPLはどのような魅力があるのでしょうか。

豊田:一つは、「インドだけで研究がクローズしない環境」にあると考えています。グローバル企業がインドに展開する研究所の中には、活動がインド国内で完結しているケースも少なくありません。一方、富士通は研究者同士が日常的に国境を越えて議論し、成果に応じて海外出張や駐在の機会もあります。こうした環境の中で最先端の研究開発に挑戦できることは、研究者にとって大きな魅力になっていると感じます。
最近では、インドの研究者たちの圧倒的なスピードと熱量が、日本や米国、欧州の拠点を良い意味で「刺激している」と感じます。その結果、当初はAIと量子コンピューティングに特化することを想定していた研究領域も大きく広がり、現在では次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」、データ、セキュリティ、ネットワーク、サーバーなど、富士通のテクノロジー戦略を支える幅広い領域でFRIPLの研究者たちが活躍しています。

インタビュー中の豊田
富士通株式会社 グローバルテクノロジーヘッドオフィス Executive Advisor、FRIPL取締役(前社長) 豊田 建

最先端技術の先に見えた、富士通のテクノロジー戦略

今回の訪問では、単なる視察にとどまらないよう、現地の研究者との対話の機会を多く設けました。山﨑氏はディスカッションを重ねる中で、富士通のテクノロジー戦略が見えてきたと語ります。

――対話の中で、特に印象に残ったことを教えてください。

山﨑氏:富士通が注力している量子コンピューティングの研究開発は、日本を中心に進められているものだと思っていました。しかし実際には、インドの研究者も深く関わっており、ソフトウェア開発だけでなく、熱制御や配線設計といった量子コンピューティングの実用化に向けた重要な課題にも取り組んでいました。FRIPLが基礎研究にとどまらず、富士通の技術戦略やビジネスを支える重要な役割を担っていることを実感しました。

豊田:FRIPLの設立以前から、量子コンピューティングは富士通の将来を支える重要な柱の一つになると考え、重点的に取り組むことを計画していました。
一方で、この分野の研究者は世界的に見ても限られています。そこで、既存の専門人材を採用するだけでなく、IITやIIScのような世界トップレベルの教育機関から数学や物理の素養を持つ人材を採用し、育成する体制を整えました。現在では、そうした人材がグローバルな研究開発体制の中で重要な役割を担っています。

山﨑氏:他にも、FRIPLが最先端の領域に挑戦していることを実感する場面はいくつもありました。FUJITSU-MONAKA についてはCPUチップそのものの開発にまで取り組んでいることや、AIモデルをより扱いやすくするための独自の取り組み、効率的でスリムな次世代データセンターの実現に向けた研究など、幅広いテーマに取り組んでいることが印象的でした。
それぞれの研究テーマについては各リーダーから個別に話を聞きましたが、それらが独立した取り組みではなく、相互に連携しながら富士通全体のテクノロジー戦略を構成していることが見えてきました。個別のテーマとして見ていたものが、次第に一つの大きな構想としてつながって見えてきたのは、非常に興味深かったですね。

FRIPLオフィス見学の様子
FRIPLオフィス見学の様子

インドへの認識を変えた、現地の人々や研究者との対話

インドという国を肌で感じ、現地の人々と直接対話したからこそ得られる気付きがあります。山﨑氏は訪問を通じて、文化的背景を含むインドへの理解が深まり、訪問前に抱いていたイメージが大きく変わったと振り返ります。

――現地へ足を運んだからこそ、見えてきたものはありましたか。

山﨑氏:インドは、本当に面白い国です。交通渋滞は激しく、道路事情にも驚かされましたが、一方で富士通のオフィスが入居するビルは近代的で洗練されており、混沌と先進性が共存する国だと感じました。
また、訪問初日には現地ガイドの方に寺院などを案内していただき、インドの宗教観や価値観について説明を受けたことは大きな学びになりました。インドの人々がどのように物事を考えているのかを事前に理解できたことが、FRIPLの研究者と深い交流やディスカッションを重ねる上で重要な土台となりました。

増田:国民性という観点では、インドには「ジュガード(Jugaad)」という精神が根付いていることも教えてもらいました。完璧さを求めるのではなく、限られた環境の中でも工夫しながら前に進み、課題を解決していくという姿勢です。こうした考え方は、不確実性の高い研究開発にフィットしていると感じました。

