AIは本当に信頼できるのか?「信頼ギャップ」の実態と課題
富士通 「信頼できるAI」レポート
Article | 2026年6月25日
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ビジネス現場に導入され、大きな期待を集めるAI。しかし、AIをガバナンスする難しさは、ビジネスリーダーの悩みの種となっています。AIを今以上に活用するためには、AIをもっと信頼できるようにする必要がありそうですが、何から取り組むべきでしょうか?
使用するAIを信頼できればできるほど、ビジネスパフォーマンスも高い――これは、富士通が実施した調査結果で明らかになった傾向です。
富士通は、このほど、グローバルな企業・組織の経営層をはじめとする意思決定に関わるビジネスリーダー400人を対象に調査を実施しました。回答を分析したところ、AIアプリケーションを信頼しているリーダーほど、ビジネスパフォーマンスに関する指標(生産性・製品開発・事業成功を示す値)についても、高い傾向を示すことがわかりました。
例えば、AIを「とても信頼している」としたリーダーたちが、同時に財務目標を達成している割合は、AIを「信頼していない」グループよりも、74%高い傾向がありました。生産性や社内効率の向上を示した指標については、その他よりも60%高い結果でした。
そうはいっても、大半のビジネスパーソンは、AIをなかなか信頼しきれないというのが現状でしょう。実際、約4割(38%)のビジネスリーダーは、「AIに入力されているデータは信用できない」と答えています。データが断片的で構造化されておらず、品質が低いことなどが理由です。また、39%は、「もしAIのデータにセキュリティや倫理上の問題があり、プロジェクトが失敗した場合、自分の評価やキャリアは危うくなるだろう」と述べています。
AIに期待しつつ完全に信頼はできないという「信頼ギャップ」――この問題を解決することで、「信頼できるAI」から能力をもっと引き出せます。その方法について、「データ衛生(data hygiene)」、「スキル投資」、そして「ガバナンスの強化」の観点から考察していきます。
AIのポテンシャルに期待するリーダーたち
AIがビジネスに与えるインパクトには疑いようがなさそうです。企業は巨額の投資を行っていて、様々なプロジェクトが進行しています。
米調査会社Gartnerによりますと、世界のAIに関する支出は、2026年には2.52兆ドルに達する見込みです。実に、年44%の増加率です。翌27年にはさらに3分の1増加し、3.34兆ドルに達すると考えられています(*1)。
富士通の調査をみると、ビジネスリーダーがAIの潜在能力を高く評価していることがわかります。
「AIはインターネットの登場以降、最大のゲームチェンジャーだ」と回答したのは、10人中7人(69%)にのぼります。
AIが単なるブームではないことは、多くがAIはビジネスに影響をもたらすと考えていることからもうかがえます。今後2年間で「AIで大きなコスト削減が見込める」と答えたのは60%、「AIが新たな主力製品ラインの立ち上げやリニューアルのきっかけになる」と予想したのは50%でした。
回答からは、AIが産業界全体に広がっていけば産業構造を大きく転換させると考えられていることがうかがえます。
加速するAIイノベーション
高い期待感の下、企業はAIによるイノベーションを積極的に進めています。あらゆる事業領域において、AI対応が当たり前のように盛り込まれています。
調査からも、AIがビジネス全体に浸透しつつあることがわかります。質問でAIのユースケースのリストを提示したところ、「これらのAIプロジェクトの予定はない」と答えた経営層はごく少数でした。AIはビジネスのあらゆる部分に関わるようになっています。
多くの組織でAIを積極的に活用
AIは比較的取り組みやすい用途から導入されて、より高度な業務でも使われ始めています。ビジネスリーダーに、どのような用途でAIを活用しているか訊ねました。「文書の生成や情報の抽出」を挙げたのは60%です。また、「予測分析や見通しの作成」にAIを活用しているのは58%。さらに、「AI支援によるソフトウェア開発」や「AIモデルの監査やガバナンスツール」といった、より複雑な業務も進められています。
信頼ギャップが AI の可能性を狭める
いまAIは、対面販売や収益の柱になる領域、それに法規制への対応といった領域にも使われ始めています。こうした領域では、AIを信頼できるかどうかは必須条件です。単にシステムが動くかどうかではなく、意思決定の信頼性や組織運営のレジリエンスに関わる問題です。企業・組織は、以下の点を常に説明できなければなりません:意思決定はどのように下されているか、データの所在や管轄をまたいだ管理について、別システムとつながるシステムのセキュリティ、規模を拡張しても性能が維持できるかどうか、といった点です。
ここで前に立ちはだかるのが、AIの「信頼ギャップ」です。
多くのビジネスリーダーは、AIツールの精度や信頼性を疑っています。投資額が大きく、扱っているデータが極めてセンシティブであることを考えれば当然でしょう。
彼らの不信感の根本にあるのは何でしょうか?
