机上の空論にさせない、経営の成熟度を評価する指標が登場 新時代のサステナビリティ経営 「ネットポジティブ」指標で持続可能な成長へ

未来都市のネットワーク

Report|2025年6月26日

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企業活動による「マイナスな影響」を減らすだけでなく、社会や環境に対して積極的に「プラスの影響」を与えることを目指す「ネットポジティブ」という考え方が注目されています。企業がネットポジティブを追求することは、ビジネスと社会・環境の両面にメリットをもたらします。富士通は英エコノミストと共同で、企業のネットポジティブ成熟度を評価する「ネットポジティブインデックス」を開発し、調査結果を公表しました。

※本コンテンツは日経新聞電子版で掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。

企業は事業成長と気候変動対策を両立できるのか――。気候変動や地政学的なリスク、グローバルなビジネス環境など、数々の不確実性に直面する現代。企業が成長していくためには、人と地球に対してポジティブで持続的な価値を生み出す経済活動が重要になる。そこでクローズアップされるのが、事業活動を通じて環境や社会にプラスの影響を与える「ネットポジティブ」の考え方である。とはいえネットポジティブに関して、これまでは明確な指標が存在せず、進行度合いを可視化する難しさに課題があった。そこで、富士通と英国の調査会社が共同で「ネットポジティブインデックス」というネットポジティブ成熟度を評価する指標を開発しました。新時代の評価軸であるネットポジティブの重要性と待たれていた指標について具体的な内容を紹介します。

“不確実性”の時代だからこそ
クローズアップされる「ネットポジティブ」

現在、世界の状況は不確実性が際立っている。世界規模で気候変動への対応を進める傍ら、国家間の紛争や国益、経済成長を最優先する動きもある。例えば、米国の金融機関は相次ぎ「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」(*1)から脱退。日本勢もその動きに追従しつつある。

しかし、その一方で欧州を中心にサステナビリティを重視する考え方は依然として根強い。世界経済フォーラム(本部・スイス)は24年12月、「気候変動リスクへの対応に遅れをとった企業は、35年までに年間収益の最大7%が消失する可能性がある」というリポート(*2)を発表して話題になった。

事業成長なのかサステナビリティなのか。迷いを感じる世界状況だからこそ、重要視すべきなのが「ネットポジティブ」という考え方だ。

(*1)国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が発足させた国際的な金融機関連合。2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロとすることを目標にしている。

(*2)https://reports.weforum.org/docs/WEF_Business_on_the_Edge_2024.pdf

「マイナスを減らす」から
企業にも環境にも「プラスを生み出す」へ

「ネットポジティブ」とは、企業活動を環境負荷の軽減にとどめず、さらに社会や地球環境にプラスの影響をもたらす状態まで転換させることを指す。従来の「カーボンニュートラル」や「ゼロエミッション」では、企業活動として環境負荷を最小限に抑えることが目標だった。ネットポジティブではそれを一歩進め、企業の存在そのものが社会や環境に良い影響を与えることを求める概念である。

ネットポジティブの実現には、業界内外のステークホルダーによるリーダーシップや連携を通じた既存の概念、優先課題の見直しが欠かせない。収益と社会的責任の両方を追求する民間企業こそが、ネットポジティブの積極的なけん引役になる必要がある。

もちろん企業の持続可能な成長力にも関連する。既に国内でもネットポジティブへの取り組みを進める企業も出始めている。

中央に「ネットポジティブ」と書かれた図。周囲には「社会全体」「従業員」「バリューチェーンのステークホルダー」「顧客」「地域コミュニティ」のアイコンが配置され、それぞれが点線で結ばれている。
ネットポジティブなアプローチが社会全体に及ぼす影響

富士通では、企業ビジョンとして「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」ことを掲げている。その実現に向けて現在は、環境、デジタル社会の発展、ウェルビーイングへのポジティブなインパクトの創出を目指して、取り組みの実績を着実に積み上げつつある。

