【CES2026】フィジカルAI時代の到来、企業は“何に取り組まない”べきか

左から西村 真里子氏、田中 道昭氏、塩沢 賢輔

Report | 2026年2月17日

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世界最大規模のテクノロジーイベント「CES2026」が、2026年1月6日から9日にかけて米国ラスベガスで開催されました。富士通では、毎年CESをウォッチしている2人のエキスパートを招き、今年のCESから見えてきた技術トレンドを紹介するトークイベントを実施しました。

現実世界で動くAIは仮想世界でのデータ生成が前提

はじめに、日本工業大学大学院の田中道昭教授が、今年のCESで特に注目したトピックを解説しました。

基調講演でエヌビディアが提示したメッセージ“AI Scales Beyond LLMs”に象徴されるように、AIの産業競争の場が言語モデルから現実世界へ移行し、「“フィジカルAI”の時代が到来した」と田中教授は今年のCESを振り返ります。

フィジカルAIとは、現実世界を理解し、その中で判断し、行動するAIです。自律的に動くロボットや、交差点を判断する自動運転車、工場で複数の設備が協調動作するシステムなど、実体を持った高度な知能として人間の生活する世界で動作します。エヌビディアは今回、フィジカルAIのOSとして、「World Foundation Model(WFM、世界基盤モデル)」を打ち出しました。WFMは、現実世界でなにが起きているか、次に何が起こり得るかを理解・予測するAIです。今後のトレンドとして、ロボットも自動運転車も、フィジカルAIの実体はそれぞれが専用のAIを持って進化していくのではなく、1つのWFMに接続されると田中教授は説明しました。

実際に動いたりモノを動かしたりするフィジカルAIは、一度の判断が取り返しのつかない結果を生む可能性があります。そのため、AIが認識してから反応するだけではなく、行動する前に結果を想像できる知能が求められます。WFMの肝は、現実世界のデジタルツインを構築し、仮想世界でのシミュレーションからデータを生成して、現実世界で動作するフィジカルAIに反映するところにあります。「“計算がデータになる”という順序。条件からデータを生成し、仮想世界で先に判断をしてから現実世界に入力する」(田中教授)。

すでに、産業への実装が始まっています。シーメンスは、WFMの産業応用を担う企業としてエヌビディアと提携。工場や倉庫など止められない産業において、AIが仮想空間で先行して学習した結果を現実世界のフィジカルAIへ反映する機能などを提供することを発表しました。飲料・食品メーカーのペプシコがエヌビディア×シーメンスによる産業向けフィジカルAIの仕組みを採用し、実際の工場・倉庫・物流を常時デジタルツインとして再現してAIによる意思決定を仮想空間側に先行させる取り組みを開始しています。

14年ぶりの出展、富士通がCESで見せたもの

第2部では、株式会社HEART CATCH 代表取締役 プロデューサー 西村真里子氏の進行のもと、田中教授、富士通株式会社 技術戦略本部 シニアマネージャー 塩沢賢輔の3人によるパネルディスカッションが行われました。

左からファシリテーターの西村氏、田中教授、塩沢シニアマネージャーの3人が椅子に座りディスカッションをしている。

西村氏:CES2026では、ペプシコのようなOGC(消費財)メーカーがデジタルツインを全面展開し、品質管理や生産性向上、投資効率の最適化にAIを活用して成果を出している事例が紹介されました。産業の中にAIが実装されていく本格フェーズに入ったことが明示された今年のCESに、富士通が、14年ぶりに出展したことが話題になりました。

塩沢:富士通は、モビリディとフィジカルAIの2つの分野で出展しました。モビリディでは、Software Defined Vehicle(SDV、ソフトウェア定義車両)開発・運用において、要件定義から設計、ソースコード生成、テスト、品質評価までの各工程でマルチAIエージェントを活用する取り組みを展示しました。また、自動車の走行中に取得される映像・振動・位置情報などのデータをリアルタイムに解析することで、危険予測や交通状況の最適化など、社会課題のリアルタイムでの解決に貢献する様子や、収集したデータをデジタルツインに適用して都市に関するシミュレーションを可能にするデモを紹介しました。