調査によると、約4割の経営層(38%)は、AIに入力されたデータを信用していません。断片的で構造化されておらず、そもそもAIにふさわしい品質に達していないと考えています。倫理とコンプライアンスに則ってAIを使うためには高品質のデータが必須ですので、これは大きな問題です。
こうした懸念の背景にある問題について、さらに詳しく見ていきます。
調査では、77%が「完全に信頼できない限り、AIアプリケーションを導入することはない」と回答しています。システムやデータが信頼できるようになるまでに、どれほどの取り組みが必要なのでしょうか。
さらに、10人中6人は、AIエージェントについて疑念を抱いていて、非自律型アプリケーションに比べ信頼できないと考えています。慎重になるのは当然です。39%が「安全性・倫理性・信頼性の低い入力データが原因でAIプロジェクトが失敗した場合、自身の評判や役職は危うくなる」と感じています。
ガバナンスの欠如が拡大する「信頼ギャップ」
ビジネスリーダーがAIを信頼できないのも無理はありません。調査からは、多くの組織がAIアプリケーションの根底で、ガバナンスが決定的に不足していることがうかがえます。意思決定の保証、企業運営のレジリエンス、リスク態勢が怪しいのです。
組織の重要領域におけるAIガバナンスは十分とはいえない
調査で、「自社のセキュリティとデータ主権の管理」は「世界最高クラスだ」と答えたのはわずか13%です。
「データ整備の状況」について最高クラスだと答えたのは12%です。“最低でもトップレベル”が求められる領域においてこの低さは問題です。
ガバナンスの方針が標準的だったり雛形しかなかったりしては、AIの出力を信頼できません。さらに言うと、企業イメージを傷つけ、信用を失うおそれまであるのです。
AIの導入状況とガバナンスについて示したデータを照らしあわせてみると、この「信頼ギャップ」をめぐる様々な課題が浮かび上がります。
- 51%の経営層が「社内コンテンツ作成のプロジェクトが進行中」と回答しました。その一方で、47%は「説明可能なAIに関する取り組み」について“標準レベル”としています。つまり、コンテンツの元となる情報の出典や使い方について、社内に十分な理解がないかもしれないと指摘できます。多くの社内情報がセンシティブであることを考えると、重大な欠陥です。
- 36%が「AI支援によるソフトウェア開発」が進んでいると回答しています。しかし別の設問では、53%が「データ整備の状況」は“標準レベル”と述べています。つまり、開発基盤に課題がある可能性を示しています。ソフトウェアを業務に組み込んだ後に、問題が発生するかもしれません。
- 54%が「カスタマーサービス」にAIを実装していると回答しています。その一方で、30%は「セキュリティとデータ主権の管理」は“標準レベル”だとしています。これは、顧客データが適切に扱われていないことを示唆しているかもしれません。これでは、レピュテーションリスクや法律に抵触するリスク、そして組織のレジリエンス低下につながりかねません。
ビジネスリーダーはAIに期待しています。しかし、それを実現する強固なガバナンスがあるかというと、間には大きな溝=ギャップが横たわっているということがいえます。では、AIガバナンスが難しい理由を、調査結果から見ていきましょう。
ここで挙げられている課題については、多くの経営リーダーが「今後12カ月の最優先事項」として認識していて、少しだけ安心できる材料となっています。
「信頼できるAI」を構築できない主な理由
ビジネスリーダーが今後重視するのはデータ品質:ビジネスリーダーが今後12カ月、優先度が高いと考える施策
AIを信頼する企業から見えてきた相関
企業・組織がガバナンス強化を最優先にすべき理由は明白です。調査では、自社のAIシステムを信頼している企業ほど、そうではない企業よりもパフォーマンスが高いことがわかりました。信頼できるAIシステムの構築が、ビジネスの成果につながる可能性が高かったのです。明確な統計学上の因果関係があるとまでは断定できませんでしたが、「信頼できるAI」と「よいビジネス成果」の間に、有意な関係が見られたことは非常に興味深いものです。
