AIと創るネットポジティブなリーダーシップとは

ユニリーバ元CEOポール・ポールマン氏と、富士通の習田晋一郎、ラウラ・ボナミッチ

Article | 2026年1月27日

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組織のリーダーに求められる資質は、この数年で大きく変わりました。テクノロジーの進化に加え、地球規模でさまざまな課題が深刻化する中で、これまで常識とされていた手法では十分に対応できなくなっています。こうした中で大きな期待を集めているのが人工知能(AI)です。これからのリーダーには、パーパス志向に加え、AIなど新しい技術の力を最大限に引き出す力が必要といえるでしょう。

2026年1月、富士通が主催した対談においても「AI時代におけるリーダーのあり方」は大きなテーマとなりました。対談の参加者は、世界有数の消費財メーカー、ユニリーバの元CEOで、『Net Positiveネットポジティブ「与える>奪う」で地球に貢献する会社』の共著者Paul Polman(ポール・ポールマン)氏と、富士通のコンサルティング部門Uvance WayfindersのGlobal CEO & Senior Managing Partnerの習田晋一郎です。進行は、同社SVP & Global Head of Marketing、Laura Bonamici(ラウラ・ボナミッチ)が務めました。

パーパスとテクノロジーをいかに共鳴させ、アイデアを具体的な成果へと結びつけるか。そして、ビジネスの新しい潮流「ネットポジティブ」思考とAI変革をどのように両立させるべきかといった点などについて、意見が交わされました。本稿では、当日の議論の一部をご紹介します。

新しいビジネス潮流・ネットポジティブ思考とは

対談はまず、ポールマン氏によるネットポジティブの定義から始まりました。
ネットポジティブとは、企業が社会的・環境的にプラスの影響を与えることを意味し、単にマイナスを減らすのではなく、地域社会や自然環境に対して回復力のある貢献をすることを目指します。

今日、社会課題や環境課題はかつてない規模に拡大し、企業は経営を根本から見直すよう求められています。ネットポジティブとはすなわち、与えるものの方が得たものよりも大きい状態です。その実現には、地域社会や雇用を強化し、自然を取り戻すと同時に、健全な経済を築くことが重要です。これらの取り組みは、ESG経営(*1)の枠内でただ「マイナスを減らす」ことにとどまりません。

株主至上主義から脱却し、ステークホルダー中心思考への転換が必要です。また、サステナビリティはコストではなく、人道的な投資機会として再定義せねばなりません。
このような文脈を踏まえ、AIについて、目標を具体的な成果へと変えるイネーブラー(推進役)である、と位置づけました。

Paul Polman(ポール・ポールマン)氏、ユニリーバ元CEO /『Net Positiveネットポジティブ「与える>奪う」で地球に貢献する会社』共著者
Paul Polman(ポール・ポールマン)氏、
ユニリーバ元CEO /『Net Positiveネットポジティブ「与える>奪う」で地球に貢献する会社』共著者
「守り」から「攻め」の経営へ。世界の企業が直面するネットポジティブのリアル

ポールマン氏が指摘するネットポジティブの重要性は、現代の企業経営において避けて通れないテーマです。富士通は、ネットポジティブな未来への実践的な指針を示すため、Economist Impact社と協力し、17カ国1,800名以上の経営幹部を対象とした「ネットポジティブインデックス調査レポート」を作成しました。この調査で明らかになったのは、ネットポジティブの概念が浸透しつつある一方で、その実現にはまだ大きな道のりがあるという現状です。

同調査によると、ネットポジティブの平均スコアは100点満点中わずか55点にとどまり、いまだ多くの企業がサステナビリティの取り組みを「マイナスを減らす」守りの姿勢で捉えていることが浮き彫りになりました。財務目標とサステナビリティ目標を同等に考慮している企業はわずか4%に過ぎず、両者の両立は難しいという考えが依然として根強いことが示されています。

