非財務指標

はじめに

パーパスの実現に向けて長期的かつ安定的な貢献を行うためには、すべてのステークホルダーと信頼関係を築き自らがサステナブルに成長していくことが必要です。富士通グループではそのために、非財務面での指標を事業活動の中核に組み込み、財務目標と合わせて、達成に向けた取り組みを推進しています。
2023年度に発表した中期経営計画において、お客様や社会に対する貢献と、自らの持続的な成長を可能にする土台の強化について測定・検証するため、「お客様ネット・プロモーター・スコア(NPS®)(注1)」、「従業員エンゲージメント(EE)」、「ダイバーシティリーダーシップ(女性幹部社員比率)」、「生産性指標」、「温室効果ガス(GHG)排出量削減率」をKPIとする非財務目標を設定し、進捗を確認しています。

注1:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。

お客様ネット・プロモーター・スコア(SM)(NPS®)

お客様ネット・プロモーター・スコア(SM)(NPS®)(お客様NPS)とは、お客様との信頼関係=顧客ロイヤリティの客観的な評価を可能とする指標です。購入した商品やサービスに対する満足あるいは不満の度合いを示す顧客満足度と異なり、顧客ロイヤリティは、お客様の愛着度合いやリピート購入の見込みを判断できるという特徴があります。富士通グループがお客様NPSを非財務指標の1つとしているのは、お客様中心の経営を実現するためです。お客様NPSを通じてお客様の声を聴き、ニーズに的確に応えるサービスを提供する、あるいは、お客様のニーズの先を見越した提案をすることで、お客様の体験価値が向上し、お客様NPSがより一層高まる。こうしたポジティブな循環をつくり出すことが、結果として富士通グループの企業価値向上につながると考えています。
これを実現する推進体制として、現場レベルでタイムリーに改善活動をリードするCX(カスタマーエクスペリエンス)リーダーを各地域で任命して取り組んでいます。CXリーダーと現場社員との議論を通じて得られた活動方針や課題意識は経営サイドと共有しており、これによりお客様課題を現場レベルで確実に解決すると同時に経営課題として取り上げ、改善アクション提案、投資領域検討、施策効果検証まで実施する「フィードバックループ」を回していく体制を取っています。

お客様ネット・プロモーター・スコア(SM)(NPS®)
お客様ネット・プロモーター・スコア(SM)(NPS®)

こうした中で、2024年度のNPSは、対前年比-2.1ポイントと微減となりました。しかしながら、既存のお客様からの評価は、ターゲットとして掲げている2022年度比では+5.6ポイントと着実に上昇しており、今回の結果の背景には、ビジネス拡大に伴い新たに調査対象となったお客様からの評価が低調に終わったことが挙げられます。既存のお客様を含め、富士通の技術力、品質を中心としたITソリューションベンダーとしての総合力に対しては、引き続き高い評価をいただいています。これは、長年にわたり培ってきた技術力と、お客様の課題解決に真摯に向き合う姿勢が評価された結果と捉えています。
一方で、昨今の社会・経済情勢の急激な変化に対応するため、お客様の経営課題、事業課題に対するコンサルティング力、革新的・先進的な変革の提案力、そして迅速な実行力は、今後改善に注力すべき領域であると認識しています。
この課題に対し、2024年度に引き続き、富士通グループ全体でリスキリングをさらに実施し、DX実践事例の蓄積を通じて、お客様の事業成長を総合的に支援できる力を高めていきます。具体的には、業界知識やビジネスコンサルティングスキルを強化するとともに、最新技術の習得を促進し、お客様の変革を加速させるための人材育成に注力します。中期経営計画の最終年度となる2025年度は、過去数年間で評価されてきた強みを引き続き向上させつつ、注力すべき領域の改善を図ることで、2022年度比+20ポイントのNPS向上を目指していきます。お客様の期待を超える価値を提供し、より強固な信頼関係を築くことで、持続的な成長を実現していきます。

従業員エンゲージメント(EE)