AIアプリケーションに「完全な自信」を持っていたグループが、そうでない人よりも高かったパフォーマンスの指標は、生産性、新製品の開発、アイデアの創出、そして財務目標の達成です。
AIへの期待と実現の間にある「信頼ギャップ」に悩む企業にとって、この結果は強力なインセンティブになるのではないでしょうか。
上記の領域においてパフォーマンスを発揮している企業は…
AI信頼ギャップの埋め方
「AIを導入するかどうか」は、もはや議論する時期をすぎています。いま重要な論点は「AIを信頼できる・説明できる基盤の上に展開できるか」ということです。
組織が取り組むべき3つのステップがあります。
1.まずはデータ基盤を整備すること
信頼はAIアプリケーションそのものに集まるわけではありません。AIアプリの基となるデータやデータ管理が評価されるものです。断片化・構造化されていないデータについて、説明責任を果たすことはできません。拡張は難しく、組織のレジリエンスを損ない、AIへの期待とガバナンスとが乖離した「信頼ギャップ」を広げてしまいます。
このギャップを解消するには、ボトムアップによるデータ管理とマネジメントが必要です。それには、データ環境の統合、明確なデータオーナーシップ、データ品質の継続的なモニタリングが役立つでしょう。
2.ガバナンスの方針を現場に浸透させる
ガバナンスに関する方針は、ガイドラインや単なる文書では意味がありません。ガバナンスはまた、AIの進化とスピードをあわせた運用が求められます。テクノロジーの自律性が高まるほど、それを監督するポリシーが、その性能と評価を守ることになります。まずはワークフローの中に、説明責任と追跡・トレーサビリティの仕組みを設定しましょう。そのことが意思決定の保証や、リスク許容度、そして報告のエスカレーション経路を定義することになります。 そして、AIモデルの監視ツールを導入し、情報バイアスやセキュリティ、コンプライアンスリスクなどを管理しましょう。ガバナンスの進化は、長期的な成功に欠かせないものです。
3.従業員のスキルを高め、AIの力をブラックボックスから解放しよう
AIへの従業員理解が深まるほど、信頼し責任をもって活用できるようになります。従業員教育によるスキリングを重点的に行えば、信頼がAIの設計段階から組み込まれるようになるはずです。職種別のトレーニングを考え、各AIモデルがどのような仕組みで動くのかを理解してもらいましょう。そして、一人ひとりがAIの結論に疑いを持つことを奨励しましょう。取り組みは、従業員に自信を与え、より責任あるAI利用につながるはずです。
AIの導入にスピードは確かに重要です。しかし、信頼を犠牲にしてまで急ぐべきではありません。AIの信頼ギャップを克服した企業は、AIの潜在能力を解放し、ビジネスの果実へと変えることが必ずできるはずです。
調査概要
本調査は、富士通がFT Longitude社に委託し、2026年2月に実施しました。
実施対象:オーストラリア、日本、英国、米国を拠点に活動する経営層をはじめ意思決定に関わるビジネスリーダー400人
職種:テクノロジー・IT、財務、企画戦略、実行部門から同数
業種:金融サービス、製造、エネルギー・資源・ユーティリティ、物流・サプライチェーン、ヘルスケア・ライフサイエンス、小売・消費財、公共・政府・防衛セクター、IT通信、プロフェッショナルサービス
経営規模:従業員1,000~4,999人(53%)、5,000~49,999人(38%)50,000人以上(10%)
※本レポートの各種数値は整数にした関係上、合計が100%にならない場合があります。
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