持続可能な成長への鍵:「ネットポジティブ」が拓く新たなビジネスの優位性

ラウラ・ボナミッチ

Article | 2025年10月3日

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新たな成長機会「ネットポジティブ」への転換 − 『なぜ今、この視点が重要なのか』

いま、企業のリーダーは、かつてないほど複雑かつ喫緊の経営課題に直面しています。気候変動、社会の分断、サプライチェーンの脆弱性、そして激化するグローバル競争――。これらの課題は、もはや事業運営と切り離して考えることのできない、企業の存続と成長に直結するものです。

社会・環境に与えるマイナスの影響を「最小限に抑える(ネットゼロ)」だけでは、持続的な競争優位を確立することが難しくなり、私たちは新たな視点を持つ必要があります。それは、自らの事業活動を通じて社会や環境に与えるネガティブな影響を上回り、積極的にポジティブな影響を「創り出す」こと。まさに、この「ネットポジティブ」への転換こそが、現代のビジネス界において避けては通れない、そして大きな成長機会となりうる重要なアプローチとなっているのです。

「ネットポジティブは、単なる理想論や、企業の社会貢献活動の一環ではありません。それは、企業の持続可能性を確かなものにし、市場における競争力を根底から規定する『ビジネスモデル』なのです。」

こう語るのは、富士通のマーケティング責任者であるラウラ・ボナミッチ(Laura Bonamici)です。彼女は、この新しいパラダイムシフトこそが企業の未来を確かなものにする指針であり、また、マーケティングがこの変革を加速させる強力なエンジンとなり得ると確信しています。そして、富士通は「2030年までにネットポジティブを実現するテクノロジー企業となる」というビジョンを掲げ、そのビジョンを体現すべく、全社を挙げて日々、変革に取り組んでいます。

混迷の時代を切り拓くマーケティングの役割 − 『客観的データと具体的な対話で、変革への道のりを拓く』

ネットポジティブという概念は、これまで財務的な視点に慣れ親しんだ企業のリーダーにとって、いまだ具体的な行動に結びつきにくい抽象的なものと感じられるかもしれません。このギャップを埋め、企業を具体的な行動へと導くこと。ここにこそ、マーケティング部門が果たすべき役割がある、とボナミッチは考えています。

「マーケティングの真価が問われるのは、まさに今です。私たちは、ネットポジティブを単なる理念で終わらせず、具体的な行動、そして目に見える成果へと結びつける『架け橋』となることを目指しています」。難解な数字や専門用語を並べるだけでは、人々の心には響かず、行動を促すことはできません。真の変革を推し進めるには、企業のリーダーが社会や従業員、顧客といったステークホルダーに対し、心に響くメッセージを発信し、共感を呼び起こす「対話」を構築する必要がある、とボナミッチは力説します。

グローバルマーケティング本部長 ラウラ・ボナミッチ
グローバルマーケティング本部長 ラウラ・ボナミッチ

「ネットポジティブ推進プログラム」の戦略的基盤 − 『現状把握から未来を切り拓くためのツール』

富士通がネットポジティブ推進プログラムを立ち上げる上で、マーケティング部門は単なる情報発信に留まらず、その戦略的な「道筋」を提示することに注力し、Economist Impactとの協力のもと「業界」「企業」「人」の3つの視点でプログラムを設計しました。一つめは、「業界」の現状を把握できるネットポジティブインデックス調査レポート、そして二つめは「企業」自身の現状の立ち位置を把握できるネットポジティブ評価ツール、そして三つめは実践している「人」にフォーカスしたチェンジメーカーの特集記事です。(ネットポジティブインデックス調査レポートおよびネットポジティブ評価ツールはEconomist Impactにて制作・調査)

(1)業界毎に現状を把握する「ネットポジティブインデックス調査レポート」

ネットポジティブインデックス調査レポート

富士通は、ネットポジティブに関する包括的な調査として、17カ国、1,800名以上のCxOおよび意思決定者を対象とした大規模な調査を実施しました。この「ネットポジティブインデックス調査レポート」は、企業のネットポジティブへの取り組み状況を、客観的なデータで明確に示しています。

