日本航空 客室乗務員のレポート作成業務を効率化する生成AIアプリの実証実験を実施
AIエージェントがある世界で富士通×マイクロソフトがもたらす価値

Report | 2025年5月26日
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富士通とマイクロソフトが連携し、日本航空(JAL)の客室乗務員向けに生成AIを活用した業務アプリ「JAL-AI Report」の実証実験を実施。生成AIソリューションが既存アプリと比較してレポート作成業務を効率化し、作業時間を短縮することを確認しました。本記事では、生成AIソリューションやAIエージェントの定義や富士通が描く将来像、そして両社の協業が顧客企業にもたらす価値について解説します。
JAL客室乗務員のレポート作成業務を効率化する生成AIアプリを開発
マイクロソフトの会長 兼 最高責任者(CEO)であるサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏が来日・登壇した「Microsoft AI Tour」(2025年3月27日に東京ビッグサイトで開催)の基調講演で、富士通が開発に関わったJAL様の客室乗務員向け業務アプリ「JAL-AI Report」が紹介されました。このアプリは客室乗務員が搭乗中の機内で発生した出来事を地上スタッフに引き継ぐためのレポート作成業務を生成AIで支援するものです。キーワードやフレーズを入力し、いくつかのチェックボックスを選択するだけで引継ぎレポートを生成できます。飛行中の機内で利用するために、オフライン環境で動作するオンデバイス型・エッジ型・オンプレミス型での提供を目指しています。
富士通は、AIソリューション事業を手掛けるヘッドウォータース社と共に、「JAL-AI Report」アプリの開発を行いました。生成AIの実装にあたっては、クラウド環境へのアクセスが必要となる従来の大規模言語モデル(LLM)に代わり、オフライン環境での性能に強みを持つ小規模言語モデル(SLM)であるマイクロソフトの「Phi(ファイ)」を活用。JAL様の過去のレポートをもとに客室乗務員の業務に特化したモデルにファインチューニングしています。プロトタイプの検証の結果、生成されたレポートの文章は、JAL様の業務用語が学習された自然な表現であることが確認できました。実証実験により、このアプリを使うことでレポート作成時間と修正発生率の削減を確認できたとのことです。
対談:AIエージェントは“新入社員”のような存在
サティア氏が登壇した基調講演に続くブレイクアウトセッションでは、富士通 Digital Shifts事業部DTXグループグループ長の高林陽介、日本マイクロソフト Data & AI Specialists Managerの巴山儀彦氏が、JAL様の業務アプリ開発に触れながら、富士通とマイクロソフトが描く生成AIソリューションやAIエージェントの将来像、および両社の連携が顧客企業や仕事の在り方にもたらす価値について対談を行いました。

生成AIの利用が拡大し、さらに最近では生成AIモデルを使って自律的にタスクをこなすAIエージェントが登場し、注目されています。現時点で、AIエージェントには様々な定義や解釈がありますが、 巴山 氏は、「自分の代理で、自分の望んでいることを自律的に実行してくれる存在。その指示が自然言語でできるもの」と説明しました。

業務改善用途に焦点を絞ったときに富士通が考えるAIエージェントの将来像について、高林は、「様々な既存の業務システムにAIエージェントが入り“業務特化型AIエージェント”ができる。そして、1つのUIから複数の業務特化型AIエージェントを制御し、連動させて、複雑な業務が自律実行できるようになる」と説明しました。業務システム間の連動には、各システムで扱うデータの連携が伴いますが、AIエージェントによって、システムとデータの制御が1つのUIからできるようになっていくと高林は展望します。

では、自分の代理で業務を自律実行するAIエージェントの技術が進んだ先、人の仕事の在り方はどう変わっていくのでしょうか。高林は、「AIのプロンプトエンジニアリングが人間の仕事になり、人間は後ろにひかえて、アバターが仕事をする世界になるのでは」と述べました。これに対して 巴山 氏は、「AIのプロンプトエンジニアリングは人の育成と同じ。現時点で、職場でのAIエージェントは“新入社員”のような存在だ。社員みんなで業務知識やノウハウを与えて、何か問題が起こったら立ち止まって一緒に解決策を考えてあげなければいけない」と言います。両名の共通見解は、「AIエージェントの登場によって、仕事の固定概念を変える必要がある」という点です。組織にたくさんの新入社員がきた場合と同様に、これまで自分がやるべきだと考えていた業務をどんどんAIエージェントにまかせていく、仕事をまかせられるように育成していく必要があると 巴山 氏・高林は述べました。
富士通×マイクロソフトが生む価値とは
JAL様の生成AI業務アプリの事例では、Azureを基盤に、マイクロソフトが提供するSLMの最新版「Phi-4/Phi-4-mini」を使って富士通が実証、開発を行いました。富士通×マイクロソフトが顧客企業にもたらす価値について、巴山氏は、「マイクロソフトのミッションはあらゆる組織と個人をエンパワーすることで、AI領域でも汎用に強みがある。一方、富士通は業務特化型のAIに強い。(2社が連携することで)補完しあい、顧客に様々な選択肢を提供できる」と語りました。
高林は、AIやAIエージェント領域での富士通の強みについて、「日本語性能に長けたエンタープライズ向けLLMのTakane、各社のLLM、Fujitsu KozuchiのAIエンジン群を組み合わせてAIエージェントを作ることができる」ことを挙げました。マイクロソフトと組むことで、JAL様の事例同様、顧客企業の要望に応じてクラウド、オンプレイス、エッジなど多様なインフラ環境が選択できることがマイクロソフトと組む価値の1つだとしました。
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