その代表例が、サプライチェーンにおける気候変動への取り組みである。2040年までにバリューチェーン全体で温室効果ガスの排出量をネットゼロにすることを目指す富士通は、科学的知見から温室効果ガス排出量の削減目標を定める国際イニシアチブ「SBTi」のネットゼロ認定を取得済みである。財務・非財務の両面からFactに基づいた最適なESG経営を実現する「Fujitsu Uvance」のオファリング「ESG Management Platform」を活用。製品の製造時に発生する総温室効果ガス排出量である製品カーボンフットプリント(PCF)を計算している。PACTとGreen x Digital コンソーシアムの方法論を活用している本取り組みでは、材料の取得、調達の輸送・保管、前処理、生産の範囲がPCFに含まれる。

国内外のサプライヤー12社と連携し
Scope3の可視化・連携を実現

気候変動対策では、自社だけでなくサプライチェーン全体におけるCO2排出量削減が世界共通の課題といえる。自社の活動に関連する他社のCO2排出量(Scope3)のうち、サプライヤーからの原材料の調達(Scope3カテゴリ1)を削減するためには、サプライヤーが製造時の省エネや再エネ導入などの努力が反映できるようにすることが大事で、そのような一次データを活用したPCFの企業間のデータ連携が必要不可欠となる。富士通は主要取引先にデータ連携への協力を要請し、2024年に国内外のサプライヤー12社との連携を実現している。

2023年には、「持続可能な開発のための世界経済人会議」(WBCSD)のPACT Network(以前のPathfinder Network)に準拠した技術仕様書(*3)に準拠した世界初の社会実装を行った。正確な排出量を可視化し、2024年には、具体的な施策立案につなげるよう取り組みを拡大している。データ化・可視化・連携が難しいとされてきた気候変動対応において、富士通の取り組みはグローバルでも先進的な成功事例となっている。

(*3)ソリューションの相互運用性に基づいた、企業間での排出量データの機密かつ安全なデータ交換のための国際的な技術仕様書。本技術仕様書に適合したソリューションは、PACT準拠ソリューションとして認定される。

「ネットポジティブインデックス」を開発
調査リポートによって現状と課題が明確に

「ネットポジティブ」を進めている富士通では、2025年2月には英エコノミスト・グループの調査事業であるEconomist Impactと共同で、これまでになかった業種・地域ごとのネットポジティブ成熟度を評価する指標「ネットポジティブインデックス」を開発。このインデックスに基づく調査結果をまとめたリポート(サマリー)を公表した。

リポートでは、世界17カ国1800人以上のCxO及び意思決定者層を対象に、ネットポジティブに関する成熟度を分析している。この中の分析で、インデックス調査で高スコアを獲得した企業は収益と利益、市場シェアそれぞれの目標の達成見込みが高く、投資家の信頼やサステナビリティに関して自社の目標値を上回る傾向にあることが分かった。

その一方で大きな課題も浮かび上がっている。調査対象となった企業の53%が、サステナビリティの取り組みと他の優先事項との両立が課題だとしており、実際に財務目標と社会・環境目標の価値を同等に扱うとしている企業は4%にとどまる。また、サプライヤーの労働慣行といったサプライヤー関連に課題を感じている企業は64%に上っている。

円グラフで「53%」と表示。グラフの右側には「53%企業が、サステナビリティの取り組みと他のビジネス優先事項の両立を課題と考えている」というテキストがある。
サステナビリティの取り組みとビジネス上の優先事項の両立

ネットポジティブインデックスは評価・コミット・実行・推進の4項目において対象企業の成熟度をスコア化しており、今回のリポートにおける平均スコアは100点満点中55点だった。富士通では「ネットポジティブに関する基盤構築のために、まずは現在の取り組みを客観的に評価し、マインドセットを変えていく必要がある」と考え、ネットポジティブ評価ツールをウェブ上に公開している(*4)。自社のスタート地点を把握するために有意義な指標となろう。

(*4)https://impact.economist.com/ja/projects/advancing-net-positive/assessment-tool

