代表取締役社長
CEO
時田 隆仁
CEOからのメッセージ

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爆発的なAIの進化に合わせた競争優位性の更新

 「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」。この2030年のビジョンを策定するにあたって、富士通は長期的な視点で社会のあるべき姿を描き、その社会において求められる価値を問い、それを生み出す事業やサービス、必要なテクノロジー、それらを支える人材ポートフォリオを検討しました。しかし当社は現在、このビジョンを議論した当時には描き切れていなかった変化に直面しています。それは、爆発的なスピードでのAIの進化と普及であり、そのAIが駆動する新たな事業モデルやサービスの創出です。
 この変化のスピードに追随しながら、当社がテクノロジーカンパニーとしてお客様と社会に高い付加価値を提供して持続的成長を遂げるには何が必要か。私が出した答えの1つが、当社の競争優位性の源泉であるお客様の業種・業務に関する知見の更新と共有です。
 業界の枠組みを超えるクロスインダストリーなデジタルサービスの提供に注力している当社がなぜ、という疑問もあるかもしれません。しかし、お客様の経営課題の的確な把握とコンサルティングは、グローバルな技術・市場・共創・規制動向も含めたお客様の事業や業種に対する深い理解なしにはできないことです。こうした理解を蓄積・共有し続ける仕組みを再構築するという決意とともに、私は2025年度をスタートしました。

3つの取り組みを通じて構築する新たな事業モデル

 当社は、2030年およびそれ以降に向けて持続的な成長と収益力向上に向けたモデルを構築するというテーマの下、2023-2025年度中期経営計画(中計)を実行しています。特に注力するのが、「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」「お客様のモダナイゼーションの確実なサポート」「海外ビジネスの収益性向上」の3つの取り組みです。この3つの取り組みの成果が出れば、2025年度末までに当社の事業モデルは大きく変貌します。
 2024年度、事業モデルと事業ポートフォリオの変革は、2つの側面で進捗がありました。第1が、ノンコア事業のカーブアウトです。中計において、当社は成長領域としてサービスソリューション事業に経営資源を集中することを明示しました。一方で、ノンコア事業と位置付けたデバイスソリューション事業については、独立した事業としての成長を模索してきました。2024年度は、同事業に属する新光電気工業株式会社、富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社(現 古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ株式会社)、FDK株式会社の3つの子会社のカーブアウトを決定し、2025年度中の事業譲渡完了にめどを付けました。これに伴い、デバイスソリューション事業を2024年度業績から非継続事業に分類し、当社の事業ポートフォリオは大きく変化しました。
 第2の側面は、コア事業であるサービスソリューション事業の成長です。同事業で当社が目指すのは、労働集約的なシステムインテグレーション(SI)を主とする事業モデルから、クラウドベースのデジタルサービスを提供する事業モデルへの転換です。このような新たな事業モデル構築の主力となるUvance (ユーバンス)が、2024年度に売上収益前年度比31%増という実績を上げたことは、私たちがあるべき姿に向けて前進していることを示しています。
 売上総利益率の改善傾向も継続しており、前年度比で1.9ポイント改善しました。これは、お客様のITシステムを構築・提供する、いわゆるデリバリーにおけるシステム開発の標準化と自動化が奏功したものです。また、お客様との商談における価値ベースのプライシング戦略も貢献しています。こうした取り組みが、より収益性の高い事業モデルへの変革へと着実に結びついています。
 お客様のIT資産のモダナイゼーションについても、旺盛な基幹システム刷新需要を背景に想定以上に伸長しました。ただし、当社がモダナイゼーションに注力するのは、今後数年間市場の成長が見込まれると判断したことだけが理由ではありません。旧来当社にとって基幹ビジネスであった、メインフレームおよびUNIXサーバの販売・保守の終息を発表してからすでに3年が経過しました。2035年の完全終息に向け、現在も稼働台数が600台を超えるメインフレーム、およびそれより一桁多いUNIXサーバを使用されているお客様のモダナイゼーションの道筋をつけることは、当社の責任でもあります。また、お客様の事業においても変革やポートフォリオの最適化が進んでいます。それに伴い、ITシステムへのニーズもオンプレミスあるいは固有かつ大規模で可変性の低いシステムアーキテクチャから、ハイブリッドタイプやクラウドによるデータを活用したデジタルサービスへと変わっていきます。そうしたニーズをいち早く捉えるには、当社がモダナイゼーションを確実にリードしていかなければなりません。
 海外ビジネスは、サービスシフトに向けた構造改革が継続しています。改革が先行したAmericasリージョンは、事業規模は小さいながらも収益性は着実に向上しています。その変革モデルをリファレンスとしながら、Europeリージョンは低収益事業を整理する構造改革がもうひと息というところまで進み、Asia Pacificリージョンの構造改革にも着手しました。従来のハードウェアの提供を中心とする事業体から、サービスソリューション事業に集中していくことで、より一層収益の安定性を図ります。