調査の結果、ネットポジティブへのアプローチはまだ初期段階にあることが明らかになりました。全体の平均スコアは100点満点中わずか55点という現実があり、多くの企業が、環境・社会課題を捉えつつも、そこから一歩踏み込んだ「攻めのサステナビリティ」(社会や環境にポジティブな影響を創り出す活動)には、まだ十分取り組めていません。

しかし、この厳しい現状の中にも、重要な示唆が隠されています。例えば、高スコアを獲得した企業は、業種を問わず収益、利益、市場シェアの目標達成見込みが高く、投資家からの信頼も厚い傾向にあることが判明しました。これは、ネットポジティブが単なる理念で終わるものではなく、具体的なビジネス成果に結びつく『現実』であることを明確に示しています。

(2)企業(自社)の現在地を測る「ネットポジティブ評価ツール」

ネットポジティブ評価ツール

この調査結果に加え、各企業が自社のネットポジティブへの成熟度や立ち位置を客観的に把握できるように開発されたのが「ネットポジティブ評価ツール」です。これは17問の質問に答えることで、企業の現在の取り組みフェーズと点数が表示されるツールです(導入・実践・発展・推進の4つのフェーズ)。

このツールは、総合スコアだけでなく、詳細な分析結果を提供し、自社の強みや改善点を明確にします。また、同じ業界や地域内の他社との比較もできるため、自社の取り組み水準を客観的に評価し、具体的な改善点を見出すことが可能です。

「私たちの目的は、企業に『できていないこと』を突きつけることではありません。むしろ、業界ごとの現状や課題を明確にし、自社の現在地を深く理解することで、次に何をすべきか、どのような一歩を踏み出すべきかという具体的な方向性を示すことにあるのです」とボナミッチは、ツールの真の意義を強調します。

「チェンジメーカー」が描くインパクトの連鎖 − 『既存の枠を超え、変革を主導するリーダーたちの物語』

「ネットポジティブインデックス調査」で明らかになった現状と、評価ツールで示される企業ごとの課題。それらを経て、具体的な行動の『解』を提示するのが、「チェンジメーカー」特集です。チェンジメーカーの特集記事では、テクノロジーを活用し、社会・環境にプラスの影響を生み出している「人」に焦点を当てたコンテンツとなります。彼らの取り組みやビジョン、そこから生まれた成果は、他の企業にとって重要な道しるべとなるでしょう。

(1)サステナブル・シェアード・トランスポート株式会社 長瀬晴信氏:
日本の物流に新風を吹き込む「共同輸配送のオープンプラットフォーム」

日本の物流業界は、深刻なドライバー不足と脱炭素という複合的な課題に直面しています。サステナブル・シェアード・トランスポート株式会社(以降、SST)の長瀬晴信氏は、この危機に対し、業界全体を巻き込む革新的なアプローチで応えました。「長瀬氏の真に特別な点は、自社の最適化にとどまらず、業界全体を変革しようとしていることです」とボナミッチは強調します。
SSTは、「共同輸配送のオープンプラットフォーム」サービスを提供することにより、トラックの積載効率は向上し、空荷での運行が減少。結果として労働力不足や排出量削減といった課題の解消だけでなく、物流の効率化を通じたサプライチェーンの強靱化の実現にも繋がっています。これは、一企業が抱える課題が、業界全体の持続可能な未来と直結していることを示す好事例であり、「私たちはSST様の取り組みを、世界中の皆様に参考にしてほしいと考えています。これはネットポジティブが、いかにビジネス効率と社会貢献を両立させるかを示す模範的な例です」とボナミッチは強い期待を寄せます。

