継続的な成長の地平を拓く 「Data & AIネイティブ」な業務プロセス変革とは

夜の高速道路のジャンクションを上から見た写真。車の光跡が残像のように写っている。

Article| 2025年6月26日

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ビジネスの世界では、様々な環境変化の中で競争優位性を維持・向上させ、持続可能な成長を実現すべく、企業は絶えずBusiness Process Re-engineering(BPR)に取り組んできました。2000年代におけるERP(統合基幹業務システム)の導入、2010年代における様々なデジタルテクノロジーの活用など、その時点の最新のテクノロジーを活用するとともに様々なBPRを進めてきました。

そして今。ビジネスにおいてデータを活用するマインドセットの浸透とAI(人工知能)の進化により、「人が全てを行う前提の業務プロセス」から「人とAIが協力しながら業務を行う業務プロセス」に再構築することが可能となりました。生成AIをはじめとするAIが飛躍的な効果を発揮できるようになった現代において実現すべきことは、「Data & AIネイティブ」な業務プロセス変革です。

Data & AIネイティブな業務プロセスを実現するには3つの変革が土台になります。1つ目は「データ」です。業務アプリケーション単位で最適化されたデータを企業全体で再統合することで、AIが業務アプリケーションを横断して必要なデータにアクセスし、総合的に判断できる環境を整えることが重要となります。

2つ目は「ITアーキテクチャ」です。データやAIを最大限に活かすには、人が操作することに最適化されたIT基盤から、AIが活動しやすいIT基盤に再編成する必要があります。3つ目が「セキュリティ」です。人に代わってAIエージェントが自律的に動き、AIエージェント間でデータをやり取りする中では、業務プロセスからIT環境の隅々まで、きめ細かくセキュリティの網を張ることが企業の信頼と成長の源泉になります。

AIを実装する中で業務プロセスの変革は不可欠です。そうした業務プロセスを支えるにはITアーキテクチャを変革しないと対応できません。そして、業務プロセスとITアーキテクチャの変革を支えるのがセキュリティ変革です。データ、ITアーキテクチャ、セキュリティの観点から三位一体で変革し、業務プロセスをData & AIネイティブにできるか否かが市場での競争優位性を高め、継続的な成長につながるのです。

Uvance Wayfindersはテクノロジーを全ての支援の土台と位置づけ、テクノロジーサイドから様々なビジネス変革を支援します。データとAIは今やビジネスのあり方や価値の生み出し方そのものを根本から変えつつあります。本稿がお客様のビジネスを真に成長させるための一助になることを心からお祈りいたします。

AI

1. Data & AIネイティブな業務プロセスとは

データとAI技術の進化や普及に伴い、多くの企業が業務にデータとAIを活用しています。しかし、部分的な業務プロセスの自動化や効率化の進展だけで「AIをフル活用したBPRに成功している」と評価をするのは早計です。既存の業務プロセスに手を加えずにAIを導入しても、AIの真の価値をビジネスや企業の価値向上につなげることはできません。

データとAIの価値を最大化するには、人が全てを行うことを前提とした業務プロセスから、人とAIが協力しながら業務を行う「Data & AIネイティブ」な業務プロセスに再設計することが不可欠です。あらゆる業務活動をデータで捉え、最終的には全体最適を実現できるデジタルツイン化を見据え、データとAIを活用する領域を段階的に広げていくことが重要になります。

例えば、日々の業務のために必要なメールやファイルを探す作業があります。一つひとつは大した時間でなくても、合計すると相当な時間が思考・判断する前の作業に費やされています。これらの業務において、AIが全てのデータをカバーし、AIに依頼することで必要な情報が集まる環境を整えるだけでも生産性を大きく上げられるはずです。

さらに、顧客応対業務では単にチャットボットなどで半自動化するだけでなく、AIによって顧客ニーズにあわせた体験を提供する。ファイナンス業務では表計算ソフトによるバケツリレー方式で情報を伝達・収集するのではなく、リアルタイムなデータをもとにAIが着地を予測し、予測を起点に今やるべきことをAIが示唆する。「AIが人の能力を補完し、人が本来やるべきことは何かを追求する」という視点で業務プロセスを変えなければなりません。