富士通グループにとって最大の経営資源は、お客様に提供する価値の源泉である社員です。エンゲージメントの高い社員は質の高いサービスをお客様に提供することができ、お客様からの良い評価は社員の仕事に対する手応えを高めるため、社員一人ひとりのエンゲージメントの向上は、個人と富士通グループ両方の成長につながると考えているからです。こうした考えに基づき、富士通グループの持続的な成長を測る1つの指標として、「従業員エンゲージメント」を掲げています。富士通では、従業員エンゲージメントを、「会社の向かっている方向性・パーパスに共感し、自発的、主体的に働き貢献したいと思う意欲や愛着を表す指標」と定義しています。また、従業員エンゲージメントは、富士通グループがDXのパートナーとしてお客様の信頼を得るうえで求められる人的資源、あるいは組織文化も含めた「ケイパビリティ」を持っていることを示す指標とも言えます。グローバル企業をベンチマークとして目標値を「75」に定めています。富士通グループにとっては高い目標ではありますが、私たちはグローバル企業に比肩するという意思をもって目標の達成を目指しています。
推進体制として、エンゲージメントの高い組織づくりの専門チームであるCoE(Center of Expertise)と各現場組織にとって人事戦略のパートナーであるチームHRBP(Human Resource Business Partner)が、国内外リージョンの各組織のトップと連携しながら、エンゲージメント向上に取り組んでいます。施策の一環で、組織文化、社員の働き方や意見、意識の変化をタイムリーに把握し、その結果を経営にスピーディに反映させるべく、従業員エンゲージメントを測定するサーベイをグローバル共通で年2回実施しています。サーベイの項目には、富士通グループで働くことに対する充実感、富士通のパーパスと自身の業務のつながりや個人の強みの発揮度合いなどを問う項目を設けています。サーベイ結果はマネージャー単位の集計とし、一人ひとりに最も適した推奨アクションを提示してマネジメント向上の支援を強化しています。また、サーベイで明らかになった経営基盤に関する課題についても、人事部門が起点となり関係部署と連携して改善に努めています。
これまでの調査によれば、エンゲージメント向上のためには、各組織のトップおよびミドル層が中心となり、メンバーと一緒に行動を起こすこと(Action Taking)が重要であること、そして上司と部下の強い信頼関係も不可欠であることが明らかになりました。一方で、日常のコミュニケーションにおける一方的な情報伝達などコミュニケーションの質と量の課題も見受けられます。
今後は、エンゲージメントデータ分析から得られる貴重なインサイトを、組織のパフォーマンス向上と個人のウェルビーイング向上につなげるため、データドリブンなサイクルを確立することを目指します。 具体的には、サーベイによる実態把握に留まらず、組織パフォーマンス向上、個人のウェルビーイング向上に必要な要素を分解・可視化し、整理することで、組織と個人の状態をより深く理解します。そして、AIを活用した課題可視化ツールをトライアル導入し、組織課題の迅速かつ的確な特定と改善につなげます。加えて、経営陣を含む幹部社員全員がリーダーシップを発揮し、階層間の双方向コミュニケーションを活性化させることでマネジメントの質向上を図ります。このように、エンゲージメントに影響を与える要因に対し、多角的な視点から根本原因を追求し、具体的な対策を実行することで、従業員エンゲージメントの向上を実現し、持続的な成長と社会への貢献を目指していきます。

2022年度の実績値は69
EE 2022年度(実績)
2023年度の実績値は69
EE 2023年度(実績)
2024年度の実績値は68
EE 2024年度(実績)
2025年度の目標値は75
EE 2025年度(目標)

