代表取締役社長
CEO
時田 隆仁
CEOからのメッセージ

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2030年を見据えた事業モデルの構築

 2023年度、当社は中長期的な価値創造とパーパスの実現に向け、次の3点を通じて方向性を明確にしました。第1に、「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」という2030年のビジョンを発表し、「富士通はどのような会社になりたいのか」を社内外に示しました。第2に、2030年を見据えた社会課題を整理したうえで当社として優先的に取り組むべき重要課題をマテリアリティとして特定し、事業を通じて社会に価値を提供する枠組みを整備しました。第3に、2030年のビジョンからバックキャストして策定した2023-2025年度中期経営計画(中計)をスタートさせました。
 中計は、2030年およびそれ以降を視野に入れながら、持続的な成長と収益力向上に向けた事業モデルを構築する3か年、いわば2026年度以降の飛躍に向けた準備期間であると位置付けています。目指すのは、労働集約的な従来型システムインテグレーションを主とする事業モデルから、クラウド型のデジタルサービスでお客様に高い付加価値を提供する事業モデルへの転換です。

ビジネス構造の変化が表れ始めた2023年度

 中計初年度である2023年度の業績には、事業モデル転換が進み始めていることが表れています。当社の成長を牽引する役割を担うFujitsu Uvance(ユーバンス)事業の売上収益が前年度比84%の伸長と計画以上に拡大しました。2024年度も引き続き成長を見込んでおり、当社の新たな事業モデルが確立されつつあると自信を深めています。事業モデルの変革やデータ活用を実現すべくIT基盤の最適化を目指すお客様に対して、最新技術や新たな製品・サービスを活用した最適化を支援するモダナイゼーションにも注力しています。IT資産の最適化は事業の根幹に関わる課題だけにお客様が慎重になる傾向があり、市場の立ち上がりが想定よりやや後ろ倒しになっていますが、2023年度は、旺盛な需要に対応するための人員増員をはじめとする体制強化やツール整備を進めました。強化したリソースを活用し、2024年度以降の市場拡大を捉える計画です。
 また、成長領域と位置付けるサービスソリューション事業の売上総利益率が、前年度比で2ポイント改善していることは、開発工程の標準化や自動化、グローバルデリバリーセンター(GDC)の活用といったデリバリー変革とバリュープライシングが収益力向上につながったものであり、より収益性を重視した事業モデルにシフトしている証左です。
 一方で海外ビジネスの収益性向上は、率直に言って道半ばです。すでに構造改革を完了したAmericasリージョンを先行モデルとして、Europeリージョンで採算性向上に向けた事業ポートフォリオ変革を加速しているほか、Asia Pacificリージョンについても改革の検討を進めています。
 Europeリージョンの中核地域である英国のポストオフィスに関する事案については、極めて厳粛に受け止めています。このような事案に当社が関与しているということは大変に残念なことであり、道義的責任があると認識しています。現在当社は、英国における法定調査に全面的に協力しており、その結果を待ってステークホルダーの皆様にも適宜情報を開示していく考えです。

高い目標を設定する意図

 2023年度はサービスソリューション事業が市場の成長率を上回る伸長を達成し、お客様NPS®*1をはじめとする主な非財務指標も改善しました。これらの結果から経営は順調であると言えるかもしれません。しかし私自身は現状に決して満足していません。それは、当社のあらゆる事業部門が一段上の成果を挙げるべく挑戦し、また事業部門間、あるいは事業部門とコーポレート部門間の連携がより深まれば、さらに変革が加速するはずだと考えるからです。
 2023年度計画で、高い財務目標を掲げていた背景には、こうした考えがあります。しかしながら、計画に対して未達に終わった項目があったことは、反省すべき点です。社員全員に挑戦と成長を促す目標を掲げ、かつその目標を達成して株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆様の期待と信頼に応えることは、経営者としての私自身が果たすべき責務であると捉えています。

*1 ネット・プロモーター ®、NPS®、NPS Prism® そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標です。

