グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムを振り返る 富士通が示すAI時代のリーダーシップ

2025年のGlobal Peter Drucker Forumはウィーンのホーフブルク宮殿で開かれた

Article | 2026年1月30日

この記事は約8分で読めます

経営のあり方を議論する「Global Peter Drucker Forum」が2025年11月に開催されました。開幕にあたり、富士通 代表取締役社長CEOの時田 隆仁が、「次の時代のリーダーには、AIとの協働を導き、より良い社会を実現することが求められる」と述べ、AIの可能性を追求し、変革を加速させる必要性を強調しました。

同フォーラムは、「近代マネジメントの父」と称されるピーター・F・ドラッカーの理念に基づき、経営の未来について考える国際会議です。毎年、ドラッカー生誕の地であるウィーンで開かれています。今回は「Next Era Leadership: All Hands on Deck(すべての人が参加する次世代のリーダーシップ)」をテーマに、パネルディスカッションなどで、多くの経営者や学識経験者が活発な議論を交わしました。

AI

AIは人間の能力を拡張する

富士通からは、時田をはじめ、コンサルティング事業Uvance Wayfinders(以下、Wayfinders)を率いるGlobal CEO & Senior Managing Partnerの習田 晋一郎と、Wayfindersヨーロッパ代表のJuergen Reiner(ユルゲン・ライナー)Co-Head of Europe, Managing Partnerなどが登壇しました。

Global Peter Drucker Forumのオープニングセッションでスピーチする富士通代表取締役社長CEO 時田 隆仁(2025年11月 ウィーン)
Global Peter Drucker Forumのオープニングセッションでスピーチする富士通代表取締役社長CEO 時田 隆仁(2025年11月 ウィーン)

時田は、開幕を告げるオープニングセッションで、リアルタイムで日本からメッセージを寄せました。
その中で時田は、20世紀で主流となっていた旧来型のマネジメント・モデルでは、経営が直面する様々な課題を解決できないとし、「今こそマネジメント・モデルを変革し、よりイノベーティブに、顧客だけでなく社会にとっても大きな価値を創造しなければならない」と述べました。

また、AIの能力が急速に進化し、一部の知識労働ではすでに人間を凌駕するようになったことを踏まえて、「AI活用の重要なポイントは、すべてを自動化することではなく、人間の能力を拡張すること」だと強調しました。
そして富士通の実践例として、大規模ソフトウェアの開発やサプライチェーンのシステムに、生成AIやAIエージェントの技術を積極的に導入していることを紹介しました。

最後に、「AI時代における次世代のリーダーは、いかにして人の能力を育て、人とAIの効果的な協働を導き、より良い社会を築くかという大きな課題に取り組む必要がある」と述べ、同フォーラムにおいて有意義なアイデアが議論され、次世代のリーダー像が形作られることへの期待を示しました。

AIファーストなコンサルティングの未来

富士通のコンサルティング事業Wayfindersを代表する習田は、「Gaining the Wisdom and Judgement to Lead in the Age of AI(AI時代の智慧と決断)」というパネルセッションに登壇しました。
習田は、AIが労働力や労働環境におよぼす変化を中心に語りました。この中で、習田はAIの3段階の進化について説明しました。これは、まず「生成AI」、次に「AIエージェント」、そして人間の意思決定にAIが自律的に介入する「エージェンティックAI(エージェント型AI)」です。最終的には働き方が大きく変化し、いくつかの分野では労働力がAIによって置き換わるだろうと指摘しました。

また、従来のコンサルティングファームについて、ピラミッド型の階層構造が多くの人材を必要とし、アナリストからパートナーまで全員が、稼働率と収益を上げねばならない、いわば「負債」を抱えていると指摘しました。

それに対して、富士通の新たなコンサルティング事業Wayfindersは、小さな「ダイヤモンド型」のような構造をしており、これを可能にしているのがAIエージェントの活用だと述べました。

「私たちの仕事の一部をAIエージェントに任せることで、組織を少数精鋭に保つとともに、効率性と迅速性を追求しています。Wayfindersは、まさに『AIファースト』を体現する組織です」として、Wayfindersチームの特長を強調しました。

さらに、組織の軸を「データとAI」として、クライアントの課題解決のプロセスにAIを組み込み、効果を実証していると説明し、具体例をあげました。

サプライチェーンの地震対策として、地震発生時にAIが事業の持続策や代替プランを提案している事例を紹介し、AIが単なる効率化ツールではなく、企業のレジリエンスを高める戦略的資産であることを示しました。

Global Peter Drucker Forumのパネルディスカッションで発言する富士通 Uvance Wayfinders, Global CEO & Senior Managing Partner習田晋一郎
Global Peter Drucker Forumのパネルディスカッションで発言する富士通 Uvance Wayfinders, Global CEO & Senior Managing Partner習田晋一郎

また習田は、リーダーシップについて、「リーダーにとってAIの理解は必須だが、AIに『感情』の部分を理解することは不可能だ」と言い切りました。そして、リーダーは明確なビジョンを描き、実現にコミットすることが必要だとして、疑問を抱くチームメンバーに対しては、AIファーストのコンサルティングが実際に機能することを見せて「納得してもらうこと」が大切だと話しました。

また、習田は「Trusted AI(信頼できるAI)」をAI活用のキーワードとして挙げ、以下のような構成要素が重要だと強調しました:

• データ収集:どのようなデータが使われているのか、それは合法か。
• データ主権:データはどの国、企業、あるいは業界に属し、管理されているか。
• 説明可能性(Explainability):AIがなぜそのような決定を下したのか、どのようなナレッジグラフやデータを使用したかを説明できること。(AI倫理と密接に結びついている)

習田は、「プロセスを説明できない場合、そのAIをどのように信頼できるのか?」と投げかけ、AIの透明性と説明可能性はビジネスには不可欠だと強調しました。そのうえで、特にAIエージェントにおいては、多様なAIエージェントを統括する「オーケストレーター役のAI」が必要で、他のエージェントが導いた結果の倫理性をテストし、ポリシーに照らして評価する役割を与えるべきだと提案し、AI時代のガバナンスと説明責任の重要性を訴えました。

イノベーション再定義:顧客との共創で拓く未来

Wayfindersのヨーロッパ部門を率いるReinerは、パネルセッション「Leading for Innovation(イノベーションへの道筋)」に登壇しました。Reinerはイノベーションを「顧客の課題を、従来よりも優れた方法で解決すること」と定義しました。そして、従来の「製品への執着」から「顧客の声に耳を傾け、共創する」アプローチへの転換こそが、変革のカギになると強調しました。

Reinerは、ヨーロッパの製造業、特に自動車産業においては歴史的に、強い開発の文化と「優れた製品は売れる」という信念から、最先端技術を駆使した製品イノベーションの数を競っていたと振り返りました。しかし、インターネットの時代において、アマゾンは顧客の問題解決に徹底的に注力することで顧客中心主義を先導し、競争の軸を変えた代表的な企業であると指摘しました。

「しかし、顧客の要望に応えることがイノベーションの基礎であるとすれば、受け身に過ぎる。イノベーティブの真逆ではないか」とReiner は述べて、顧客の情報や意見を積極的に集め聞くことが、これからのイノベーションには不可欠だと主張しました。

Global Peter Drucker Forumのパネルディスカッションで発言するJuergen Reiner 富士通 Uvance Wayfinders Co-Head of Europe, Managing Partner
Global Peter Drucker Forumのパネルディスカッションで発言するJuergen Reiner 富士通 Uvance Wayfinders Co-Head of Europe, Managing Partner

また、リーダーシップの役割としては「決断のタイミング」の重要性を挙げました。Reinerは、多くのビジネスパーソンは短期的な業績に囚われがちだとして、革新的なビジネスには、中長期的な視野が必要だと強調しました。具体的には、自動車メーカーが電気自動車への移行に試行錯誤する様子は、まさにタイミングと適応の難しさを浮き彫りにしていると述べました。

また、コンサルティング市場についても触れ、市場がコモディティ化していることを指摘しました。この課題を乗り越えるアプローチとして、彫刻家ミケランジェロによる「彫刻は、それに属さない余分な部分を取り除く作業である」という言葉を引用し、意識的に「やらないこと」を決断することも時には必要だと述べました。

イノベーションを推進するリーダーへのアドバイスとして、Reinerは「顧客を最優先に考え、その声に真摯に耳を傾けること」、「自信を持って顧客の理解を支援すること」の2つを提示しました。そして最後に、パートナーを巻き込み、ネットワークから情報を収集し、エコシステム全体でイノベーションを推進することで、AIの力を最大限に引き出す新たなフェーズに入れるだろうと期待を示しました。

AI時代を牽引するリーダーの責務

ドラッカー・フォーラムにおける時田と習田、そしてReinerの議論は、AIが変革をもたらす中で、リーダーシップについて多角的な視点が必要であることを示しました。AIは、人間の能力を拡張し、新たな価値を創造する存在です。そして富士通は、この変革の最前線に立っています。

2025年のGlobal Peter Drucker Forumはウィーンのホーフブルク宮殿で開かれた
2025年のGlobal Peter Drucker Forumはウィーンのホーフブルク宮殿で開かれた

しかし、AIの導入と活用においては、倫理的な課題やデータの信頼性、そして意思決定プロセスの透明性や説明可能性が不可欠です。つまり、リーダーが技術論に留まらず、確固たるビジョンを掲げ、組織文化を変革し、顧客や技術について深く理解することが重要です。持続可能な社会と組織の成長を実現するため、私たち一人ひとりが、AIという強力な羅針盤を手に、未来への航海に挑むリーダーシップを実践することが今求められているといえます。

Uvance Wayfinders
Consulting by Fujitsu

夜の海に架かる長い橋、車の光跡が伸びている。
夜の海に架かる長い橋、車の光跡が伸びている。

関連コンテンツ

AI時代を生き抜く経営とは:ドラッカー・フォーラム創設者の視点

AI時代に求められる経営思想とは?「経営学の父」ドラッカーの思想を継承し、活発な提言を行うグローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムの創設者にインタビューを実施しました。
リチャード・ストラウブ

変わり続ける⼒が、企業を強くする── ⽇本発、テクノロジー×業種ナレッジで成果を出すコンサルとは

AI時代の経営変革を実現。富士通がテクノロジーとビジネスを融合し、構想から実装まで伴走するDXコンサルティング「Uvance Wayfinders」を紹介。
⼤⻄俊介、習⽥晋⼀郎