富士通はどう乗り越えたか 社会課題解決と事業成長両立の壁

山西 高志

Article | 2025年6月30日

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富士通は、企業活動で社会や環境へのポジティブな影響を積極的に生み出す「ネットポジティブ」なビジネスアプローチを推進しています。Economist Impactとの調査で、ネットポジティブに成熟した企業は収益性や投資家の信頼が高いことが判明しました。しかし、多くの企業がビジネス上の優先事項との対立や組織の抵抗により、ネットポジティブを十分に実現できていません。本稿では、富士通がどのように課題を乗り越えてきたのか、具体的な取り組みを例に挙げてご紹介します。

ネットポジティブとは、企業活動による「ネガティブインパクト」を減らすだけでなく、社会や環境に対して積極的に「ポジティブインパクト」を与えることを目指す考え方です。企業には、自社のビジネス成長と同時にネットポジティブを追求する社会的責任があります。
富士通はこのたび、Economist Impactと共同で、北米・ヨーロッパ・アジア太平洋地域17カ国の5業界(金融、製造、運輸、小売り、エネルギー・社会インフラ)の企業を対象に、ネットポジティブにどのように取り組んでいるかを調査し、その取り組みの成熟度を測定・評価した「ネットポジティブインデックス調査レポート」(以下、インデックス調査レポート)を作成しました。

同調査によると、ネットポジティブの取り組みが十分に成熟している企業は、業界を問わず収益と市場シェアの目標達成見込みが高く、投資家の信頼を得る傾向がありました。企業にとって、ネットポジティブの追求はビジネス成長と社会・環境の両面にメリットがあることは明らかです。多くの企業役員/意思決定担当者がこの両面へのメリットを理解しているにも関わらず、ネットポジティブを十分に実現できている企業はわずかです。その要因は様々ですが、組織内の課題として多く上がったのは、「他のビジネス上の優先事項との間の対立(52.9%)」や「変化への組織の抵抗(46.4%)」でした。

企業は、組織内にあるネットポジティブ推進の障壁をどう乗り越えていけばよいのでしょうか。本稿では、富士通 執行役員常務CSSOの山西 高志から、富士通自身のネットポジティブへの取り組みを紹介するとともに、顧客企業がネットポジティブを推進する上で富士通が提供できる価値について解説します。

── はじめに、富士通のネットポジティブの取り組みについて教えてください。

山西:当社では、ネットポジティブを「社会に存在する富士通が、地球環境問題の解決やデジタル社会の発展、そして人々のウェルビーイングの向上に取り組み、テクノロジーとイノベーションによって社会全体へのインパクトをプラスにすると共に、当社の社会インパクトと財務インパクト(当社事業活動における金銭的影響)を最大化すること」と定義し、全社戦略に落とし込んでいます。また、事業計画において、組織毎にマテリアリティに関連する取り組みと成果指標を明らかにし、各組織が主体的に取り組みを進めています。
具体的には、「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」というマテリアリティ(必要不可欠な貢献分野)についての取り組みが創出する“社会・環境へのインパクト”と“財務インパクト”を計測し、両インパクトをポジティブな状態にすることを目指しています。
ネットポジティブへ取り組む上で重要なのは、ビジネスと環境・社会へのインパクトについて、それぞれのポジティブインパクトとネガティブインパクトを可視化し、自社の現在地を把握することです。その上で、ポジティブインパクトの最大化と、ネガティブインパクトの最小化を追求し、ネットポジティブの成熟度を高めていきます。

山西 高志CSSO
山西 高志CSSO

── ネットポジティブへの取り組みのインパクトをどのように計測していますか?