しかし、ネットポジティブは、財務的な成功を犠牲にすることなく、むしろサステナビリティ目標の達成と投資家の信頼向上につながる可能性を秘めています。そして、この変革を加速させる鍵となるのがテクノロジーの活用です。調査では、AIやデータマネジメントシステムなどのテクノロジーを積極的に活用している企業ほど、収益・利益目標を上回るパフォーマンスを達成していることが示されています。

サステナビリティを単なるコストではなく、成長と変革の機会と捉え、AIをはじめとするテクノロジーを戦略的に導入することで、企業は財務的価値と社会的価値の双方を最大化する「ネットポジティブ」の実現に向けた次なる一歩を踏み出せるはずです。

AIが目的を測定可能な成果へ変換

続いて習田が、AIがネットポジティブの推進にどのように貢献できるかについて見解を示しました。まず言及したのが、少量のエネルギーで高い性能を発揮する革新的なプロセッサ「FUJITSU-MONAKA」(*2)です。

さらに、アイデアを具体的な結果へ導くプロセスをAIがどのように加速できるのかについても説明しました。今後AIエージェントの進化によって仕事のあり方が変わると、人間はルーティン業務から解放され、協働や創造、または複雑な課題解決により多くの時間を割けるようになるといいます。一方で課題は技術にあるのではなく、人間側にあるとも指摘。リーダーシップ、適応力、そして文化的な知性を備えているかどうかが最終的にはカギとなると述べました。

こうした変化を見据え、富士通のコンサルティング部門Uvance Wayfindersは顧客のAI導入だけでなく、測定可能な成果や投資効果を出せるようになるまで、エンド・ツー・エンドで支援すると強調しました。

富士通Uvance Wayfinders Global CEO & Senior Managing Partner 習田晋一郎
富士通Uvance Wayfinders Global CEO & Senior Managing Partner 習田晋一郎

ネットポジティブ導入の5ステップ

ポールマン氏は、AIは人や組織の力を飛躍的に高める、いわば「驚異的な増幅装置」となり得ると述べました。一方で、企業が正しい方向へ進むためには目標、すなわちパーパスが不可欠であるとも語りました。パーパスがあるからこそ、組織のリーダーは意思決定の透明性と勇気を持てるのだと指摘します。

そして、ユニリーバ時代に掲げたパーパス「サステナビリティを暮らしの“当たり前”に」というシンプルかつ野心的な目標が、どのように同社の経営を変えたか説明しました。ブランドは単なる製品ではなく、地球規模の課題に取り組むためのプラットフォームへと進化したのです。
そして、変化につなげるための5つのステップを紹介しました:

• 長期的なコミットメント:自らが関与したすべての結果の責任を負う姿勢。
• 関連領域の見極め:企業がポジティブな変化をもたらせる領域を見つけ出し、どこで影響力を発揮できるかの明確化。
• 科学的根拠に基づく目標設定:パリ協定などの枠組みに沿って、具体的で測定可能な目標を設定。
• 強力なパートナーシップの構築:協力関係を広げ、進歩を加速。
• 信頼の獲得:透明性や説明責任、継続的なフィードバックを通じてステークホルダーとの信頼関係を構築。

こうした取り組みの結果、ユニリーバは高い株主還元率を実現すると同時に、世界で最も持続可能な企業のひとつとして知られるようになりました。ポールマン氏のメッセージは明確です。パーパスとサステナビリティを事業の中心に据え、組織のあらゆる機能と統合し、財務成績と結びつけることが重要である。そして、パートナーシップを通じて真の変革が力強く推進されるようになる、ということです。

習田は自らの経験から具体的な企業事例を紹介しました。その顧客は約100年の歴史がある日本企業で、サプライチェーンにおけるリスク対策の一環としてAIを導入しました。80以上のAIエージェントを活用し、納品率と品質を大きく向上させることに成功しました。この事例から習田は、パーパスを起点にAI活用が戦略を高度化し、成果に結びつくことを実感したと振り返ります。

