AI時代のビジネス変革、その本質と要諦

光る線と粒子を持つ抽象的なデジタル技術の背景。

Article | 2025年6月26日

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人工知能(AI)がもたらすインパクトは、しばしば産業革命に匹敵するほど大きいと語られています。それほどまでに、AIは企業のオペレーションのあり方を抜本的に変える可能性を秘めているのです。確かに、AIの技術はこれまで目にしてきたどの革新よりも驚異的で、未来のビジネスがまったく別物になるのではないかという期待が膨らみます。しかし、熱狂の真っただ中にいると、私たちは容易に本質を見失いがちです。

では、AI時代の新しいビジネスアーキテクチャは実際どのような姿になるのでしょうか。今日私たちが慣れ親しんでいるビジネスモデルとは何が異なり、企業はどのような選択を下すべきなのでしょうか。イノベーションのペースが非常に速く、大きな財務的成果への道筋がまだ見えにくい現状において、企業はどこに投資すべきなのでしょうか。そして、避けられないリスクをどのように軽減すればよいのでしょうか。

1. AI時代を読み解く

まず、変化しているものを理解することから始めましょう。AIは、これまで何度も起こってきたビジネスオペレーションのパラダイムシフトに続く「次の波」と言えます。例えば、グローバリゼーションはバックオフィス業務の提供方法を変革しました。デジタルトランスフォーメーション(DX)は企業の顧客接点や市場との関わり方を再定義しました。これらのシフトは既存のビジネスのあり方を大きく変えました。

ビジネスパラダイムの進化:グローバリゼーション(1990年代~2000年代)、デジタルトランスフォーメーション(2000年代~2010年代)、そしてAIパラダイム(2020年代以降)が、ビジネスの様々な側面にどのような影響を与えているのかを比較した表です。焦点、変化、仕事、コスト、市場、人間の役割、実現技術といった側面を取り上げ、グローバリゼーション時代におけるバックオフィス業務のコスト削減から、AI時代におけるインテリジェント・オートメーションへの移行を浮き彫りにしています。この表から、テクノロジーとデータの重要性がますます高まっていることがわかります。

今回の変革における根本的な違いは、AIの「I」、すなわちインテリジェンスにあります。これまでの進歩から推し量ると、あるいはOpenAIなどの予測に耳を傾けると、ビジネスの世界ではやがて機械が人間並みの意思決定や判断を下すようになるでしょう。実際、会計の基幹業務や人事の問い合わせ対応といった個別機能のプロセスにおいては既に現実となりつつあり、創薬のように創造性が求められる分野や、サプライチェーンのような複雑なシステムのリアルタイム最適化にも広がる可能性があります。無人のファストフード店で食事をしたり、AI薬剤師に相談したり、そのような光景も遠い未来の話ではありません。

こうした変化が進めば、企業はこれまで大量の人手と専門知識を要していた活動を徐々に自動化できるようになります。自動化の対象は周辺業務だけでなく、価値創出の核心に迫るプロセスも含めてです。その先には、想像を超える経済価値と“勝者総取り”の競争が待っているでしょう。しかし、その実現に至る道のりは、私たちが経験してきた従来のデジタル化・自動化よりはるかに複雑です。その理由を探っていきましょう。

2. 大きな全体像の中でのLLMの現在地

近年の AI ブームは、LLM(大規模言語モデル)や GPT(Generative Pre-trained Transformer)を中心に盛り上がりを見せています。しかし、業界関係者たちは次の2点を指摘します。1つは、LLMの前身であるニューラルネットワークを含め、AIは何十年も前から存在していたということ。そしてもう1つは、現在のLLMができることは限られているということです。

私たちが GPT-3.5 以降の LLM にこれほど興奮しているのは、誰もが気軽に体験でき、その性能に驚かされ、変革の可能性を想像できるようになったからではないでしょうか。1990 年代のインターネットや 2000 年代のスマートフォンの登場時と同じく、多くの人々の想像力を一気に掻き立てた現象と言えます。