アプリケーションレイヤーにおける競争力の発揮

 これまでの当社の事業モデル変革の進捗は、コア事業であるサービスソリューション事業の拡大もさることながら、ノンコア事業のカーブアウトが大きく寄与してきたことは明らかです。すなわちそれは、2026年度以降は、2030年に向けてサービスソリューション事業の真の実力が試されるフェーズに入ることを意味します。しかし私は、このまま事業モデル変革が巡航速度で進んでも、2030年にテクノロジーカンパニーとして存在感を発揮し得る存在になるには何かが足りないのではないかという危機感を抱いています。その「何か」を一言で表せば「挑戦」ではないか、というのが私の結論です。
 当社が多数の戦略的アライアンスやパートナーシップを結んでいることは、日本市場において築いてきたポジショニングに対する評価への表れであると自負しています。その評価には、エンタープライズからパブリックまでを擁す幅広い顧客基盤と高い市場シェアだけでなく、人工知能(AI)やプロセッサ、量子コンピュータを自社開発する技術力への期待も含まれます。現在の当社が、先端技術の開発力を持つテクノロジー企業の先頭集団の一角を占めることは間違いありません。
 しかしテクノロジーそのものを事業化するには、率直に言って当社にはスケールや経験値がまだ足りないのも事実です。そのギャップを乗り越えるためには、テクノロジーの価値をお客様に届けるサービス開発にも、果敢に挑戦していかなければならないと、私は考えています。富士通が「Fujitsu Way」に掲げる3つの「大切にする価値観」のうち、「挑戦」こそが今、当社に最も必要なものなのです。そして、テクノロジーをサービスに展開する力、換言すればアプリケーションレイヤーにおける当社の競争力のカギを握るのが、冒頭で述べたお客様の業種・業務に関する知見です。
 こうした考えに基づき、従来のグローバルカスタマーサクセスビジネスグループとJapanリージョンを再編し、2025年4月に新たにエンタープライズ事業(製造、流通・サービス)とパブリック事業(金融、公共・社会インフラ)という業種を軸とした2つの組織体に移行しました。ただしこれは、旧来の顧客業種ごとの縦割り組織に戻るということではありません。例えば、柔軟性や強靭性のあるサプライチェーンの構築ニーズに見られるように、お客様の経営課題はクロスインダストリーな視点なしには解決できません。とは言え、そうしたニーズの背景を掘り下げてお客様に新たな価値を提供するためには、公共セクターを含めたすべての産業に精通していることが求められます。まさにそこに、当社の競争優位性があるのです。この競争優位性を将来に向けて維持・強化すべく、今再び、業種・業務知見の集積と共有に取り組みます。

競争原理の導入によるグローバル市場への挑戦

 業種軸への移行には、もう1つの狙いがあります。グローバルに展開し得るサービスの開発・提供という、当社が長年越えられなかった課題の克服です。
 これまで当社は、リージョンごとに戦略を策定し、事業を推進してきました。現在もリージョン別に構造改革を進めているのは前述したとおりです。しかし今後は、国や地域ごとに最適化を図るのではなく、サービスをお客様に提供し価値を創出することを念頭に、業種ごとにロケーションを含む最適化を図るという、一種の競争原理を組織の中に埋め込んでいきたいと、私は考えています。最適なロケーションで強い業種や事業にリソースを集中する仕組みを、強力に働かせたいのです。
 例えば、Uvanceがターゲットとする領域の1つであり、小売業向けに展開しているConsumer Experience。この中には、ドイツに本拠を置く子会社であるGK Softwareが開発したソリューションを基にしたオファリングも含まれます。こうした事業では、日本よりもむしろ欧州をベースに戦略を検討したほうが、より迅速かつ効率的にグローバルに展開できる可能性があります。技術、人材、開発資金といった限られたリソースを効果的に活用するための健全で自由な競争を社内で促し、最適なロケーションで強い事業を育てることに挑戦したいと考えています。
 ポスティング制度*の導入を契機に高まっている社内での人材の流動性が、健全な競争原理の発揮と事業モデル変革の機運の強力なドライバーになることは間違いありません。当社は過去数年間、外部からの採用者の経営幹部人材への登用やキャリア採用を拡大してきました。旧来の新卒一括採用も見直し、2026年度以降は新卒・キャリア採用にかかわらずジョブ型人材マネジメントを適用する方針を打ち出しています。ジェンダーバランスという点ではいまだ不十分であると認識しているものの、女性幹部社員も確実に増えています。人材ポートフォリオの変化とデータドリブン経営の進化を当社の社内変革プロジェクトであるFujitsu Transformation(フジトラ)が駆動し、事業モデルの変革を組織面からも定着させていきます。
* 社員自らが実現したいキャリアプランに応じて、人材を募集している部署・ポジションへの異動に挑戦できる制度。