成長戦略の中で発揮する競争優位性

 一方で私は、当社の中長期的な成長については自信を持っています。2030年までを見据えた、あるいはさらに長期的な視点でカーボンニュートラル実現後の社会を見据えた事業ビジョンを描き、そこに至るまでに求められるサービスは何か、必要なテクノロジーは何か、それらを実現するための人的資本はどうあるべきかを検討して策定した成長戦略が着実に具現化しつつあり、その中で当社の競争優位性が発揮されているという手応えがあるからです。
 当社の競争優位性の一つは技術力です。1980年代から進めてきた人工知能(AI)研究の成果をFujitsu Uvanceに融合し、お客様に実際に利用していただけるサービスとして実用化したことに続き、2024年6月に世界初の技術で企業ニーズに対応した特化型生成AIの自動生成など、複数の生成AI技術を開発し、発表したことは、その一例です。また、2023年10月に64量子ビットの超伝導量子コンピュータを開発し、量子シミュレータと連携可能なプラットフォームを通じて提供していること、あるいは次世代高性能・省電力プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」(仮称)の研究開発が順調に進んでいることは、当社の先端技術の研究開発力を示しています。
 もう一つ特筆すべき競争優位性が、日本国内市場におけるお客様基盤とポジショニングです。当社は、ITサービス市場でシェア1位を維持すると同時に、メインフレームやUNIXサーバの開発・製造でも、日本国内市場において圧倒的な地位を築きました。こうしたハードウェアは現在では「レガシー」と呼ばれるようになっていますが、基幹システム構築・運用を通じて築いたお客様との信頼関係やお客様の業務に対する深い理解は、その価値を失うどころか、新たな提案の土壌となるという意味でむしろ重要性を増しています。ハードウェアやシステムインテグレーション事業を通じて、長年にわたってお取引をしてきたお客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する責任、そしてサステナビリティトランスフォーメーション(SX)をはじめとする新たな価値を提供する大きな事業機会が、当社にはあるのです。
 当社がグローバルなIT企業と非常に強固なアライアンスを組んでいるのは、こうした競争優位性が高く評価されているからでもあります。強いプラットフォームやソリューションを持つグローバル企業であっても、それらの価値を日本国内のお客様が実感できる形で提供することは容易ではないからです。そこで求められるのが、プラットフォームを活用する高度なアプリケーションの開発や、お客様の経営課題に合致した提案とソリューションの実装を得意とする当社の力です。技術力とお客様基盤・市場ポジショニングを兼ね備える当社は、日本国内市場でITサービスを提供するうえで、アライアンス先にとっても唯一無二のパートナーになり得ると自負しています。

事業ポートフォリオ変革とAI の事業化を加速

 社会や産業の構造変化を見据えた事業モデルであるFujitsu Uvanceがお客様に受け入れられつつあり、好調な実績につながっていることは前述しました。これは、本社に設けたFujitsu Uvanceの体験スペースにお客様の経営層をお招きし、デモンストレーションをご覧いただいたことや、オファリングと呼んでいるいわばサービスメニューがそろってきたことが奏功したものです。とはいえ、2021年にFujitsu Uvanceを発表した当時の想定から考えると、1年遅いというのが私の率直な思いです。競争優位性を中長期的な成長につなげていくためには、さらに変革のスピードを上げなければなりません。お客様との商談に不可欠なコンサルティングサービスが新ブランドUvance Wayfinders(ユーバンス ウェイファインダーズ)として本格化し、オファリングのバリエーションも増えたことから、2024年度はFujitsu Uvanceを軸にした事業ポートフォリオ変革を加速させます。
 Fujitsu Uvanceがお客様に提供する価値を高めるうえでは、AIもカギを握ります。2030年には、業務プロセスにAIを統合しているか否かが、企業の競争力を決すると想定しており、当社も特にAIへの成長投資を強化する必要があると考えています。AIを中心とするテクノロジーをもっとスピーディに実用化しなければなりません。独自のテクノロジーをFujitsu Uvanceに融合してお客様に提供する付加価値を高め、サービスを差異化し、日本国内市場におけるAI関連のサービスでNo.1のポジションを目指します。
 事業ポートフォリオ変革のスピードを上げると同時に、お客様からの信頼の根幹をなすシステム品質の向上にも引き続き取り組みます。最高品質責任者であるCQO(Chief Quality Officer)のリードの下、当社はシステム品質の強化施策を継続的に検討・推進してきました。こうした取り組みを通じてどのように品質が改善しているか、データをもってお客様にご説明する必要があるのはもちろんです。そのうえで、お客様や社会から率直なフィードバックや足りない部分へのご指摘をいただき、誠意をもって受け止め、ご期待に応え得る品質の実現に継続的に取り組んでいく、それがテクノロジー企業としての責任の果たし方だと、私は考えています。