(2)バッテンフォール アンナ・ボルグ氏:
エネルギーの未来を再定義する「サステナビリティの事業戦略への統合」

スウェーデンの大手エネルギー企業バッテンフォールは、CEOアンナ・ボルグ氏のリーダーシップの下、エネルギー業界の変革に挑むもう一人のチェンジメーカーです。「ボルグ氏の情熱と、サステナビリティを事業戦略の核に統合する揺るぎない覚悟には、目を見張るものがあります」とボナミッチは語ります。
バッテンフォールでは、すべての新規プロジェクトが財務的利益と並行して、環境面と社会面の双方で持続可能であることが求められます。サステナビリティは単なる部門目標ではなく、投資基準、従業員のインセンティブ、そして日々の業務スコアカードにも深く組み込まれているのです。彼らは、ネットゼロだけでなく、生物多様性の保護や地域社会への貢献といった、より広範なネットポジティブな成果にも注力しています。ボナミッチは、「バッテンフォールは、利益追求とネットポジティブが矛盾しないことを証明しています。むしろ、目的意識の高い経営こそが長期的な競争力、ひいては企業価値の向上を生み出すという点で、彼らは優れたビジネスモデルを提示しています」と分析し、企業が持続可能性を本質的なビジネスチャンスとして捉えることの重要性を説きます。

未来に向けた「確かな一歩」を踏み出すために − 『あなたも「チェンジメーカー」に。今、行動を始める時』

ボナミッチは、これまでご紹介したチェンジメーカーの実例から得られる最も重要な洞察として、「変革を主導するリーダーシップは、組織のあらゆる場所で生まれ得る」という点を挙げます。必ずしもCEOが最初の旗振り役である必要はありません。データとストーリーテリングの力を備えた個人が、組織全体を動かす触媒となることができるのです。

「変化は一夜にして起こるものではありませんが、たとえ小さな一歩からでも始めることは可能です。重要なのは、戦略的な視点を持って、自社の現状と目指すべき方向性を明確にすることです」とボナミッチは語りかけます。「まず、自社がどこに立ち、どのような課題に直面しているのか正確に理解すること。そして、ネットポジティブへの道筋において、どのようなギャップを抱えているのかを客観的に認識すること。富士通がご提供する調査レポートや評価ツールを活用し、自社の立ち位置を把握することから、この壮大な旅路における最初の、そして最も重要なステップを踏み出していただきたいのです」。富士通が提供する評価ツールや調査レポートは、まさに未来のチェンジメーカーに、行動するための羅針盤と具体的な行動計画を提供します。

富士通が約束する未来:共に「ネットポジティブ」な世界へ − 『あなたの変革の旅を支える、信頼できるパートナーとして』

ラウラ・ボナミッチにとって、ネットポジティブは単なるビジネス戦略を超え、彼女自身の個人的な情熱の源でもあります。「マーケティングの第一線で、社会や企業の変革に貢献できることは、この上ない喜びです」と彼女は語ります。

「私たちは、これからもより多くのチェンジメーカーを発掘し、そのストーリーを世界に発信していきます。これらの心に響く物語は、単に希望を与えるだけでなく、企業の皆様がネットポジティブへと向かう上で必要な『マインドセット』と『具体的なロードマップ』を、皆様にお届けできると信じています」とボナミッチは未来を見据えます。

ラウラ・ボナミッチが示すネットポジティブへの情熱と具体的な道筋。それは、単なる理念ではなく、企業、そして個人の行動が未来を創るという確かなメッセージです。

富士通は、この壮大な旅路において、皆様の信頼できるパートナーでありたいと願っています。本記事でご紹介したラウラ・ボナミッチ氏とEconomist Impactのインパクト・リサーチ部門統括責任者であるキャサリン・スチュワート氏による対談動画では、ネットポジティブ推進プログラムの全容、特にチェンジメーカーの魅力についてさらに深く理解することができます。ぜひ、こちらで変革のヒントを見つけてください。

まずは、自社のネットポジティブ成熟度をチェックしてみませんか?

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ネットポジティブ実現に向けて
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