ただし、既存の業務に無理やりAIを適用するという考え方は間違っています。確かにAIは様々な業務を遂行できるレベルにまで進化してきました。しかしながら、AIは魔法のツールではなく、人と比べると得意なものと不得意なものがあります。AIが最大限に活動しやすいように業務を組み立て直す、という視点も必要になります。同時に、あらゆる業務をAIに置き換えるのではなく、競争優位性の源泉を維持・向上するという視点も必要になります。

AIの技術革新は日進月歩で進んでいます。既存の常識にとらわれ、従来の業務プロセスに固執すれば新たなテクノロジーやビジネスモデルに適応できず、あっという間に「コダック・モーメント」に見舞われるでしょう。過去の成功は将来の足枷にもなり得ます。適切ではないデータとAIの活用は未来の失敗につながります。Data & AIネイティブな業務プロセスとは、変化に柔軟かつ高いアジリティーを組織に根付かせるうえで欠かせない基盤なのです。

2. AIが導く業務プロセス改善とビジネス貢献

AI導入と業務プロセス変革にはどんな相関関係があるのでしょうか。プロセスの最適化サービスをグローバル展開するCelonis社が日米欧などに拠点を置くグローバル企業のビジネスリーダー1,620人を対象に調査をし、2025年2月に公表した「The 2025 Process Optimization Reports」(*1)によると、企業のリーダーの58%が「自社プロセスの欠陥がAIの有効性を阻害する可能性がある」と答えました。

また、AIを使い「より多くの改善の機会を見つけ、より多くの価値を創造するためにプロセスの仕組みをより深く理解することが急務だ」と答えた割合は79%に上りました。AIから実用的な洞察を得たり、AIによって生産性を高めたりするには業務プロセスが重要な役割を果たすことを示しています。

さらに、リーダーの64%が「AIはROI(投資収益率)に大きな貢献をもたらす」とみています。業務プロセスをData & AIネイティブにすることがAIによる価値創造の循環を促し、ビジネスへの貢献度をより大きくすることができる――。世界のビジネスリーダーが自社の実践を通じてその効果を実感しています。

Celonis社の共同創業者兼共同CEO(最高経営責任者)であるアレックス・リンケ氏はレポートで「AIエージェントはプロセスを認識できる必要がある。GPSに地図が必要なのと同じだ」と指摘しています。Data & AIネイティブな業務プロセス自体を自社の戦略的資産と位置づけ、AIによる価値創造とイノベーションを通じてビジネス価値を不断に高める変革こそ、持続可能な成長につながるのです。

3. Data & AIネイティブを支える3つの変革

Data & AIネイティブな業務プロセスの実現には、大きく3つの変革が必要になります。3つの変革とは「データ」「ITアーキテクチャ」「セキュリティ」をAI時代に適応させることです。どれか1つを局所的に変えても大きな効果は望めません。3つの変革を融合させながら一気通貫で取り組むことがカギとなります。

データ

データを適切に集約し、AIが業務横断でデータにアクセスできる環境を整えることが重要です。また、人が全てのことを行う前提の業務プロセスでは、業務を運用するためのデータがデータ化されていません。データの不足を人間の経験や勘、あいまいな判断で感覚的に補っているケースが多いでしょう。最終的な判断や意思決定は人間に委ねられるべきである一方、業務プロセスをエンドツーエンドで見れば、AIに任せられる業務は山ほどあります。

例えばKPIを定義し、ダッシュボードを見ながら「予定通りの数字でしたね」と確認することが人間の業務ではありません。さらに業績を向上させるためには何をすべきかを考えることこそ本来、人間がやるべきことです。KPIはある断面を切り取った一指標にすぎません。AIはKPIの持つ制約を超え、データを起点にその時点の評価を導き、今後さらに高めるための提言や洞察を示すことができます。

業務、組織、地域間のデータのサイロを打破し、データをつなぐ基盤を整える。統合したデータを可視化し、AIによる課題抽出や洞察、分析をしやすくする。収集するデータを増やしたり、データの質を上げたりするためのガバナンス、継続的な業務変革に対するチェンジマネジメントを実行する。こうしたアプローチを通じた変革が求められています。

ITアーキテクチャ

AIが業務横断でデータを理解でき、かつAIがコントロールしやすいITアーキテクチャに向けた整備が必要になります。従来、ITアーキテクチャは基幹系と情報系という2軸を前提に語られてきました。販売や生産、在庫など企業活動を一元管理する基幹系システムのデータ処理においては、入力や確認、承認などで手作業が必要となるケースが多々ありました。また、情報系システムでは基幹系システムからデータを抽出し、そのデータを人が参照・分析し、人がアクションをしていました。