フィジカルAIの分野では、「空間World Model」をデモで紹介しました。空間World Modelは、人がいる複雑な環境で、人の行動目的を把握しながら複数の自律ロボットが協調動作することを可能にします。今回は、デモエリアにヒューマノイド、犬型、清掃の3種類のロボットが用意し、それぞれが空間をリアルタイムに理解して協調動作する様子をお見せしました。例えば、広大な工場や倉庫内での資材管理、災害時の情報収集や救助活動支援、さらには店舗における在庫管理や顧客対応など、多岐にわたる分野での応用が期待されています。

左からファシリテーターの西村氏、田中教授、塩沢氏の3人が椅子に座りCES2026における富士通の出展内容について説明をしている。

産業AIの主役は“企業独自のデータ”

田中教授:産業にAIが活用されるとき、主役はAIではなくデータです。インターネット上にあるデータではなくて、自社の工場にあるデータや現場の暗黙知など、企業独自のデータをAIで最適化して活用することが重要です。

産業におけるAIの主役について説明をする田中教授

塩沢:富士通はFujitsu KozuchiのAI Platformを通じて、企業が自社の業務プロセスで使うデータに合わせて最適化できるAI技術を提供しています。これらの技術はエンタープライズ向けに特化しており、AI戦略として、ソブリンAI(企業が主権を持ってカスタマイズ/運用できるAI)が必要な防衛、行政、ヘルスケア、金融、製造をターゲットにしています。

フィジカルAI分野での富士通×エヌビディアの協業

西村氏:フィジカルAIが主役になった今回のCESですが、この分野でもエヌビディアが大きな存在感を示しました。エヌビディア×シーメンスとの提携でフィジカルAIの産業への展開を進めていくことになると思いますが、B2Cの領域、例えば家庭やエンターテイメントなどはどうでしょうか?

CESのトレンドを振り返り、田中教授に質問をする西村氏

田中教授:エヌビディアのWFMは、B2Bだけでなく、家庭やエンタメといったB2C領域を含む“現実世界のすべて”を対象としたフィジカルAI基盤になると思います。

塩沢:富士通は2025年10月に、フィジカルAIの分野でエヌビディアとの協業検討開始を発表しています。ロボットの動きや判断を司る“脳”の機能開発において、ソフトウェアスタック、コンピューティング、ネットワークの技術を提供し、パートナー企業と組んでフィジカルAIの技術開発を進めていく計画です。

西村氏:日本企業は、ロボット、自動車、工場などフィジカルなものを持っています。既存の資産をどうフィジカルAIにつなげていけばよいのでしょうか?

田中教授:自社の強みがある領域で勝負することが重要です。必ずしも、エヌビディアのWFMに乗らなければいけない訳ではありません。これまでも、AppleやGoogleのOSに乗らずに自社開発の基盤で強みを発揮してきた日本企業は存在しました。ただ、WFMと似た価値を提供するものであればそこに開発投資をするのか、選択と集中の経営判断ですね。

フィジカルAIの進化を支えるコンピューティング

西村氏:今回のCESでは、AIに加えて量子コンピューティングに特化したエリア「CES Foundry」が設けられました。

塩沢:先ほど田中教授が「計算がデータになる」とおっしゃったように、フィジカルAIの進化は、コンピューティングが支えています。計算環境をどう設計していくのかが鍵になります。ご存じの通り、富士通は量子コンピューティングを開発しており、2025年に256量子ビットの超伝導量子コンピュータの提供を開始しました。2026年には1024量子ビット量子コンピュータ、2030年には1万量子ビット量子コンピュータの実現を予定しています。

量子コンピュータについて説明をする塩沢氏

HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)と量子コンピュータのハイブリッド計算環境を提供できるのも富士通の強みです。2026年中に、高性能・省電力CPU「Fujitsu-MONAKA」と1024量子ビット量子コンピュータのハイブリッド環境の提供を予定しています。コンピューティングの分野でもエヌビディアと協業を強化しており、Fujitsu KozuchiからAI計算向けにFUJITSU-MONAKAとNVIDIA GPUを連携したコンピューティングを提供します。

田中教授:LLM開発競争のフェーズから、AIエージェントの台頭を経て、あっという間にフィジカルAIの時代がきました。これだけ技術トレンドの変化が激しいと、企業は“やらないで成熟を待つ”という選択をとるべき領域もあると考えます。何にいち早く取り組み、何はやらないで待つのか。それは各々の企業と産業によってケースバイケースですが、量子コンピュータのように、学習曲線が緩やか(習得に時間がかかる)領域は早期に取り組まないと競合他社に差をつけられてしまいます。企業の意思決定者はそれを見極めなければいけません。

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