その結果、多くの企業が LLM を中心とした「テクノロジー先行型」の実験に過剰な時間や資金、労力を注ぎ込んできました。しかし、ビジネスインパクトという観点で見ると、期待外れだったと言っても過言ではありません。S&P Global Market Intelligenceが2025年に発表した調査「Voice of the Enterprise: AI & Machine Learning, Use Cases 2025」(*1)によると、この 1 年で AI 施策の大半を打ち切った企業の割合は 17% から 42% へと急増しています。なぜこのような事態になっているのでしょうか。

第一に、LLM は変革を支える AI 機能のごく一部に過ぎないからです。AI 全体を俯瞰すると、機械学習や強化学習といった多様なモデリング手法や、コンピュータビジョン・音声認識といった処理技術が幅広く存在します。さらにAIは、UI/UX ベースのトランジション処理から IoT、ロボティクスまで、既存・新興のテクノロジー群と並んで存在しています。

IoT センサーやコンピュータビジョン単体では大きなビジネスインパクトを生み出せないのと同じように、LLM だけを活用しても目覚ましい成果は期待しづらいでしょう。有意義なインパクトをもたらすには、エンドツーエンドのユースケースを解決できるよう、最適なテクノロジーを組み合わせることが不可欠です。ユースケース、つまり「インパクトテーマ」が複雑になるほど、それに対応するために必要なソリューションの組み合わせも複雑になります。

例えば、業務上のトランザクション処理であれば、比較的シンプルな UI/UX ベースのアーキテクチャで実現できますし、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やモビリティを組み合わせれば、さらに効率が高まります。しかし、自動運転車のように複雑な物理プロセスを自動化したい場合には、UI/UX、モビリティ、機械学習(ML)、コンピュータビジョン、IoT、ロボティクスを全て連携させる必要があります。複雑さが増す分、解決できるビジネス課題のインパクトも飛躍的に大きくなるという、トレードオフの関係です。

以下のヒートマップは、テクノロジー同士をどのように組み合わせれば、より複雑で高度なビジネス機会を解決できるのかを概念的に示したものです。

テクノロジーがビジネステーマに与える影響:さまざまなテクノロジーが、ビジネスの各テーマに与える影響度合いをヒートマップで示したものです。評価対象となるビジネステーマは、トランザクション処理、トランザクション自動化、情報発見と検索、製品/サービス発見、複雑な意思決定支援、顧客/従業員とのインタラクション、物理的モニタリング、物理プロセス自動化などです。テクノロジーは、情報管理(UX/UI、モバイル、RPA)、機械知能(ML、LLM、CV、OCR)、物理的自動化(IoT、ロボット)の各カテゴリに分類されています。

要するに、単一のテクノロジーだけでイノベーションを進め、ビジネス課題を解決しようとしても、扱えるユースケースはどうしても限定的で価値の低いものになりがちです。例えばLLMは効率的な情報生成やQ&A プロセスに適しており、単体でも一定の価値はありますが、その適用範囲は決して広くありません。一方、LLMをほかのテクノロジーと組み合わせれば、はるかに多様な課題を包括的に解決できる可能性が開けます。例えば、LLMで広告コピーを生成し、機械学習ベースのテスト&ラーニングで顧客セグメントに最適化すれば、LLM単体では実現できない規模で広告のパーソナライズを拡大できます。

また、このような複雑な統合を実現するためには、「構築」と「運用」の両面でまったく異なるスキルセットが求められます。複雑な統合ソリューションを開発するには、必要な各テクノロジー分野の深い専門家を招集し、協働させなければなりません。しかも、理想的には同種の大規模導入を複数回経験している人材が望ましいため、その確保は簡単ではありません。さらに、オーケストレーションの課題があります。不具合が生じたとき、原因はどのテクノロジーにあるのか。あるコンポーネントの設計上の不備がほかの要素に悪影響が出ていないか。こうした観点から、個別要素だけでなくシステム全体を俯瞰し、最適なアーキテクチャと設計を判断することが不可欠です。統合そのものも難題です。ソリューションは必ず既存システムと連携しなければならず、広範囲にわたる適合や結合テストも必要になります。さらに多くの場合、 堅牢でガバナンスの効いたデータ基盤 が不可欠であり、これが欠けていると、どれほど優れた技術設計であってもビジネス価値を生む 「インテリジェンス」 が機能しません。

