解説 Fujitsu Technology and Service Vision 2025(第2回) AIエージェントと共存する未来の職場と新たなリスクとは

Article | 2025年7月25日
この記事は約4分で読めます
AIによる変化はまだ始まったばかりで、自律的に動く「AIエージェント」が普及したときにビジネスは劇的に変わるだろうーー富士通は、この度発表したFujitsu Technology and Service Vision 2025の中で、人とAIエージェントが力を合わせて働くようになる未来像を提示しています。
しかし、AIが進化すると、社会の更なる分断や電力供給の不足など新しい問題にもつながることが懸念されています。本記事では、Fujitsu Technology and Service Vision 2025の中から、AIによって人がより創造的に働けるようになった社会とそのリスクについてご紹介します。ぜひ本編をダウンロードし、皆様が思い描いているビジョンと重ねてご覧いただければと思います。
※所属・役職は取材当時のものです
AIエージェントと共に働く未来の職場
舞台は近未来。架空の企業・バイオマテリアル社に勤務する Leeは、衣料の素材を開発しています。LeeにはAIエージェント(*1)のNovaがパートナーとしてアサインされています。Lee はNovaに特許調査や資料の表の制作を任せながら、新素材開発のプロジェクトを進めています。
富士通は、テクノロジーによって私たちのビジネスや社会がどのように発展したかを描くストーリーを、毎年 Fujitsu Technology and Service Vision として発表しています。今年度版のFujitsu Technology and Service Vision 2025(以下、FT&SV 2025)では、進化したAIがどのように人の働き方を変えているのか、Leeたちバイオマテリアル社の社員の姿を通して描いています。
「AIは使いやすくなりましたが、まだ人が活用する道具にとどまっています」とAI技術の現在地を解説するのは、FT&SV 2025の策定をリードした富士通技術戦略本部テクノロジーマーケティング戦略統括部の西川博シニアディレクターです。
「FT&SV 2025 では、AI が、私たちのバディ、またはもうひとりの自分=Another Me(アナザーミー)として進化した社会を描きました」
Leeの業務パートナーとして登場するAIエージェントNovaは、予め定めたルール内という条件の中ではありますが、自律的に情報を収集・分析し、次のアクションを判断して実行することができるシステムです。
いま、様々な企業がAIエージェントの開発に取り組んでいます。富士通は、ミーティングで議論されている内容から自律的に関連情報を提案できる会議支援AIエージェントや、法務文書を分析してデータベースを作り、リスクを指摘できる法務支援AIエージェントを開発しています。
「自律的に動けるAIはまだ多くありません」と西川は指摘します。「しかし将来、AIエージェントは『これやって』と言うだけで、自ら情報を分析して次の手順を提案してくれるようになるでしょう。さらに、AI同士が連携できるようになると考えています。私たちは、肩代わりできる仕事はAIエージェントに任せて、人の創造性を発揮できる仕事に集中できるようになります。大きく変わる働き方をイメージして貰うためにLeeとNovaたちのストーリーを考えました」
(*1)AIエージェント:大規模言語モデル、推論モデルや機械学習などのAI技術を使用して、ユーザーに代わって自律的に意思決定やタスクまたはワークフローを実行するシステム

AIの進化がもたらす負の側面
しかし、AIの急速な進化に対し、根強い不安があることも明らかになっています。
富士通はFT&SV 2025にあわせて2025年2月、15か国800人の経営者を対象にアンケート調査を実施しました。(*2)
調査では、経営者の68パーセントが、「AIが生み出す偽情報やバイアスによって社会の分断が加速する」と回答しました。また、69パーセントが、AIの普及で電力消費が拡大して、気候変動に悪い影響を及ぼすことを懸念していました。
「AIに対する関心の高さの背景には、人の仕事が奪われるとか既存のビジネスが失われることへの強い危機感があります。FT&SV 2025ではテクノロジー企業として、AIがもたらすバラ色の未来だけではなくネガティブな側面についてもしっかりと伝える必要があると考えました」と西川。
(*2)調査は富士通が米調査会社Frost & Sullivan に委託し実施

AIが使うデータセンターの消費電力について、国際エネルギー機関(International Energy Agency)が行った試算によりますと、Googleのような検索ツールにAIを全面的に導入した場合、必要な電力は10倍になる可能性があるということです。(*3)
これは、OpenAI社のChatGPTの1リクエストあたりの電力需要を2.9Whとして、毎日90億回のリクエストが実行されると仮定したもので、Google検索(平均電力需要0.3Wh)に比べ、年間で約10TWhの追加電力が必要となる計算です。
リスク対応で新たなビジネス機会も
一方で西川は、新しい社会課題に向き合い解決しようとすることは、新しい市場機会にもつながると指摘します。
「AIが消費する電力を抑えるために、高性能で低消費電力の商品を開発することは、今後ますます重要になるでしょう。富士通は消費電力が低いCPUや、GPUの使用効率を高める技術などの開発に取り組んでいます。皆さまには、当社が丁寧にリスクに対応しようとしていることも知っていただき、より安心してAIを使っていただければと思います」(西川)

FT&SV 2025の中で、登場人物たちは植物を原料とするバイオマス素材の開発に挑戦しています。しかし、その開発には植物の栽培やリサイクルの仕組みを含むエコシステムの構築が欠かせません。このエコシステムには生産者や物流業者、エネルギー企業、研究機関などが、AIエージェントの仲介で産業の枠を超えて参加し、互いのデータやAIリソースを共有しています。
このような未来のビジョンについて、西川は「テクノロジーが豊かな未来を作っていくという富士通のメッセージは変わりません」と話します。「FT&SV 2025を、皆さまの企業のパーパスやゴールの実現に向け、アクションを検討する一助にしていただければ幸いです」(西川)
Fujitsu Technology and Service Vision は、ネットポジティブ(=企業が社会に与えるネガティブなインパクトよりポジティブなインパクトが大きい状態)な社会を目指す中で、AIによって企業や一人ひとりの働き方がどのように変化するか考察しています。2025年度のFujitsu Technology and Service Visionをぜひ、こちらからダウンロードください。
(*3) International Energy Agency. “Electricity 2024: Analysis and forecast to 2026”. Revised version, January and May 2024. https://iea.blob.core.windows.net/assets/18f3ed24-4b26-4c83-a3d2-8a1be51c8cc8/Electricity2024-Analysisandforecastto2026.pdf.
西川 博
Hiroshi Nishikawa
富士通株式会社 技術戦略本部
テクノロジーマーケティング戦略統括部
シニアディレクター
富士通入社後、通信装置開発、サーバー製品のグローバルアライアンス、M&Aを通じた欧州ビジネス拡大に従事した後、2014年より富士通のテクノロジービジョンの制作をリード。Stephen M. Ross School of Business MBA、大阪大学 理学研究科 物理学専攻修士。


関連コンテンツ
Fujitsu Technology and Service Vision




AIエージェントがある世界で富士通×マイクロソフトがもたらす価値