市内視察の様子

――インドという国や人材に対する見方は変わりましたか。

山﨑氏:今回の訪問は、インドのオフショア拠点としての可能性を見極めることが主な関心事でしたが、その認識は大きく変わりました。一般的にオフショア拠点というと、コストの低い労働力を活用し、日本のプロジェクトをサポートする役割として捉えられることが少なくありません。しかし、FRIPLの研究者たちは、幼少期から極めて高度な教育を受け、専門分野の知識や技術を磨き続けています。彼らは非常にハングリーで、学ぶことへの意欲が高く、自ら課題を見つけて行動する姿勢も強く感じました。
FRIPLの研究者たちは、誰もが本当にいきいきと、楽しそうに研究に取り組んでいました。日系企業に所属しながら、インドでもトップレベルのエンジニアとして活躍し、さらに世界最先端の研究開発に携わっている。その姿から、私自身が大きなエネルギーをもらったように感じています。

インドに学ぶ、これからの組織と人材のあり方

現地の熱気に触れ、最前線で挑戦を続ける研究者たちと深く言葉を交わしたからこそ見えてきた、組織と人材の未来像。今回の訪問がもたらした気付きと、両社が描くこれからの展望についても語り合いました。

――訪問全体を通して感じたことや、今後ご自身で取り組みたいこと、あるいは組織として取り組むべきだと感じたことがあれば教えてください。

山﨑氏:FRIPLで出会った研究者たちを見ていると、プロジェクトのようにあらかじめ決められた枠組みの中で働くような仕事は、きっと彼らにとっては物足りないだろうと思います。不確実性の高い課題に自ら挑戦し、考え、新たな価値を生み出していく研究開発の環境こそが、彼らの能力を最大限に引き出していると感じました。
このように、自立した個人の裁量のもと、工夫を凝らしながら研究開発を推し進めていくカルチャーこそが、グローバルスタンダードには近いかもしれません。失敗を恐れずに数多くの挑戦をして、試行錯誤を繰り返しながらイノベーションを創出していくことが、これからのビジネスにおいてますます重要になると感じています。日本側がインドの姿勢や仕事へのアプローチから学び、従来のやり方をアップデートしていくことも必要なのではないかと感じました。

豊田:私は1980年代から日本でキャリアを積んできましたが、当時の若い世代は「自信や大きな夢」で満ちあふれ、全員がアグレッシブに競い合い、挑戦していました。現在のインドには、かつての日本のような熱量と活気を感じます。
特にIT分野では、型にはまった考え方から脱却し、一人ひとりの個性や意欲を最大限に伸ばして、挑戦できる環境をいかに作っていくかが、日本においても重要になると考えています。

――今後の展望や、FRIPLが見据える未来について教えてください。

豊田:実は、2026年4月から、FRIPLの「セカンドステージ」が始まっています。これまではグローバルR&Dの拠点としての役割が中心でしたが、今後はFRIPLで生まれた技術や知見を組み合わせることで、インドにおける社会課題解決にも挑戦していきます。
富士通研究所では、テクノロジーを単なる「技術」で終わらせず、いかに社会課題の解決やビジネス価値の創出につなげるかを追求しています。そのために必要なのが、「技術を作ってから届ける」という発想から「まず価値を届け、検証する」というアプローチへの転換です。新たなテクノロジーを実際の社会で検証し、そこで得た知見を次の研究開発に還元することで、技術をさらに磨き上げます。
FRIPLもこのサイクルを回しながら、新たなビジネスや価値の創出を通じて、インド社会へのさらなる貢献を目指します。さらに、インドでの実証を通じて得た知見や成果を、富士通のグローバルな研究開発や事業にもつなげていきます。

増田:訪問を通じて、富士通が取り組む変革を山﨑様に体感いただけたことを大変嬉しく思っております。
研究開発を経て創出した最先端テクノロジーを活用し、イオングループ様のこれからのビジネス変革、そしてその先にある豊かな社会の発展に、パートナーとして貢献していきたいと考えています。

成長を続ける、インドとFRIPL。今回の訪問では、研究開発の最前線に触れるとともに、そこから学ぶべき視点や可能性も見えてきました。インドの活力と富士通の先端技術が交わることで生まれる新たな価値が、今後どのようなイノベーションにつながっていくのか。その挑戦は、これからますます加速していきます。

インタビューの様子

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この記事を書いたのは

フィールドマーケティング室 Japanマーケティング統括部 CoE Japan部 Creative Services

商談獲得・ブランド価値向上に向け、戦略・目的に基づいたマーケティングキャンペーンのシナリオに沿って、取材・執筆から各種グラフィック制作物デザイン、動画撮影・編集を行っています。

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