目標を成果に変える: テクノロジーが可能にするネットポジティブな未来
Article | 2025年12月17日
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ビジネスの成功と、持続可能な社会への価値創出。この2つを両立することは可能でしょうか?これは、どの企業・組織にも共通するテーマです。
本稿では、環境に前向きな影響を与える「ネットポジティブ」の考え方と、それを実行可能なアクションに落とし込む様々なテクノロジーについて解説します。
ネットポジティブ思考:パーパスを成果に変える
企業活動の環境負荷をできるだけ軽くすると同時に、社会や地球環境にプラスの価値をもたらすよう転換させること。それが「ネットポジティブ」の考え方の中心です。企業が地球環境にダメージを与えたら、その分以上に貢献するアプローチとも言い換えることもできます。
地球温暖化や社会格差の拡大など、世界の不確実性が増す中で、サステナビリティは、企業にとって、もはやナイス・トゥ・ハブ=「できれば取り組めたらよいこと」ではありません。企業に不可欠な戦略であると同時に、ビジネス拡大の大きなチャンスでもあるのです。
富士通株式会社の西ヨーロッパサステナビリティサービス本部長のNathalie Struck(ナタリー・ストラック)は、「ネットポジティブは単なるキャンペーンではなく、もっと根本的な理念のようなものです」と話します。Struckは、ネットポジティブはイノベーションや成長機会を生み、企業を強靭化し、ビジネスモデルの再定義を促すきっかけになると主張します。
負荷の低減から価値の創造へ
富士通の「ネットポジティブ推進プログラム」は、ネットポジティブ思考の中心、地球への負荷の低減から価値創造への転換を推し進めようと、英国のThe Economist グループに所属する事業体Economist Impactに委託して開発したものです。
このプログラムは、調査レポートと評価ツールから構成されています。
● ネットポジティブインデックス調査レポート:17か国、1800人のビジネスリーダーへのアンケート調査をもとに、ネットポジティブの浸透度などを分析しました。
● ネットポジティブ評価ツール:自社のネットポジティブの成熟度を評価できるツールで、打ち手を考えるのに役立ちます。
調査では、企業が環境や社会問題に対して高い意識を持ちながらも、積極的な取り組みにはまだ踏み切れていない状況を明らかにしています。全体のネットポジティブ成熟度のスコアは100点中55点と、低めの水準にとどまっています。その一方で、ネットポジティブ的な取り組みを行っている企業では、成長性や収益性、投資家からの信用度を測る指標が高くなる傾向もわかりました。
Struckは「多くの企業が、サステナビリティを依然としてコンプライアンスの一部としか捉えていないことがうかがえます」と述べています。「ビジネスモデルの中にきちんと組み込んで初めて、サステナビリティ施策は創造性とイノベーションを生み出す触媒として機能し、変革が始まるのです」と強調しました。
目標とアクションをつなぐテクノロジー
多くのリーダーにとって、ネットポジティブは理想論に映るようです。もちろん重要なことは、目標をいかに実現するかという点です。富士通は、その答えはテクノロジーとデータ、そして人間の知見が交わる場所にあると考えています。
「富士通にとってテクノロジーは、効率化のためのツールにとどまらず、社会変革を進める力です」とStruckは述べています。「先進的なコンピューティングに行動科学と社会科学を組み合わせることで、企業が効果的かつ公正なシステムをつくるための支援をしています」
富士通が「コンバージング・テクノロジー」と呼ぶ技術は、ソーシャル・デジタルツインといった先進技術へとつながっています。ソーシャル・デジタルツインは、社会が様々な状況下でどのように振る舞うのかをシミュレーションするデジタルモデルです。
Struckは「ソーシャル・デジタルツインを使えば、エネルギーや交通に関する施策を導入する前に、影響の範囲や内容をあらかじめ予測することが可能です」と説明します。「見えない事象を可視化できる力といってもいいでしょう」
デジタルリハーサル:転ばぬ先の杖
ソーシャル・デジタルツインを基盤に、富士通はさらに、革新的な技術「デジタルリハーサル」を行っています。これにより、組織の意思決定者は施策を現実に導入する前に、デジタル上でシミュレーションし、最適化することが可能になりました。
例えば、気候変動対策の検証やサプライチェーンの再構築など、企業が自信を持って、構想を行動に移すのを支援します。
「デジタルリハーサルは、サステナビリティ施策を検証するフライトシミュレーターのようなものと考えてください。ビジネスのリーダーは、安全に実験を行い、結果を予測し、最適な機会を特定することで、持続可能な道を導き出すことができます」とStruckは説明しています。
ネットポジティブの実践
ネットポジティブなアプローチの効果は、すでに実際のプロジェクトでも証明されています。
AIを活用したサンゴ礁保護
富士通は国立研究開発法人海洋研究開発機構と共同で、海洋デジタルツインの一環として、AIと自律型無人潜水機を活用したサンゴ礁の精密な3次元形状データを取得しました。この取り組みでは、多様な生物のモニタリングや二酸化炭素吸収量の追跡が可能で、海洋保護や生態系の維持、気候変動対策などに貢献しています。
AI需要予測で店舗運営を効率化した飲食チェーン
飲食チェーン「丸亀製麺」などを運営する株式会社トリドールホールディングスと共同で、富士通はレジの売上・気象・販促データを学習し、全国800店舗の需要予測をAIで行うシステムを開発しました。これを用いて、人員配置の最適化を実現し、食品ロスの削減やエネルギー消費の抑制を目指しています。この事例は、効率化と成長の両立が可能であることを示しています。
ネットポジティブな未来へ向けて
調査からは、もう一点重要な示唆を得ることができます。今行動を起こし、ネットポジティブを経営に組み込んでいる企業こそが、次世代の持続可能なビジネスの未来を決定づける存在だということです。
「正しい考え方と適切なツールがあれば、ネットポジティブは理想ではなく、長期的な成功を導く実践的な道筋です。規模や業種に関わらず、あらゆる組織で持続可能な効果を生み出せることを知ってもらいたいです」と、Struckは強調していました。
次の手を打つ準備はできていますか?
あなたの組織は、目標を達成する手段を探していますか?
ぜひ「ネットポジティブ推進プログラム」から「ネットポジティブ評価ツール」にアクセスしてください。そして変革をリードするビジネスリーダーから、効果測定も可能な再生型の成長について、学びを得ていただけたらと思います。
ナタリー ストラック
富士通 西ヨーロッパ サステナビリティサービス本部長
富士通の西ヨーロッパサステナビリティサービス本部長として、サステナビリティ戦略を推進。デジタルイノベーションと測定可能な影響を結びつけることで、顧客の変革を支援。2023年よりドイツ・ミュンヘンを拠点に、組織が環境的および事業的価値を業務に統合できるよう、パーパスとイノベーションを駆動力としたサステナビリティサービスの開発を主導しています。
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