ポールマン氏は習田の見解に同意したうえで、AIは明確なパーパスと強く結びついたときに驚くべき進歩を可能にすると強調しました。具体的には、複雑に絡み合うサプライヤーのネットワークを可視化し、人権に関するモニタリングを強化するとともに、ネットゼロへ向けた取り組みを加速させるといった効果を指摘しました。

人間中心のAI導入と富士通のエンド・ツー・エンドの取り組み

次に議論は、企業の目標から結果に至るエンド・ツー・エンドのプロセスに対し、AIがどのような効果を与えるかに移りました。ボナミッチは習田に、リーダーに備わる共感力が、各ステップにどのように影響するか尋ねました。

習田は、富士通が説明可能なAIやソブリンAIなどについて20年以上にわたり研究していて、信頼や責任、持続可能性を基盤とした技術の積み重ねがあることを強調。さらに、Uvance Wayfindersはそれまでのコンサルティングとは異なり、単なるアドバイスにとどまらず「始めたことは最後までやりきる」チームであることを強く訴えました。そして、顧客の戦略策定から定量的な投資対効果の測定までを実現し、AI導入に対する信頼の構築に伴走すると述べました。

ネットポジティブな未来へ向けた進化するリーダーシップ・マインドセット

最後に3人は、リーダーシップの資質について意見を交わしました。

ポールマン氏は、新型コロナの流行を振り返り、パーパス志向で多様なステークホルダーと向き合い、トップが人間性や謙虚さ、共感力、そして思いやりをリーダーシップとして発揮した組織ほど、いま優れた業績を上げていると指摘しました。そのうえで「技術だけではビジネスの道徳性を高めることはできない」として注意を促しました。一方でAIは、道徳的なリーダーシップを増幅する力があるとも述べます。今後の競争優位性は、データとパーパスを結びつけ、信頼を構築しつつ、ネットポジティブを追求する姿勢から生まれるのだと強調しました。

習田はポールマン氏の見解に同意し、現代のリーダーは、これまでにない厳しい試練に直面していると述べました。カギとなるのは共感力だと強調します。AIエージェントが業務を担うことが日常になる未来の社会では、文化的知性や好奇心、そして創造性がリーダーの欠かせない資質となるといいます。そうした社会では、人と人とが深いレベルで協働することが一層必要になります。また、レジリエンスの重要性にも触れ、AIは万能ではなく間違いを犯す存在だからこそ学習と改善を繰り返し、適応させる姿勢が欠かせないと述べています。こうしたリーダーシップとは、経営陣のみに求められるものではなく、組織でAIを利用するすべての人間にとって必要なものだとも指摘しました。

ボナミッチは、好奇心や創造性などの要素は、従来から「ソフトスキル」と呼ばれていたと指摘しました。そして、ネットポジティブとAIによる変革を同時に実現していくためには、これらのスキルが今後ますます重要になると述べました。さらに、組織のビジョンを成果へと導き、エンド・ツー・エンドで持続可能な変革を示すことこそが、これからのネットポジティブな未来に必要なリーダーのマインドセットではないか、と述べて対談を締めくくりました。

Laura Bonamici(ラウラ・ボナミッチ)、富士通SVP & Global Head of Marketing
Laura Bonamici(ラウラ・ボナミッチ)、 富士通SVP & Global Head of Marketing

富士通のネットポジティブへの取り組みは、いまや理念にとどまるものではなく、事業戦略の中核に位置付けられています。デジタルサービスを通じて、ネットポジティブな成果を実現するテクノロジー企業となるというビジョンのもと、富士通はネットポジティブの実現をめざし推進しています。未来には新しいリーダー像が求められています。パーパスと強力なテクノロジーを結びつけ、社会課題を成長と変革の機会へと変えて、ネットポジティブな世界を切り開くリーダーの存在が、これからの時代には不可欠といえるでしょう。

*1)ESG経営:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を取ったもので、企業が持続的に成長するためにこの3つの要素を考慮して経営や投資をする考え方
*2) FUJITSU-MONAKA:富士通が開発する次世代データセンター向けArmベースの省電力プロセッサ。2027年にリリースを予定。

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