組み込みインテリジェンスで実現する未来 2026の展望
Predictions | 2025年12月24日
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2025年は、経済の混乱や地政学的な不安定さが続き、一方で人工知能(AI)への投資がかつてないほど急増するなど、激動の一年でした。2026年には、変化の波に乗り成功する企業は、単に混乱を傍観するだけでなく、多様化・多極化する世界に主体的に対応するため、ビジネスモデルと事業運営を積極的に変革する段階へと移行するでしょう。企業は、最新のテクノロジートレンドを活用し、プラットフォームを強化し、よりレジリエントなサプライチェーンを構築します。また、従業員のスキルアップを図り、製品やサービスにインテリジェンスを組み込み、地域に根ざした事業展開を加速させることでしょう。
本記事では、2026年に注目すべき10のテクノロジーがもたらす機会について解説し、富士通がどのようにこれらの未来を形作っていくのか、その取り組みをご紹介します。
多極化した世界の出現
2025年には、国際的な協力関係が希薄化し、国家利益と地域競争が重視される多極化がさらに進展しました。その結果、経済の混乱と地政学的な不安定さが増大し、企業の戦略と計画に大きな課題が立ちはだかっています。一方で、AI技術の可能性に対する楽観的な見方から、AIインフラへの投資はかつてないブームを迎えました。しかし、企業は自社の技術戦略において、次に取るべき最適な一歩について模索を続けています。
出典:
地図:www.econovis.net
データ:Google Finance, Stock Valuation Growth since Oct 23. 2020
2026年に顕在化する世界的な変化
2026年には、内向き志向を強める米国が、新たなインフラとサプライチェーンの強化に注力するでしょう。そこでは、地域に根ざした競争力のある技術が強く求められます。防衛的な姿勢を強める欧州では、複雑なインフラ投資を伴う新たなエコシステムと、より自立性の高い技術プラットフォームの確立が必須となります。一方アジアでは、中国からのサプライチェーン再編や多様化、そして環境技術における競争激化により、極めてダイナミックな環境下での競争がさらに激しくなるでしょう。
出典:
地図:www.econovis.net.
技術的可能性
テクノロジーが働き方、取引、そして経営のあり方を変革するという楽観的な見方は、AIインフラとモデル開発へのかつてない規模の投資を促進しています。こうした機会が実現し、実を結ぶまでには数年を要するため、短期的な 'AIバブル'に対する懸念は当然のことながら存在します。しかし、それらの懸念によって、AIが持つ途方もない可能性への備えが妨げられるべきではありません。
AIエージェントは急速に進化しており、成功を収める企業は、より複雑化・地域最適化された、テクノロジー主導のAI対応世界に向けて、ビジネスの近代化と再設計のチャンスを捉えています。
2026年の10の技術機会
2026年、成功を収める企業は、単に変化を後追いで観察するのではなく、多様化・多極化する世界に主体的に対応し、ビジネスモデルと事業運営を積極的に構築していく段階へと移行するでしょう。以下に挙げるテクノロジートレンドは、企業がAIエージェントのブームに乗り、2026年のより複雑化する地政学的・経済的環境に備える上で重要なものです。これらのトレンドは、AIモデル開発から、よりスマートなセキュリティ、サプライチェーン、急速に高齢化する社会における働き方と成長への新たなアプローチまで、多岐にわたります。
1. 小型AIモデルと Al エージェント開発
小規模なAIモデルと特化型AIエージェントの開発は、企業のプロセス変革と計画策定を支援する上で、極めて重要な役割を担っています。生産やサービスが多様な地域で顧客に近い場所で展開されるようになるにつれて、小規模なオペレーションにおける柔軟な自動化が不可欠となります。大規模で汎用性の高いAIモデルは、より小規模で軽量、特定の分野に特化したAIを開発するための『生徒』モデルのひな形として機能します。このような特化型モデルは、多くの場合、特定のタスクにおいて、汎用型モデルよりも優れたパフォーマンスを発揮します。富士通では、当社のTakaneテクノロジーを活用し、高いエネルギー効率と精度を実現する『エッジ』デバイスで動作するAIモデルの開発に成功しています。(1)
2. 組織構造のフラット化