テクノロジーがもたらすチャンスをつかむ

 当社の競合は、同業のITベンダーだけではありません。今や、お客様自身がITシステムの内製化を進め、業務アプリケーションの開発と活用に取り組んでいます。今後こうした企業が迅速にAIエージェントを導入し、生成AIを使いこなすようになれば、当社の存在意義は薄れかねません。テクノロジー企業としての本領を発揮すべく、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」の強化とUvanceへのAI実装を一層推進するのはもちろんです。モダナイゼーションと従来型SI事業でのAIの活用もまた、お客様へのサービス品質の安定化やサービス提供までのリードタイムの短縮化、ひいては市場における当社の競争力に直結します。テクノロジーがもたらすチャンスをつかみ取らなければ将来はないという覚悟を持って、貪欲にAIをサービスに取り込み成長につなげます。
 これは、次世代データセンター向け省電力プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」の開発でも同様です。2024年11月にAdvanced Micro Devices, Inc.と戦略的協業を、2025年5月にはNVIDIA Corporationと、同社のGPUとの連携に向けた取り組みを開始しており、今後の事業の広がりが期待できます。
 さらに長期視点では、量子コンピュータがもたらす新たな市場の可能性は非常に大きいと私は考えています。グローバルに見ても、量子コンピュータの開発力を持つ企業は非常に限定的であり、ましてや実機を製造する技術力を持つ企業は極めてまれです。そうした中で当社と国立研究開発法人理化学研究所は、世界最大級の256量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発しました。また当社は、製薬会社や素材メーカーと共同で、当社の量子シミュレータを使った先駆的な量子アプリケーションの開発にいち早く取り組んでいます。つまり当社は、量子コンピュータの汎用的な活用が拓く新市場の最前線に位置付けているのです。
 先端技術の活用に意欲的なのは企業だけではありません。通信、システムインテグレーションといった従来のコア技術から、AI、量子コンピューティングといった最先端技術に至るまで、当社の持つ技術基盤は安全保障分野でも注目されています。実際に、当社は日本の防衛省と、AIや量子コンピュータを含む安全保障上不可欠な技術に関する様々な議論を行っています。グローバル社会の大きな変化を見据えた新たな安全保障の枠組み構築が議論される現在、当社がパーパス実現のため視野に収めるべき領域、テクノロジーカンパニーとしてネットポジティブを実現すべき領域はますます広がっていると、私は実感しています。

2030年の価値創造に向けた覚悟

 パーパスを追求し、2030年のビジョンを達成していくには、社内の求心力の維持・強化も不可欠です。今般当社はマテリアリティを見直し、「お客様への提供価値」について経営層で改めて議論を尽くし、「富士通らしさ」を勘案して具体的な取り組み項目を再編しました。また2022年にタスクフォースを立ち上げ、非財務指標と財務指標の相関性の解明・分析を進めています。これは高効率・迅速な意思決定を可能とするデータドリブン経営の一端であると同時に、社員一人ひとりが自らの業務が生み出す価値を意識し、変革への機運を高めるうえでも大きな意味があると、私は捉えています。
 中計の最終年度である2025年度、目標を達成して株主・投資家に対するお約束を守らなければならないことを、私は強く認識しています。一方で、私の視線は常に2030年以降を向いています。事業モデルと事業ポートフォリオの変革、そのドライバーとなるAI・ 量子コンピューティングを中心とするテクノロジーのサービス展開、テクノロジーをお客様に提供するために必須の業種・業務ナレッジの集積と共有、先端テクノロジーの開発。ここまでにご説明したことは、いずれも当社が2030年以降も成長を続け、企業価値を高めていくために欠かせない取り組みです。こうした取り組みの進捗や成果を踏まえながら、2025年度は次期経営計画に関する議論も重ねています。
 現中計のテーマである持続的な成長と収益力向上を実現するビジネスモデルを構築し、先端テクノロジー分野において存在感を発揮することで、企業価値の向上を目指します。2030年以降の社会において高い付加価値を生みネットポジティブを実現する企業となるために、挑戦し続けます。

富士通統合レポート2025

富士通統合レポート2025のPDFの表紙
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