山西:財務インパクトは、各マテリアリティに紐づく事業活動の金銭的な影響を計測しています。社会・環境へのインパクトについては、マテリアリティごとに指標を設定して計測を行っています。
例えば「地球環境問題の解決」では、自社の事業活動やサプライチェーンにおけるGHG(温室効果ガス)排出量をネガティブインパクト指標、GHG削減につながるオファリングやソリューションの顧客への提供実績をポジティブインパクト指標として集計 しています。
指標ごとに尺度が異なるため、全項目の合算は行わずに、社会・環境へのインパクト、財務インパクトそれぞれの最大化を図っています。社会・環境へのインパクトについては測定のための仕組みや手法が存在しないものも多く、難しさはありますが、計測可能なものから順次着手しています。

── ポジティブインパクトの最大化、ネガティブインパクトの最小化の追求について、富士通社内での具体例を教えてください。

山西:ポジティブインパクトの最大化に向けた活動の具体例としては、ITサービスや教育機会の提供を通じた情報格差の抑制、デジタル人材育成のためのリスキリング支援、環境問題や社会課題の解決に貢献する技術開発などが挙げられます。Fujitsu Uvanceを通じた顧客企業のサステナビリティ変革の支援も、ポジティブインパクトの拡大につながります。
ネガティブインパクトの最小化に向けては、自社製品の省エネ化、再生可能エネルギーの利用拡大、GHG排出量削減等に取り組んでいます。情報セキュリティとプライバシー保護強化のための技術開発もネガティブインパクトの縮小につながります。サプライチェーン全体で調達コンプライアンスの遵守、人権尊重、労働環境の改善などを徹底していくことも重要です。

── インデックス調査レポートによると、多くの企業で「他のビジネス上の優先事項との間の対立」がネットポジティブ推進の障壁となっていました。富士通にもこの課題はありましたか?

山西:当社は、ネットポジティブの実現を全社戦略に組み込んでおり、Fujitsu Uvanceを通じて社会課題の解決に寄与することを目指しています。Fujitsu Uvanceのビジネス上の目標を達成することは、すなわち社会・環境へのポジティブインパクトを創出すると考えているので、対立構造にはなりません。
ただし、当社が提供するITインフラやAIサービスは電力消費を伴うもので、GHG排出など環境へのネガティブインパクトも生み出します。これを最小化するために、ハード製品の電力効率向上、AIデータセンター向けの省電力技術の開発に投資をしています。

── インデックス調査レポートで、従業員規模が大きい企業ほど「変化への組織の抵抗」が強く、ネットポジティブ推進の障壁となっていることが明らかになりました。富士通ではこの課題にどう対処していますか?

山西:ネットポジティブを推進する上で、「変化への組織の抵抗」を対立構造とは捉えていません。全社員がパーパスに基づき、自社の製品サービスとマテリアリティを紐づけ、考えていくことで、ネットポジティブに繋がっていくと考えています。
しかし、全員が同じ目線で、同じ方向を向いて進むためには、課題があるのも事実です。
私が事務局長、弊社代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ経営委員会において、当社のサステナビリティ経営を進めるにあたり、重要な議題の一つとして活発な議論を行ってきました。また、社員一人ひとりが自らの業務とマテリアリティとの関連性を理解し、その貢献を意識できるよう、事業部門と一緒に社内セミナーを実施しており、マテリアリティへの貢献を称える社内表彰制度も開始します。さらに、社内SNSでの情報発信、教育コンテンツの提供、社内版のオープンバッジの付与なども実施してきました。これらにより、マテリアリティに基づいたビジネスを根付かせています。

── 最後に、ネットポジティブに取り組む企業に向けたメッセージをお願いします。

ネットポジティブ推進にはステークホルダーとの関係強化やバリューチェーン全体での変革を推進する視点、長期的に成果を捉えることが必要です。富士通自身もネットポジティブの実現に向け取り組みを加速させるとともに、リファレンスとしてお客様へ提供し、お客様・社会のサステナビリティの実現に貢献していきます。まずは、ご自身の企業の現在地を把握することから始めてみませんか?

注記

  • ネットポジティブインデックス:企業のネットポジティブの実現に向けた取り組み度合いを可視化する指標として英Economist Impactにて調査・制作しました。
  • 富士通のサステナビリティ経営におけるネットポジティブの取り組みは、テクノロジーとイノベーションによって社会全体へのインパクトをプラスにすると共に、当社の財務インパクトをプラスにすることです。この実現に向け、全社戦略をはじめ事業戦略や事業計画に落とし込み、当社のマテリアリティの各項目に沿って測定をしながら取り組みを進めています。

まずは、自社のネットポジティブ成熟度をチェックしてみませんか?

意識と取り組みレベルを見える化しましょう

Are you Net Positive ready?
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