統合システムを設計するだけでも十分に難しいのに、その運用と保守はさらにハードルが高くなります。ビジネス環境は刻々と変化しますが、新しい製品や市場条件が生じるたびに、アップデートをどう迅速に展開するのでしょうか。技術トレンドの移り変わりも課題です。今日の革新を塗り替える新しいアルゴリズムが次々と登場し、ハードウェアも処理速度の向上に伴って進化していきます。AI を本番環境で運用するのは極めて難易度が高いものです。データの「コールドスタート」問題、分散モデルの管理、ネットワークの最適化、センサーやカメラが停止したら誰が修理するのかなど、これらを事前に検討しておかなければ、後になって足を取られてしまいます。

さらに重要なのが、「人」の観点です。テクノロジーが定型業務を自動化するとき、従業員にはどのようなスキルが必要になるでしょうか。彼らは業務プロセスのより複雑な側面に注力しつつ、そのプロセスとテクノロジーがどのように連携するかも把握しなければなりません。仕事の重心は、日々の業務を実行することから、自動化を指揮し最適化することへと大きくシフトします。チームがこの変化を受け入れ進化に適応させるには、実際に大きな困難が伴います。

最後に強調したいのは、ミッションクリティカルなプロセスを完全に自動化するとき、エラーは一切許されないということです。残り 5% の誤差をゼロに近づけるには、95% の正解率を達成するまでに費やしたのと同等、あるいはそれ以上の労力が必要になります。航空会社のチャットボットが存在しない割引運賃を提示した例(*2)や、トレーニング会社の AI が高齢の応募者を差別した例(*3)など、“暴走 AI” のニュースは後を絶ちません。LLM は日々進化し透明性も高まっていますが、自社が「エッジケース」の落とし穴にはまり、未知のバグがブランドを傷つける事態を決して招いてはなりません。

多くのイノベーション現場では、いまだに “Move fast and break things(素早く動き、破壊せよ)” の精神が根強く残っています。しかし次世代のビジネス変革では、この考え方は適しません。消費者向けアプリを設計するなら多少の失敗も許されますが、融資審査や医療診断、物理的な作業の自動化といった分野で失敗は致命的です。テクノロジー変革が企業の中枢業務に及ぶなら、失敗の余地はありません。エッジケースを確実に処理し、常時モニタリングする仕組みが必要です。そのためには、高精度の維持、AIのドリフト(精度低下)を検知する能力、そして自動処理が停止した際にすぐ切り替わる「フェイルオーバー」体制の構築へ、相応の投資をする必要があります。

この種のエンジニアリング課題は、かつては高度に自動化された製造業や防衛研究所など、ごく一部に限られたものでした。しかし、「AI 時代」の変革を目指す企業は、こうした現実を正面から受け入れる必要があります。もし自社が取り組まなければ、競合が先に実現し、業界の経済構造を塗り替えてしまうかもしれません。Google の広告プラットフォームが広告業界の標準となり、Amazon.comのスケーラブルなITアーキテクチャがIT業界の事実上のインフラへと発展したように、先駆者が新たな業界基盤を築く可能性があります。取り残されるリスクは計り知れないのです。