組織構造のさらなるフラット化は、業務を効果的に地域に最適化し、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドな労働力の効率性を高める上で不可欠であり、特にAI統合への準備において重要です。今後、主要なプラットフォームにおける職場のプロセスやコミュニケーションを支援するAIアシスタントの導入やAIエージェントの開発が拡大するでしょう。その導入を成功させるには、従業員が業務において主体的に活躍できるよう支援し、多様なAIを活用した労働力を、単なる勤務時間管理に留まらず、公平かつ正確に評価し、その能力を最大限に引き出すことにかかっています。富士通は、デジタルワーカーやコパイロット向けにAIを活用した職場ソリューションを共同で設計し、意思決定の改善と従業員の多段階的な業務効率化を支援しています。例えば、セブン-イレブン様とは共同で、コンビニエンスストアの業務を理解し実践し、習得したスキルをリアルタイムで追跡するトレーニングプラットフォームを開発しました。(2)
3. 物理 AIとエッジの Al エージェント
現実世界で自律的に行動する物理AIは、自動運転タクシーやヒューマノイドロボットの進化によって目覚ましい進歩を遂げています。しかし、企業にとって真にインパクトをもたらすのは、工場、倉庫、レストラン、病院といった動的な環境を認識し、行動し、自ら学習してタスクを遂行できる、特定の目的に特化したロボットでしょう。物理AIは、ロボティクスやオートメーションの『エッジ』領域で動作するAIエージェントや小型AIモデルの開発によって、その活用がさらに進んでいます。特定のタスクに特化したロボットが、多様な環境で自ら学習することで、製造、物流、医療といった現場におけるロボットの有用性は飛躍的に向上します。富士通は産業用AI分野をリードしており、Kozuchi AIプラットフォーム上で生成AIの可能性を追求・統合しています。当社は、人間とシステムの相互作用を円滑にするソーシャルデジタルツイン™モデルを開発し、人間の意図を認識し、ロボットと現実世界での相互作用のニーズを予測できるワールドモデルを実証しました。(3)
4. サイバーセキュリティおよび国家安全保障規制
AI分析技術が脆弱性の検知や悪用において進化し、局所的なサイバー攻撃への応用が拡大するにつれて、サイバーセキュリティはますます重要性を増しています。近年、大規模なランサムウェア攻撃が生産ラインに混乱をもたらし、それが国家安全保障上の懸念事項となったことは、重要な警鐘を鳴らしました(例:マークス&スペンサー、ジャガー・ランドローバー、アサヒビール)。企業がこの新たなレベルの脅威を認識するにつれて、政府も積極的な防御策とより厳格な規制を推進するようになるでしょう。AI主導のプロアクティブなセキュリティ対策とデジタル主権技術に重点を置くことは、企業の安全確保だけでなく、新たな規制環境への対応にも役立ちます。富士通は、パートナー企業と共同でマルチAIエージェント・セキュリティ技術を開発し、政府機関と協力して企業および国家安全保障上の課題解決に取り組んでいます。(4)
5. データ主権とフェデレーテッドクラウド
データ主権とフェデレーテッドクラウドは、パブリッククラウド、特に米国のハイパースケーラーサービスに加えて新たな選択肢となる、新たなサービスの開発を促進するでしょう。欧州連合(EU)のGaia-XやCatena-X、日本のData-EX、Ouranosなど、官民が連携する国際的なデータスペースプロジェクトは、これまでのところ進展は緩やかですが、着実に効果を発揮し始めています。ハイブリッドクラウド環境においてサプライチェーン全体でより広範なデータを共有する必要性が高まり、国家安全保障への政府投資も増加していることから、データ主権の追求が進む欧州と、サプライチェーンの多様化が進み、中国関連および非中国関連のデータレイヤーを統合する必要に迫られているアジアの両方で、データに関する実験的な取り組みが活発化しています。富士通は、欧州とアジアにおけるこれらの取り組みを支援する上で重要な役割を果たしており、デジタルトラスト技術を通じてパートナー企業を支援しています。(5)
6. 防衛技術の二重利用
国防強化は、すべての主要国にとって極めて重要な課題となっています。その結果、民間技術の軍事転用への抵抗感が薄れ、自律型ドローンからAIビジョンアナリティクスに至るスマートテクノロジーが国防分野に変革をもたらしています。また、多額の公的投資は、サイバーセキュリティ、地球情報(地理空間アナリティクス)、ロボティクス、自律システムといった防衛研究開発の新たな機会を創出しています。このように、国家安全保障(防衛)技術の多角的な活用は、新たな市場開拓へとつながっています。富士通は、国家安全保障機関への技術支援を通じて、次世代のセキュア通信、アナリティクス、量子シミュレーション技術の開発に取り組んでいます。(6)
7. 高性能計算と量子コンピューティング
高性能コンピューティング(HPC)と量子コンピューティングは、当初の予想よりも早期に具体的な成果を生み出すため、連携が進んでいます。HPCベースのエラー訂正技術は、不安定な物理量子ビットを信頼性の高い論理量子ビットに統合しています。HPCを活用した量子シミュレーションは、最適化や材料研究といった複雑なビジネス課題に対応する量子ソリューションの選択肢を拡大し、実験への重要なリンクを提供します。同時に、AIは量子システム開発や、複雑なデータモデルのソリューションへの需要を加速させています。富士通は、ハイブリッド量子コンピューティングのためのプラットフォームを構築し、計算時間、精度、コストなどのパラメータに基づいて、お客様のワークロード選択を自動最適化する技術を開発しています。