エージェントAIが本格的に活躍する世界では、AIがデータを参照・分析し、人の判断に基づき、AIがその後のアクションを実行します。今後は基幹系と情報系をデータでつなぎ、AI活用を前提としたITアーキテクチャを構築する動きが本格化すると考えています。

十分に統合されていないデータとAIの基盤のままでは、AIをはじめとする新たなテクノロジーを導入するうえで高いハードルになります。Data & AIネイティブな ITアーキテクチャを整えることで、IT基盤全体の柔軟性が飛躍的に高まります。クラウドやオンプレミス一辺倒ではなく、状況の変化に応じてAIが司令塔となり、最適な実行環境を動的に再編することも可能となるでしょう。さらに、AIの活用によってシステム開発のライフサイクルを飛躍的に短縮でき、品質も向上させることが可能になります。

必要なのは、レガシーシステムの単なるモダナイズではありません。今後のData & AIネイティブなビジネスを支えるITアーキテクチャ像を再定義し、それに向けて動き始めることです。どのテクノロジーを導入するか、それによるビジネス効果はどれくらいか見極める。ソリューションの流行り廃りに惑わされず、自社の課題を深掘りし、「短期で効果を生む変革」と「中長期で取り組む変革」のどちらも意識したデュアルアプローチが求められています。

セキュリティ

AIエージェント時代には、あらゆる業務プロセスやそれを支えるITアーキテクチャにセキュリティを埋め込む変革が必要不可欠です。悪意のある攻撃者からのサイバー攻撃は日々巧妙になっています。それらへの防御はもちろん、自社のAIが意図せぬ動きをした際にも適切に即応できる仕組みを整えることが重要になります。

セキュリティは決してIT部門だけのアジェンダではありません。今や経営における最重要アジェンダとして位置付けるべきです。Data & AIネイティブな業務プロセスを整え、戦略的資産として活かすうえでの土台とも言えます。もはやアタックサーフェスだけの対策はあくまで必要最低限のものにすぎません。

ITアーキテクチャの個々のコンポーネントにセキュリティを実装する。業務プロセスの一つひとつにセキュリティを担保する仕組みを埋め込む。それらを定期的にモニタリングし、現在のセキュリティレベルを客観的に把握し続け、改善し続ける。こうしたアプローチを通じた継続的な取組が必要です。

セキュリティへの投資はすぐに目に見える効果が出るものではありません。しかし、ひとたび被害を受ければ致命傷になりかねません。既存のセキュリティに安住していてはあっという間に脆弱さがあらわになってしまいます。今こそ危機感をばねとした本質的な変革が求められているのです。

4. おわりに

変革は継続して取り組んでこそ、真の価値を発揮します。継続的な変革に最も必要なのは「やって終わり」ではなく、「常に変化を捉え、即応する」マインドセットです。変革が日常業務として当たり前のものになる時代はすぐそこに迫っています。そうしたとき、日々の変革をサポートしてくれるのがAIであり、先端のテクノロジーです。つまり、備えを怠った企業は必要な変革ができず、市場における競争優位性を失い続けるでしょう。今こそData & AIネイティブな業務プロセスを実装し、不確実性を越えるための変革に着手すべきタイミングなのです。

複雑な課題への対応、ビジネス環境の不確実性、素早い意思決定が、現実の経営にこそ求められています。最終的に必要なのは「伝統や感覚を活かしつつも、事実に基づく判断」です。これは、データとAIをフル活用し、企業を成長へと導くData & AIネイティブな業務プロセスを確立するための変革に通じる、重要な視座と言えます。

Uvance WayfindersはAI時代に企業が成長への道を拓くのを包括的に支援します。グローバルに複数領域の専門家が連携し、あらゆる活動にAIを組み込み、お客様と協働する基盤として最適かつ、最大限にAIを活用します。テクノロジーを起点にお客様のビジネス成長と繁栄に必要な変革を一歩ずつ進め、目的地まで共に歩み続ける、新しいかたちのコンサルティングを提供していきます。

本レポートが、読者の皆様が直面する課題を解決するヒントとなることを心から願っています。

Uvance Wayfinders
Consulting by Fujitsu

夜の海に架かる長い橋、車の光跡が伸びている。
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