女性幹部社員比率

富士通グループは、「Fujitsu Way」に基づき、多様性と包摂性を原動力とした企業文化の構築を目指しています。その中核には、「誰もが一体感をもって自分らしく活躍できる、公平でインクルーシブな組織」の実現というビジョンがあります。
価値観が多様化し、社会課題が複雑化する現代において、富士通が持続的に新たな価値やイノベーションを創出し、グローバルで選ばれる企業であり続けるためには、異なる視点・経験・スタイルを持つ多様なリーダーたちによる意思決定と協働が不可欠です。
こうした認識のもと、富士通は「女性幹部社員比率」を非財務指標の1つに位置づけています。これは単なる数値目標ではなく、組織の意思決定層における多様性を高め、多様な才能が活かされる企業風土を醸成するための象徴的かつ実践的な指標です。
2030年の女性幹部社員比率30%をめざし、キャリアオーナーシップを促すワークショップや、管理職層の意識変革を促す育成プログラム、役員とのシャドーイング機会の提供、メンタリング制度の強化など、複層的な取り組みを展開しています。加えて、「Work Life Shift 2.0」や両立支援施策の充実を通じ、誰もがライフステージに応じて柔軟に働ける環境づくりにも引き続き注力しています。
富士通は、女性幹部比率向上の取り組みを、より広義の組織変革の一環と捉え、イノベーション創出力と意思決定の質を高める企業基盤の強化につなげていきます。

女性幹部社員比率
女性幹部社員比率

生産性指標

富士通グループは2022年度まで、DXの成熟度を示すDX推進指標(注2)を活用し、あらゆる角度からDX推進施策を進め、全社戦略に基づいて持続的に変革を実行できる土台を整えてきました。
次なる変革のステージに向かうべく2023年度からは事業活動の成果である一人当たりの営業利益を「生産性指標」として新たに設定し、2025年度末時点の目標値を「2022年度比+40%」と定めました。2024年度においては、Fujitsu Uvanceを中心とした事業モデル変革をさらに推進するとともに、日々の業務へAI・デジタルテクノロジーの活用を進めたことで生産性が向上しています。因果分析でもAI・デジタルテクノロジーの活用が作業効率に貢献していることが示され、これはDXが事業変革・競争力強化に貢献し、企業価値向上のドライバーとなっていることを顕す結果の1つと捉えています。
富士通グループが真のDX企業となるため、データやAI・デジタルテクノロジーを活用して業務プロセスの効率化と、それを踏まえたIT投資の高度化を図り、既成概念に捕らわれることなく様々な取り組みと連携・連動しながら、引き続き生産性向上を推進していきます。

注2:デジタル経営改革のための評価指標を0から5の6段階の成熟度で評価するもの。「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」7項目と「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標」2項目から構成される。

全社連結での生産性指標
全社連結での生産性指標

温室効果ガス(GHG)排出量削減率

2015年12月に採択されたパリ協定(COP21)において、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする目標が採択され、21世紀後半にカーボンニュートラル(ネットゼロ=実質排出量ゼロ)にすることが世界共通の長期目標として掲げられました。その後、最新の科学的知見による気候変動の影響(損失・損害等)が見直され、COP26のグラスゴー合意で、これまで努力目標であった1.5℃目標が事実上の目標となり、21世紀半ば(2050年頃)には実質ゼロにする必要があるとの宣言に世界が合意しました。このような急速な動きの中、富士通グループも2040年度にサプライチェーンの温室効果ガス排出量ネットゼロの目標を掲げ、その通過点である2030年度には、自社の事業活動による温室効果ガス排出量を実質ゼロとすることを宣言しました。これらの目標を達成するために中間期である2025年度までの第11期環境行動計画を設定しており、この活動の中で、カーボンニュートラルの実現に向け、足元を固めた取り組みを展開していきます。

富士通グループにおけるScope1と2のGHG排出削減率
富士通グループにおけるScope3のGHG排出削減率

富士通グループのマテリアリティは、中長期的な視点で2030年を見据え、持続的な成長に向けて解決すべき重要課題として、「必要不可欠な貢献分野」、「持続的な発展を可能にする土台」の2つのカテゴリーを特定し、必要不可欠な貢献分野について、Fujitsu Uvanceを中心とした事業展開により、「地球環境問題の解決」、「デジタル社会の発展」、「人々のウェルビーイングの向上」に貢献する価値をお客様・社会に提供することを約束しています。「地球環境問題の解決」においては、「気候変動(カーボンニュートラル)」、「資源循環(サーキュラーエコノミー)」、「自然共生(生物多様性の保全)」を課題と捉えており、特にその課題解決に向けた貢献について、気候変動の緩和やカーボンニュートラルな社会の実現への貢献を図る指標を策定し、非財務指標の1つとして取り組んでいます。