4つの表と1つのリストで構成された画像。表はそれぞれ「1. 現在の影響と取り組み状況の評価」「2. ネットポジティブに向けた具体的な目標・計画の策定」「3. ネットポジティブな行動の実行」「4. ネットポジティブをさらに推進する取り組み」というタイトルを持ち、全業界の平均スコアと、小売業、エネルギー・社会インフラ、製造業、モビリティ(運輸)、金融サービスのスコアが記載されている。リストは「業種別スコア」と「地域別スコア」のリストで、それぞれ業種と地域ごとのスコアが記載されている。
ネットポジティブインデックスのスコア データ構築・分析はEconomist Impactが実施

インパクト志向が強い企業ほど
財務パフォーマンスも優れる傾向も

リポートでは、AIやデータマネジメントシステムなどのテクノロジーを活用する企業は、収益目標を上回る傾向があることも分かった。また、高スコアを獲得した企業の多くは、データ収集が社会・環境面の負の影響軽減に「大いに役立った」と回答。「データ収集がネットポジティブ推進に大いに役立った」「ある程度役立った」と答えた割合は75%を超えた。

つまり、データとテクノロジーを上手に活用すれば、事業成長と持続可能な社会の実現を両立することは十分に可能と判断できる。こうした考えが広く浸透するには、今後多く生まれるだろう成功例を待つことになるが、現状でも明示できる事実はある。

その一例が、金融庁が発表したディスカッションペーパーである。この中で企業の「パーパス」(存在意義)に着目したモデルを用いて分析したところ、例外はあるものの全体の傾向としてインパクト志向が強い企業ほど、財務パフォーマンスも優れる傾向にあると指摘している(*5)。

(*5)金融庁金融研究センター「インパクト創出と企業価値向上は両立するのか―事例調査とパーパスの内容分析に基づく実証分析の両面から―」(2023年8月)
https://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2023/DP2023-3.pdf

データとAIを駆使してビジネス成長と
社会課題の解決に挑む事業モデル「Fujitsu Uvance」

また、サステナビリティ投資の観点では、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」において「インパクトを含む非財務的要素を考慮することは、ESGの考慮と同様、『他事考慮』に当たらない」と明記したことも追い風になる(*6)。つまり、投資の際にインパクトを考慮することが金銭的リターンと関係ない「他事」ではなく、収益の向上という本来の目的にかなうと解釈してよいのではないかと提唱しているのだ。公的年金も最終的な投資収益の向上のために、インパクトを明確に考慮するようになり、サステナビリティ経営を重視する企業に対する今後の投融資の拡大が期待できるだろう。

現在のサステナビリティ経営について、富士通は理念から実践への過渡期にあると捉え、事業成長と社会・環境への貢献は必ず両立できると考えている。グループ全体で蓄積した知見やノウハウを顧客や社会への提供価値に転換。財務・非財務指標の関係性分析の可視化などをはじめとした実績を、顧客のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に役立てていく。

具体的には、ネットポジティブインデックス調査で得たデータと知見をもとに課題抽出や改善案の立案を実施し、個々の顧客企業の現状とゴールに寄り添う形でソリューションを提案していく。その柱として、データとAIを最大限に駆使してビジネス成長と社会課題の解決に挑む事業モデル「Fujitsu Uvance」にも注目したい。

テクノロジーをベースにサステナビリティ経営を強力に進める富士通。その知見を自社で活用する最初のステップとして、新たに公開したネットポジティブ評価ツールをぜひお試しください。

(*6)新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2024.pdf

※著作・制作 日本経済新聞社 (2025年3月日経電子版広告特集)。 記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

ネットポジティブインデックス調査リポートサマリー

Economist Impactと共同開発した5つの業界におけるネットポジティブの進捗を分析するネットポジティブインデックス調査レポートを基に、その主要な洞察を紹介するエグゼクティブ・サマリーです。企業の課題や成功要因を明らかにし、成長と社会貢献を両立する道筋を示します。

ネットポジティブインデックス調査レポートのサムネイル
ネットポジティブインデックス調査レポートのサムネイル

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