8. 新しい ESG (Energy, Security, Growth / エネルギー、安全保障、成長)
世界的な協力関係の希薄化と経済コストの増加に伴い、従来のESG(環境・社会・ガバナンス)原則への対応の優先順位が変化しつつあります。その結果、エネルギー・安全保障と効率化戦略が、環境・社会目標の達成においてより大きな役割を果たすようになります。同時に、AI関連技術への投資が成長戦略を牽引するにつれて、信頼できる技術ガバナンスの重要性も高まっています。したがって、あらゆるレベルにおいて、新たな視点を取り入れつつ、従来のESG目標との整合性を図る必要があります。富士通のESG経営プラットフォームは、効率性、セキュリティ、そしてインパクトに対する企業のニーズを、社会・ガバナンス戦略に継続的に統合しています。
9. エンタープライズ・ブロックチェーンの復活
エンタープライズブロックチェーンは、ガートナーのハイプサイクルでいう『幻滅期』を脱却し、実用段階に入りつつあります。暗号通貨とステーブルコインのブームに後押しされ、大手銀行の支援も受けながら、企業の決済機能は合理化され、AIベースの『マシンカスタマー』(AIが自律的に取引を行う仕組み)にも対応できる準備が整ってきています。エンタープライズブロックチェーンは、トークン化とスマートコントラクトによって取引コストと決済を大幅に削減し、AIエージェントによる取引におけるプロセス変革と自律性の向上を実現する基盤となるでしょう。富士通は、Track and Trustプラットフォームの一環としてブロックチェーン技術を一貫してサポートしており、パートナー企業と連携してソリューションの共同設計を進めています。(7)
10. 新しいシルバーエコノミーと仕事の未来
「ニューシルバーエコノミー」とは、国内経済の減速という厳しい環境下において、新たな成長機会を生み出すものです。これは、単に高齢化する消費者の需要増加を指すのではなく、AIを活用することで、意欲のある労働者がより長く活躍し、能力を発揮できる社会の実現が中心となります。日本では、高齢者層がすでに経済成長に大きく貢献しています。生産性をさらに向上させるため、シニア社員の深い専門知識を維持するためのAIエージェントの開発が進められています。これらのAIエージェントは、継続的に更新されるシステムと自然言語で対話し、オンデマンドのチューターのようにシニア社員のスキルと能力を強化します。経験豊富なシニア社員と、人数が減少傾向にある若手社員をAI対応のコミュニケーションプラットフォーム上でシームレスに繋ぐことは、双方の生産性向上に不可欠となるでしょう。富士通は長年にわたり、「Work Life Shift」イニシアチブを通じて、働き方改革とデジタル生産性向上の最前線に立ってきました。AIエージェント統合によるワークプレイス・ソリューションを共同設計し、意思決定の改善、従業員の多段階的な業務効率化、そして従業員のエンパワーメントを支援しています。
出典:
OECD、FREDのデータ
多極化した世界においてテクノロジーを活用することで、先駆者が勝利する
2026年、企業は経済の不安定化と急速な技術進歩に直面する中、システム、組織、そして業界全体へのインテリジェンスの統合が極めて重要な年となるでしょう。AIエージェント、データ主権を確保するデータインフラ(ソブリンデータインフラストラクチャ)、そしてレジリエントなコンピューティング技術の導入は、企業がより分断化されたグローバル環境にいかにうまく適応できるかを左右する鍵となります。俊敏性、知性、そして地域に最適化されたオペレーションをいち早く構築する企業は、混乱の中でも成功を収め、よりバランスの取れた相互接続されたデジタル経済への移行を牽引することになるでしょう。
- (1)AIの軽量化・省電力を実現する生成AI再構成技術を開発し、富士通の大規模言語モデル「Takane」を強化
- (2)セブン‐イレブン・ジャパン様の店舗DX、店舗従業員が新たな学びと成長: 富士通
- (3)人とロボットが共存・協働する未来を拓く 空間World Model技術を開発
- (4)脆弱性や新たな脅威への事前対策を支援するマルチAIエージェントセキュリティ技術を開発 : 富士通
- (5)一般社団法人データ社会推進協議会 | Data Society Alliance(DSA)
- (6)富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ(FDNS)
- (7)Fujitsu Track and Trust : 富士通
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