データドリブン経営で蓄積した実践知の活用

 当社はデータドリブン経営を目指し、その根幹となるOneFujitsuプログラムを推進しています。2022年4月から全リージョンで稼働しているOneCRMに加え、2024年10月にはOneERP+という、まさに当社の基幹中の基幹をなすシステムが日本を皮切りに稼働します。これによって、すでに一部実現している、リアルタイムでの事業の可視化がさらに進むほか、システムの保守・運用のしやすさ、システム更新・改版を通じた環境変化への対応力やスピードも格段に上がります。何より、OneFujitsuプログラムの下で取り組んできた業務プロセスの標準化がさらに進展し、生産性の向上に寄与すると大いに期待しています。
 OneFujitsuプログラムの効果は、当社自身の生産性向上にとどまりません。社内実践を通じて得た経験や知見がお客様へのリファレンスとなり、さらにはそれが当社にとっての喫緊の課題であるコンサルティングケイパビリティの強化に寄与するからです。特に通称「3S」、すなわちSAP、ServiceNow、Salesforce*2を導入する過程で当社が重ねてきた試行錯誤が、貴重な実践知となっています。その内容は、3Sの実装に必要な技術に加え、どうしたら3Sを使いこなすことができるのか、使いこなすためにどのように業務プロセスを変えるべきか、ユーザーである経理・人事などのコーポレート部門や営業フロント部門の人材をどう育成すべきかなど、非常に幅広いものです。いわゆる「レガシーシステム」から脱却するDXに挑戦し、幾度も壁を乗り越える中で得た実践知を活用すれば、競合他社よりもお客様の課題やニーズに応えるコンサルティングが可能であると、私は確信しています。

*2 それぞれ、ERP(Enterprise Resource Management。企業の経営資源を一元管理するソリューション)、CSM(Customer Service Management。お客様向けサービスを管理するソリューション)、CRM(Customer Relationship Management。顧客情報を管理・分析するソリューション)を代表するビジネスアプリケーションの名称。

新経営リーダー体制による機能強化

 当社が、3か年の中計を2026年以降の成長軌道を確かなものにするための準備期間と位置付けているのは前述のとおりです。将来に向けた経営の機能強化もまた、準備の中に含まれます。2024年4月に、私に加え5人の副社長による新たな経営リーダー体制を発足させたことも、その一環です。狙いは、機能分化によって経営効率性を一層高め、意思決定のスピードを上げることです。
 ファイナンスとしての専門機能を担うCFO、テクノロジーの事業化スピードを上げる役割を担うCTOに加え、成長領域であるサービスソリューション事業については機能を明確にして3人の副社長がそれぞれ担務を持つ体制としました。コンサルティング、Fujitsu Uvance、モダナイゼーションを3人が担当することで、事業環境の突然の変化があったとしてもよりスピード感を持って施策の軌道修正ができると考えています。5人がチームとして協力し、時には大いに意見も戦わせながら、12万人以上の社員を擁する巨大な事業体である当社を変革するという共通目的に向かっていきます。

ネットポジティブに込めた決意

 中長期的な価値創造と成長を実現するために、私たちは挑戦し続けなければならない。その思いは2030年ビジョンの中で用いた「ネットポジティブ」という言葉に表れています。クラウドサービスの広がりに伴う電力消費の拡大にも見られるように、当社の事業活動は、必ずしもポジティブな結果だけを生むわけではありません。しかし私は、事業が何らかの形で社会の役に立ち、それが全体としてネガティブな影響を上回りポジティブな価値を生むのであれば、思い切り挑戦すべきだと考えます。ネガティブな影響を恐れるあまり挑戦をしなくなれば、Fujitsu Wayで掲げる大切な価値観の一つがおろそかになるだけでなく、変化の激しい社会の中で取り残され、パーパスの実現も遠のくのです。
 こうした考えを、社長就任以来続けているタウンホールミーティングなどを通じて社員に呼び掛け、社内への浸透を図っています。しかしこのような意志や決意は、やはり社員一人ひとりが自らの業務の中で何らかの実感を得ることなしには、内在化しないでしょう。私がなすべきことは、リーダーとして成長戦略を明確に示しつつ高い目標を掲げ、社員の行動変容を促し続けることです。2030年に向けた成長戦略を推進する中で目標達成に向けて行動し、自ら課題を発見・解決する過程で、「ネットポジティブ」に寄与する挑戦の重要性を社員が実感してくれるようになると信じています。
 当社は、2030年に向けて変革を続けることで、地球環境問題の解決、デジタル社会の発展、人々のウェルビーイングの向上に取り組み、社会全体へのポジティブなインパクト創出と、持続的な企業価値向上、それらの集大成としてのパーパスの実現を目指します。ステークホルダーの皆様には、富士通の歩みに、ぜひご期待いただきたいと思います。

富士通統合レポート2024

富士通統合レポート2024のPDFの表紙
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