3. GK Software:次世代の変革を体現するケーススタディ

ここでは、これまで語ってきた原則が実際にどう機能するのかを見ていきましょう。富士通グループの GK Software(以下、GK) は小売業界のリアルな課題を解決するために、幅広いテクノロジー・エコシステムを結集している好例です。GK の中核となるのはレジ業務、顧客エンゲージメント、店舗運営といったSaaS 型の小売向けテクノロジーです。同社はグローバルにビジネスを展開するリテール業者に35年以上にわたってこれらを提供し、市場をリードしてきました。

GK はPOSソリューションで築いた強みを土台に、AI、業務ワークフロー、各種センサー、IoTなどを統合した高度なソフトウェア群を小売り向けに展開し、リテールオペレーションに変革的なインパクトをもたらしています。

たとえばGKは、小売各社が既存セルフレジにAI機能を後付けし、手軽なコストで利便性を高められる選択肢を提供しています。大手小売業者にとって大きな課題の一つは、セルフレジ利用客が商品をスキャンし忘れたり、故意にスキャンしなかったりすることによる不正の防止です。従来、この課題に対応するためにはハードウェアを総入れ替えするか、監視スタッフを増員するかという多大なコストを覚悟せざるを得ませんでした。GKの「Vision」テクノロジーは、AIを既存のセルフレジに後付けで統合することを可能にし、コンピュータビジョン技術を活用して、全ての商品が正しくスキャンされているかを顧客および従業員が確認できるよう支援します。この後付け方式により、小売業者は新技術を効果的な価格帯で、かつスケーラブルに導入することが可能となり、今日の店舗運営に非常に適した、真の価値を持つソリューションが実現しました。さらに、年齢推定機能でアルコール販売時の店員の呼び出しを減らし、果物や野菜のような手入力が必要な商品を自動的に識別することで顧客体験も向上します。

上記のヒートマップを振り返ると、ここではUI、コンピュータビジョン(CV)、OCR、MLが一体となり、不正やロス防止というインパクトテーマを実現しているのです。重要な点として、このソリューションを実際の現場環境に展開する際に生じる運用上の課題についても綿密に検討し、対策を講じました。

もう1つの例は、GKの「価格最適化ソリューション」です。小売業にとって大きなコスト要因は、需要と供給の変動への対応、つまり「適切な在庫水準」を保つことにあります。過剰在庫は保管コストを押し上げ、在庫の年間価値の 30% に達することさえあります。一方、在庫が不足すると突発的な需要変化に対応できず、売り逃しだけでなく顧客の信頼を損なうリスクも高まります。例えば、突然の天候の変化でスーパーの商品構成が一気に変わる場面を想像してみてください。品切れは収益の逸失だけでなく、顧客ロイヤリティの低下にも直結します。

GKは、こうした課題を解決する価格最適化ソリューションを提供しています。需要と供給のギャップをなだらかにし、過剰在庫や在庫不足に伴うコストを削減できるのです。このテクノロジーは各商品の最適価格を算出し、店頭の棚にリアルタイムで反映します。ここでも在庫管理システム、ML、店舗内のスマートラベルといった複数のコンポーネントが連携し、価格最適化というインパクトテーマを実現しています。

実際、このソリューションは 50 万点を超える SKU (Stock Keeping Unit、在庫管理の最小品目単位)の日次価格計算を処理し、多くのケースで売上を 3〜5% 向上させています。

こうした機能は顧客接点や物理的なフロントエンド、店舗での体験から、バックエンドの基幹システム、物流、そして小売業者のサプライチェーンにまで広くまたがっています。富士通は、AI 活用基盤、サイバーセキュリティ、マネージドサービス、プラットフォーム構成、継続的なイノベーションなど様々なテクノロジーによってGKのソリューションを強力に補完しています。

AI は確かに画期的なテクノロジーですが、ソリューションの中心ではなく構成要素の一つにすぎません。これらの例は、たくさんの PoC(概念実証)を乱立させるのではなく、AI をビジネスのコアプロセスに深く統合することで真の力が発揮されることを示しています。

