プロフィール
三谷 日姫 / Mitani Haruhi
データ&セキュリティ研究所
大学院理学研究科卒
2023年入社
私のパーパス:創造性を活かし、従来の枠を超えた新しい価値を生み出すことで社会に貢献する
Article|2025-10-31
「探究すること」と「人と関わること」を原点に
将来の夢が研究者になったのは、物理学の最前線で研究者として活躍している知人の存在がきっかけでした。その知人から海外の最新研究について聞くたび、素粒子物理学のような難解な内容の本質を理解している姿が「なんて格好いいのだろう」と心に響き、研究者へ強い憧れを抱くようになりました。その影響で、高校では物理研究部に所属し、研究に取り組みました。自ら問いを立て、仮説を考え、実験して確かめるというプロセスがとても面白く、「探索すること」に夢中になりました。
また、両親の仕事の影響で情報系のイベントやシンポジウムに参加する機会が多く、自然にセキュリティ分野にも関心を持つようになりました。大学で物理学を専攻しつつ、若手セキュリティイノベーター育成プログラム「SecHack365」(セキュリティの課題にアイディアで切り込める人材を育成する長期ハッカソン)のような情報系の活動に参加し、小中学校へのセキュリティ教育導入について考える機会もありました。このような経験を通じて、「人と関わること」への思いが募り、セキュリティ分野の社会的意義や技術的な面白さも実感しました。これらの経験が後押しとなり、就職先はセキュリティ分野に絞ることにしました。
技術だけでなく、伝える力や社会との接点を意識する
入社してから特に印象に残っているのが情報二次利用検出技術のプロジェクトです。このプロジェクトでは、社内の情報管理規定に基づき、文書が秘密情報を含むか否かを自動判定する技術の開発に取り組みました。私はプロトタイプ開発と精度向上を担当しました。特に精度向上のフェーズでは、人間が見ればほぼ同じ内容なのに機械は異なると判定してしまったり、本来検知すべき内容を見逃してしまったりなど判定結果のばらつきや誤検出の原因分析に苦労し、試行錯誤の連続でした。これらの問題に対して、正しく判定できるよう独自の重み付けによる新しい評価指標を設計しました。その結果、無断での情報二次利用による情報漏洩リスクの低減に貢献しました。
この成果を、セキュリティ分野で国内最大規模のシンポジウムSCIS2025で発表したことは、自分が企業研究者として社会に価値を届ける立場にあるという自覚が芽生えた貴重な経験となりました。発表準備でストーリー構成や資料の見せ方、伝え方に悩みましたが、発表後には、社外からの評価やコメントをいただけたことで、それまでは技術を作ることに集中していた研究開発から、技術を届けることの意味を強く意識するようになりました。このプロジェクトを通じて、技術だけでなく伝える力や社会との接点を意識するようになったことが、大きな転機となりました。
未知の脅威から社会の安心・安全を守るために
現在取り組んでいるマルチAIエージェントセキュリティ技術(*1)の研究でも、常に利用者を意識して開発しています。これは、複数の自律的に動くAIエージェントが連携してサイバー攻撃に先手を打ち、脆弱性や新たな脅威への対策を支援する技術です。その中でも、サイバー攻撃に対して、自動的に有効な防御策を提案するAIエージェントの開発に取り組んでいます。生成AIに不適切な応答をさせる攻撃など、攻撃は日々多様化・高度化しています。未知の脅威にも柔軟かつ迅速に対応できる仕組みを目指し、技術的な課題の解決だけでなく、社会全体の安心・安全につながる価値を届けたいと考えています。自分の研究が誰かの役に立つ可能性を持っていることを実感し、自分らしい研究の進め方ができていると感じています。将来的には、AIが人間の判断を補完し、セキュリティの現場で実用的に活用される未来を実現したいです。
気持ちを切り替える大切な時間
仕事以外の時間は、美術館や映画館に足を運んだり、パンやお菓子作りを楽しんだりしています。静かに作品と向き合う時間や、手を動かして何かを作る時間は、研究とは違った形で集中できるひとときで、気持ちの切り替えにもなっています。また、旅行も好きで、日常とは異なる風景や文化に触れることで、新しい視点や発想を得られることがあります。こうした趣味が、研究にも良い刺激になっていると感じます。
未来のセキュリティの担い手を育てる
小学校の卒業アルバムに「校長先生になりたい」と書くほど、昔から人を育てることへ関心があり教員免許も取得しました。この思いは今も私の中にあり、セキュリティ分野での人材育成に関わりたいと考えています。セキュリティ業界では人材不足が長年の課題であり、私自身も、次の世代にどう繋げていけばよいかを考えるようになりました。そのため、研究活動に加え次世代育成を目的とした富士通のコミュニティに参加し活動しています。「Girls Meet STEM in Tokyo」(*2)という女子中高生が理系分野の仕事に触れることができるイベントでは、富士通の技術を体験し、研究の仕事を知る機会をつくることで、参加者が将来を考えるきっかけ作りを支援しました。このような経験を通じて、中高生の進路の可能性を広げることだけではなく、私自身の初心を思い出すことができました。かつて私がこの分野に進むきっかけとなった出会いや経験があったように、今度は誰かに「セキュリティって面白い」「もっと知りたい」と思えるきっかけを届ける側になれたらと思っています。
関係者からのメッセージ
AI技術の進化により、サイバー攻撃の手法は高度で複雑になってきています。そのような脅威に立ち向かうべく、三谷さんは「能動的サイバー防御」の考え方をベースに、「マルチAIエージェントセキュリティ技術」の研究に取り組んでいます。新しい技術の開発には、予期せぬ課題や難しい判断がつきものですが、彼女は持ち前の創造性とバイタリティでそれらを乗り越え、着実に成果を積み重ねています。非常に頼もしく、セキュリティ研究者として一層の飛躍が期待されます。(データ&セキュリティ研究所 海野由紀シニアリサーチディレクター)
本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです