ネットポジティブとは? 企業が直面する内部課題と対処法

Article | 2025年7月28日
この記事は約10分で読めます
ネットポジティブとは、企業活動による「マイナスな影響」を減らすだけでなく、社会や環境に対して積極的に「プラスの影響」を与えることを目指す考え方です。企業がネットポジティブを追求することは、ビジネスと社会・環境の両面にメリットをもたらします。多くの企業がその両面へのメリットを理解しているにも関わらず、ネットポジティブを十分に達成できていません。何が障壁になっているのでしょうか。
ネットポジティブとは?
ネットポジティブとは、企業活動による「マイナスな影響」を減らすだけでなく、社会や環境に対して積極的に「プラスの影響」を与えることを目指す考え方です。例えば温室効果ガスの削減だけでなく、再生可能エネルギーの導入や地域社会への貢献、包摂的な雇用の推進といった広範な取り組みが含まれます。
企業には、自社のビジネス成長と同時にネットポジティブを追求する社会的責任があります。

富士通はこのたび、Economist Impactと共同で、北米・ヨーロッパ・アジア太平洋地域17カ国で事業を展開する5業界(金融、製造、運輸、小売り、エネルギー・社会インフラ)を対象に、企業がネットポジティブにどのように取り組んでいるかを調査しました。
調査によると、ネットポジティブの先駆的企業は、業界を問わず収益と市場シェアの目標達成見込みが高く、投資家の信頼を得る傾向がありました。企業にとって、ネットポジティブの追求はビジネスにもメリットがあることは明らかです。しかしながら、現状、十分にネットポジティブを実現している企業はごくわずかです。何がネットポジティブ推進の障壁になっているのでしょうか?
本調査の主要な結果と洞察は、「ネットポジティブインデックス調査レポート:エグゼクティブ・サマリー」で紹介しています。本稿では、本調査で実施した企業役員/意思決定担当者1800人へのアンケートの結果を基に、ネットポジティブの目標達成を阻んでいる要因について考察します。
ネットポジティブが進まない理由は組織構造が鍵
前述のように、企業がネットポジティブを追求することは、ビジネスと社会・環境の両面にメリットをもたらします。アンケートの回答傾向をみると、企業役員/意思決定担当者の多くが、ビジネスに様々なメリットがあることを理解していることがわかります(表1)。

メリットを理解しつつ、ネットポジティブを十分に実現できないはなぜでしょうか。アンケートで、「ネットポジティブの目標を達成する上で組織が直面している障壁」について質問したところ、表2の結果になりました。回答数上位5つに注目すると、組織外部の要因(サプライチェーン、規制ガイダンスの問題)と、組織内部の要因(他のビジネス上の優先事項との対立、変化に対する抵抗、予算の制約)が混在していることが分かります。

一方で、従業員スキルや管理スキル、リーダーの賛同欠如といった人的ハードルは相対的に低い傾向にあります。

業種別にみるとネットポジティブ推進を阻む障壁の回答割合には多少のばらつきがあるものの、その“課題の種類”には共通点が見られます。たとえば、「ビジネス優先事項との両立」「組織内の抵抗」といった要因は、いずれの業界でも上位に挙がっています。この傾向は、業界を問わず多くの企業が、まずは“自社内で解決できる問題”に目を向けることが、ネットポジティブ実現の出発点となることを示唆しています。

ネットポジティブ推進を阻む内部課題とその対処法
組織の外部にある要因は、自社だけでは簡単に解決できません。まずは、自社で解決可能な内部要因に着目し、組織内部の変革に取り組むことがネットポジティブ実現の近道になります。
52.9%の企業が課題に感じている「持続可能性の目標と他のビジネス上の優先事項との間の対立」については、組織が経営戦略と一体となったパーパスや中長期的ビジョンを持ち、リーダーがそれを繰り返し共有していくことが重要です。「変化に対する組織の抵抗」(46.4%)については、チェンジマネジメントの手法が役立つかもしれません。
今、企業が取り組むべき「3つの内部アクション」
▶ ビジネスとの対立をなくす
「持続可能性はCSR部門の話」として切り離さず、経営戦略に統合されたパーパスとビジョンを浸透させましょう。
▶ 組織の抵抗に向き合う
変化に対する不安や慣性を乗り越えるには、たとえば、社員との対話を重ねて納得感を醸成したり、小さな成功を積み上げて「変われる」という実感を持ってもらったりすることが有効です。また、組織文化や評価制度など、制度面からも後押しする必要があります。
こうした「人と組織の変化を促す計画的アプローチ」が、チェンジマネジメントの中核となります。
▶ 自社の現在地を見える化する
「うちの会社は今、どの段階にいるのか?」を把握することは、次の打ち手を見極めるうえで欠かせません。全体像を整理し、取り組みの優先順位を見定めるには、外部の視点も取り入れながら現状を客観的に見つめる手立てが役立ちます。
ネットポジティブに向けた課題を見える化
富士通では、企業がネットポジティブ実現に向けた現在地と課題を見える化する「ネットポジティブ評価ツール」を提供しています。
業界内での相対的な立ち位置を把握しながら、多面的な観点からアクションの優先順位を明らかにするヒントが得られます。
まずは、自社の“現在地”を見つめることから、次の変革は始まります。
羽野 三千世
Michiyo Hano
富士通株式会社 グローバルマーケティング本部 マーケティング戦略 コーポレートインサイト部
マネージャー
日経BP、ZDNet、ASCIIの編集記者、MSN Japanの編集責任者、日本マイクロソフトのSNSマーケティングリードを経て2023年10月富士通入社。