今後私たちはこの基盤をさらに拡張し、AI で強化されたワークフロー管理、コンテンツ最適化、LLM トレーニングサービスを提供していきます。GK と富士通の力を結集し、現代の小売業向けのためのエンドツーエンド型インテリジェントデジタルプラットフォームを構築しています。

4. 正しい意思決定を下すために

ここまでで、必要なテクノロジーの全体像と、それらを活かしてインパクトを生み出すために求められる要件をご理解いただけたかと思います。これにより、どの機会をどう選び、どう優先順位を付けるべきかを判断する土台が整いました。それでもなお、明確なビジョンを掲げたとしても正しい選択を下すのは容易ではありません。より良い意思決定と賢明な投資を導くために、念頭に置くべき3つの視点、「関連性」「実現性」「実用性」についてまとめましょう。

関連性があるか? - 重要なビジネス課題に対処しているか?

イノベーションを考えるときは、テクノロジー起点の発想を持ちつつ、ありたいビジネスを実現するにはどんなテクノロジーを実装すればいいか、という視点を重視しましょう。まずは、AI時代に自社のコスト構造、製品・サービス、顧客価値がどのように書き換わるのかを時間をかけて構想し、議論してください。

注力するのは“大きな課題”であるべきです。インパクトの大きいソリューションは、それだけ多大な労力を要します。投資に見合うテーマに集中することが肝心です。総花的なアプローチでは、多くが結実しないまま終わるでしょう。ゲームチェンジを起こし得る 5~10 件のソリューションを見極め、優先順位を付けて取り組んでください。もちろん、小規模なPoCやパイロットテストから始めるのも有効ですが、初めに大きな成果目標をしっかりと定めておく必要があります。

現実的か? - そのソリューションを経済的に提供できるか?

アイデアを出す段階では、理論上はできるかもしれないという議論に陥らないよう注意しましょう。「可能性にとどまる」ソリューションを追いかけるあまり迷走する例を、私たちは数多く見てきました。注目すべきは「実行可能な」ソリューションです。選択肢を検討する際には、実際にソリューションを提供するのに必要なコストや時間、人材を具体的に見積もり、ビジネスの知見とテクニカルな知見を組み合わせて現実的に評価してください。

優先順位を付けるうえでは、市場投入までに何が求められるかを予測する必要があります。エッジケースや想定外の事象がソリューションを台無しにする可能性はないか。タイムラインとコスト構造は許容できる ROI をもたらすか。導入後の保守運用はどうするのか。アップデートや改修にかかる負荷を事前に見込んでおくことが、長期的な成功のカギとなります。そしてこれを達成するには、新しいプロセスやシステムを継続的に革新できる文化的な基盤を組織内に根付かせることが不可欠です。

実用的か? - 組織はそのソリューションに適応できるか?

新しいソリューションには、現場の従業員も IT チームも顧客も、全てのステークホルダーが抵抗なく関わり、進んで利用できる必要があります。そのため、直感的なデザインやトレーニング、チェンジマネジメントはテクノロジーと同じくらい重要です。例えば、デザイン思考を取り入れて顧客やユーザーにとって魅力的な体験を設計することは成功の重要な要因になります。

ただし、ソリューションの導入と運用が容易であることも欠かせません。テクノロジー導入に伴い役割は変化しますが、その変化は現実的に達成可能でなければなりません。もしソリューションが複雑すぎて学習や運用が難しいようでは、従業員を新しい役割に適応させるのに苦労するでしょう。システムが脆弱でサポート窓口への問い合わせが頻発する、あるいは高価な部品の再設定や交換が頻繁に必要となるようでは、想定した価値を得ることはできません。

最後に、人の感情を置き去りにしないでください。最終的にソリューションの成否を決めるのは、エンドユーザーである従業員、顧客、パートナーです。私たちは、ユーザーが採用を拒んだり変化を恐れたりしたためだけに頓挫した変革プログラムを数え切れないほど見てきました。反対意見を理解するためにも、ユーザーを早期に巻き込み、コミュニケーションに投資し、組織心理学を活用して導入の壁を乗り越えましょう。

