日進月歩の量子コンピュータ。 実用化を見据え、企業がいまから取り組むべき「量子アプリケーション開発」とは?

Technology News | 2025年4月23日
最近、量子コンピュータ関連のニュースを目にする機会が増えたのではないでしょうか?量子コンピュータの開発競争は激化の一途をたどっています。富士通も2025年4月、世界最大級となる256量子ビットの超伝導量子コンピュータの稼働開始をプレスリリースしました。[1]
量子コンピュータは、従来のコンピュータでは難しい複雑な計算を、圧倒的なスピードで処理できる可能性を秘めています。創薬や新しい材料の開発、金融など、様々な分野への応用が期待されています。
一方で「量子コンピュータの実用化はまだ先の話で、自社にはまだ関係がないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、実は企業がユーザーとして、今から着手できる領域があり、先行企業では既に成果も出はじめているのです。それが「量子アプリケーション開発」です。
この記事では、量子アプリケーション開発の現状と、企業がいま取り組むべき理由について解説します。
量子コンピュータの技術を3つのレイヤーで捉える
量子コンピュータの技術的な進歩を理解するために、技術領域を3つのレイヤーに分けて考えてみましょう。ニュースで話題になるのは、量子コンピュータの方式や量子ビット数などのハードウェア技術が中心かもしれません。しかし、ハードウェアだけでは計算を実行できません。基盤となるソフトウェアや、実際にユーザーが利用するアプリケーションも不可欠です。
従来のコンピュータと同様に、ハードウェアの比較に目が行きがちですが、コンピュータをどのような目的で使用するのか、つまりアプリケーションがユーザーの立場では重要なのです。
ここからは、ハードウェア、基盤ソフトウェア、アプリケーションの3つのレイヤーに分けて、それぞれの重要な技術トピックを見ていきましょう。

- ハードウェア : 量子コンピュータ本体と、その制御技術(量子デバイスや集積技術、量子状態制御技術など)
- 基盤ソフトウェア : 量子コンピュータを動かすためのソフトウェア技術(ミドルウェアやコンパイラ、クラウド化技術、基盤アルゴリズム、エラー緩和技術、エラー訂正技術など)
- アプリケーション : 量子コンピュータで具体的な問題を解くソフトウェア技術(材料、創薬、金融など)
多様な方式が模索される「ハードウェア開発」のいま
量子コンピュータのハードウェア開発は、様々な方式が世界中で開発されています。富士通が開発している超伝導方式やダイヤモンドスピン方式の他にも、中性原子、光量子、半導体、イオントラップなど、それぞれ異なる特徴を持つ方式が存在し、各プレイヤーがしのぎを削っています。
富士通も実装技術や制御技術などの蓄積を重ね、2025年4月に世界最大級となる256量子ビットの超伝導量子コンピュータの稼働をプレスリリースしました。[1]。
しかし、残念ながら現時点では、どの方式もまだ実用段階には至っていません。ハードウェア技術は日々目覚ましい進歩を遂げていますが、実用化には、現在の延長線上にはないブレイクスルーが必要とされています。
実用化までの歩みを大きく進める「基盤ソフトウェア開発」のいま
量子ビットは非常にデリケートで、外部からのノイズによって誤りが発生しやすく、計算精度が低下しやすい弱点があります。そこで、量子コンピュータの実用化を大きく進める鍵となるのが、「誤り耐性量子計算」です。
誤り耐性量子計算は、実用的な量子コンピュータ実現のための重要な技術であり、世界中の研究機関や企業が開発に力を入れています。富士通も「エラー訂正技術」と「エラー緩和技術」の2つの側面から、この課題に取り組んでいます[2]。
ユースケース開発が進む「アプリケーション開発」のいま
企業が今、最も注目しておくべき領域は、量子アプリケーションによるユースケース開発です。将来、量子コンピュータが実用化されたときに備えて、自社でどのような活用可能性があるのか、必要な技術や人材は何かを、今から検討しておく必要があります。
2025年現在、実用的な計算課題で従来のコンピュータの計算性能を超える「量子優位性」を達成した量子コンピュータはまだありません。しかし、近い将来、早ければ数年以内に量子優位性を達成する量子コンピュータが登場する可能性もあると言われています。
もし量子優位性が達成されれば、最高性能のスーパーコンピュータを凌駕する計算資源が手に入ることになり、ビジネスに計り知れないインパクトをもたらすでしょう。その後は、ハードウェアの大規模化に応じて、計算能力が飛躍的に向上していくと予想されます。
自社の業務で量子コンピュータを使えるかで、企業の競争力の差は、ますます拡大していくでしょう。量子優位性の恩恵をいち早く享受し、先行者利益を獲得するための準備、それが、量子アプリケーション開発なのです。
先述のように、現在の量子コンピュータでは、量子アプリケーション開発に必要な精度や規模の計算は困難です。しかし、代替手段はあります。例えば、従来のコンピュータ上で動作する「量子シミュレータ」を使えば、エラーのない環境で量子計算を実行できます。量子シミュレータを活用することで、自社の業務に合ったアルゴリズムを開発したり、小規模な問題を使って将来的なビジネスインパクトを評価するなどの検討を、今から行うことができます。
実際に、量子シミュレータを活用したPoC(概念実証)を通じて、早期から量子アプリケーション開発に取り組んでいる先進企業では既に成果が出始めており、今後もさらなる発展が期待されています。量子アプリケーション開発は、決して夢物語ではなく、現実的なビジネス戦略として捉えるべき段階に入っているのです。
将来の活用例:
- 材料: 新材料の正確なエネルギー状態をシミュレーションし、特性を調べる。
- 創薬: 新薬の候補となる化合物の分子構造をシミュレーションし、効果や副作用を予測する。
- 金融: ポートフォリオのリスク管理や、不正検知の精度向上に活用する。
まとめ:量子コンピュータの実用化を見据え、企業がいま取り組むべきことは?
量子コンピュータはまだ発展途上の技術ですが、その潜在能力は計り知れません。企業は、量子コンピュータの実用化を見据えて、今のうちから取り組みを開始する必要があります。すでにユースケース開発は進めることができ、成果を上げている先進企業も出てきています。人材育成や獲得、技術動向などの情報収集も、ますます重要になるでしょう。
量子コンピュータが、ある日突然実用化されたとしても、すぐに使いこなすのは困難です。企業は今のうちから量子コンピュータの活用を検討しておくことで、その恩恵をいち早く享受でき、将来的な競争優位性を確保することができます。
特定の実用計算で従来のコンピュータの性能を超える「量子優位性」が達成されれば、その後は飛躍的な発展が期待できます。今こそ、量子アプリケーション開発に投資し、未来を切り開くための第一歩を踏み出す絶好の機会なのです。
富士通の共同研究環境
富士通は、超伝導量子コンピュータに加え、量子アプリケーション開発に必要な世界最大級の40量子ビット量子シミュレータを常設で稼働し、クラウド経由でアクセス可能な環境を2023年から共同研究パートナーに開放しています。
量子コンピュータ単体ではエラーの問題から量子アプリケーション開発は制約がある状況ですが、量子コンピュータと量子シミュレータを併用することで、ユーザー企業の量子アプリケーション開発も共同研究可能です。
さらに、量子技術に限らず、因果探索など、独自のAI技術も組み合わせることで、量子アプリケーション開発をさらに加速する取り組みも推進しています。
富士通は、ハードウェアからソフトウェアまでトータルに量子コンピュータを開発する企業として、その実用化を加速し、より良い未来の実現に貢献していきます。
量子コンピュータにご興味をお持ちの方は、ぜひ富士通にご相談ください。