5. リーダーへの提言

AI主導の変革で取るべき行動は、各社の現在地や成熟度によって異なります。とはいえ、成果を上げている企業には共通するステップがあります。最後にその要諦を整理します。

• 計画

まず経営陣は一歩引いた視点で、テクノロジー主導の変革が自社で果たす役割を明確に定義する必要があります。生産性向上、システム最適化、業界の変革という3つの視点から選択肢を洗い出します。そして潜在的なインパクト、組織的・技術的な実現性、競争上の重要度を基準に、取り組むべき施策に優先順位を付けます。30 件のボトムアップ施策を同時に走らせるよりも、3~5 件のインパクトが大きくサポート体制の整ったものに集中したほうが、より大きな価値を生み出します。

• 評価

現在進行中の取り組みを棚卸しし、稼働中のユースケース、保有するケイパビリティ、動員済みのスキルを可視化します。これらを優先順位と照らし合わせ、活用可能な施策と、終了または早期完了させるべき施策を見極めます。うまくいった点、うまくいかなかった点、そしてその理由を時間をかけて検証することが肝要です。得られた教訓は、正式なアプローチを策定する際に直面し得る課題を予見する良い指標となります。

• コミットメント

AI を活用して実際にビジネスインパクトを創出するには、経営陣の強力な後援と連携が欠かせません。多くの企業では AI プログラムをセンター・オブ・エクセレンス(CoE)に「アウトソース」していますが、技術に偏りすぎたり、組織変革を推進する権限を持たなかったりするケースが散見されます。一般的に、効果的なモデルは主に次の2つのモデルです。1つは、経営陣の強い後援があり、テクノロジーを事業の一領域へ集中的に適用する機能特化型の変革イニシアチブです。もう1つは、コスト削減や顧客満足度向上など特定のインパクト目標に沿って、複数の小規模施策を束ねる全社横断型の変革プログラムです。これらのモデルに絞り込むことで、技術的・組織的な複雑さを軽減し、変革を成功へ押し切る推進力を高められます。

• 実行

取り組むべきイニシアチブが定まったら、それを遂行できる体制を整えます。プログラムの予算を過小に設定したり、特に技術面において「人が役割の中で成長するだろう」と安易に考えたりしてはいけません。同種のプロジェクトを経験し、直面する課題を理解したうえで、組織内で長期的に機能するシステムを構築できる人材が必要です。実行するプログラムのモデルに応じて、適切なリーダーシップとガバナンスの枠組みを整備します。ビジネス部門と技術部門による共同リーダーシップのほか、財務部門と人事部門の関与も不可欠です。前述したように、最終ゴールはあらかじめ詳細まで描くべきですが、まずはスモールスタートし、検証、学習、スケールと段階的に進めることも問題ありません。技術面や組織面、財務面の柔軟性をプログラムに組み込み、迅速なフィードバックを得ることで、成功への道を最短で進むことができます。

私たちは、このイノベーションの時代がもたらす経済的インパクトは前例のない規模になると確信しています。ただし、その変革はこれまでの移行期とは様相が異なり、独自のチャンス、複雑性、リスクを乗りこなすための新たなスキルセットが欠かせません。こうしたスキルをいち早く身につけ自在に操れる企業こそが、この移行期を制し、業界の勝者として台頭する可能性を秘めています。

ジョシュとフィリップは、Uvance Wayfinders Americas のCo-CEO です。Uvance Wayfinders は富士通が設立した新しいコンサルティング事業で、AI 時代において企業が確かなインパクトを生み出すことを支援するために設計されました。ビジネスとテクノロジー双方の最適な専門性を結集し、機会を成果へと導く――それが私たちの使命です。新たな時代の変革への道を、共に拓きましょう。

Uvance Wayfinders
Consulting by Fujitsu

夜の海に架かる長い橋、車の光跡が伸びている。
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