AIを真の「成長エンジン」にするリーダーの選択とは

ポール・ポールマン

Article | 2026年4月3日

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人工知能(AI)は、企業にとって試行段階から基幹システムへと急速に移行しています。組織が多額の投資をするにつれて、「AIを導入すべきか否か」の議論は、「AIをいかに持続的に展開していくか」という問いへと変化しています。

AIは短期の効率化ツールにとどまるのか、それとも長期的に価値を増幅させる成長エンジンとなるのか。本稿では、Paul Polman(ポール・ポールマン)氏の「ネットポジティブ」の考え方や、富士通のコンサルティング部門であるUvance WayfindersのSven Jagebro(スヴェン・ヤゲブロー)の知見をヒントに、リーダーが設計すべきAI戦略を探ります。

AIとリーダーシップの課題

AIに対する企業投資は年々増加しています。米調査会社Gartnerの調査では、世界のAIプロジェクトへの支出は、2026年には前年よりも44%多い、約2兆5千2百億ドルに達すると予測されています。(*1)

一方で、AIの進化の速さには、戸惑いも広がっています。富士通が、世界のビジネスリーダー300人を対象に行ったアンケート調査では、回答者の82%が、AIによる技術革新のスピードに驚いていると答えました。(*2)

また、AIがビジネス基盤の一部になるにつれ、意思決定のあり方やサプライチェーンの機能などががらりと変わりつつあります。サービスの提供方法やリスク管理についても同様です。リーダーや実務家は、AIがもたらす複雑さを、これまで以上に認識するのは間違いありません。

このことは二重の課題を突き付けています。AIは、生産性の向上やイノベーション、規律あるコストといった面で大きな機会を提供します。一方で、AIによる影響は、単一機能や会計上の項目を超えて広がります。その範囲は、エネルギー消費やデータに関するガバナンス、人員計画、サプライチェーンの強じん性、そして社会的な信頼にまで及びます。

組織のリーダーがAIの導入を迷っているようではもはや手遅れです。いかにAIを活用し、長期的に企業価値を高めていくかを考えることが必要です。

リーダーに必要な「ネットポジティブ思考」とは

企業の長期的な業績と社会的貢献は、両立ができるーーそう主張するのは、英国の消費財メーカー、Unilever(ユニリーバ)の元CEOで、『Net Positive ネットポジティブ 「与える>奪う」で地球に貢献する会社』の共著者であるPaul Polman(ポール・ポールマン)氏です。

Polman氏は、テクノロジーは人の意思を増幅する機械だという信念を持っています。そのため、扱うテクノロジーが大きければ大きいほど、リーダーの資質が問われます。

「最終的に成功するのは世界に最も貢献した企業だ」(Paul Polman)

効率性と生産性を上げるAIは、短期間で成果を出します。もちろん、営利企業が効率や生産性を求めるのは自然なことですが、実はAIに関しては、狭い視野のまま組織が導入を急ぐと、かえって逆効果になることがあるのです。(成果とは、企業がステークホルダーに提供する価値のこと。この場合の「ステークホルダー」には、株主や顧客、従業員や社会そのものまで含む)

Polman氏が提唱する「ネットポジティブ思考」では、「あなたの組織によって、世界はどれくらい良くなったか?」と問います。実はこのような問いは、AIの力を引き出すのに効果的です。

例えば、次のような質問もよいでしょう。

  • そのコスト削減は、非効率的な業務を見直して実現しましたか。安全性は犠牲にされていませんか。
  • そのシステムは、国や地域によって規制が異なる前提で設計されていますか。
  • 顧客、従業員、または住民にまで影響が及ぶその決定において、人間の説明責任は確保されていますか。

これらの問いに共通するのは、ガバナンスの存在です。AIガバナンスに関しては、ほとんどの企業でまだ十分とはいえないのが現状です。富士通の調査によると、自社のAIガバナンスが「業界の最高水準にある」と回答した企業は全体の15%だったのに対し、46%はまだ「初歩的なレベルにある」と回答しています。AIガバナンスはIT部門だけで完結するものではありません。法務やコンプライアンス、サステナビリティや人事部門など、多くの部署と緊密に連携する必要があるのです。

Polman氏は「責任を外部に求めることはできない」と強調します。「テクノロジーが強力であればあるほど、リーダーの責任は重くなるものだ」と指摘します。サステナビリティなどの社会貢献は、しばしば経済的利益と相反するものと評価されがちです。しかし、真実はその逆です。

一例として、富士通が開発する次世代コンピュータ技術を挙げてみましょう。AIは膨大な計算をこなすために、大きな電力を消費します。こうした状況も背景に、富士通は高性能で低エネルギー消費を実現する次世代プロセッサFUJITSU-MONAKA(*3)を開発しています。

FUJITSU-MONAKAのようなエネルギー効率のよい製品は、▼運用コストの低減、▼電力需給リスクへの対応、▼脱炭素目標の達成といった、様々な社会課題の解決へつながることが期待されます。つまり、財務的な優先事項と環境的な優先事項は、互いに矛盾するのではなく、むしろ補強しあう関係なのです。

このように一見、技術的な課題にみえても、実は高いレベルで戦略的意思決定につながっているということを、常に考える必要があります。

AIの導入現場で何が起きているか

では、いまAIを導入する際に、どのようなことが課題となっているでしょうか。Uvance WayfindersのSven Jagebro(スヴェン・ヤゲブロー)によると、AIそのものに問題があることはまれだといいます。むしろ、問題は▼AIの運用、▼責任体制、▼部門横断の連携、といったところで発生するのだといいます。

「特に“信頼できるAI”の展開は、取締役会レベルの重要議題です」とJagebroは述べます。「デジタルビジネスにおいては、信頼は基軸通貨のように重要です。ですからAIの利用が進めば進むほど、ガバナンスの強化が求められるのです」

多くの組織がAIを導入する際、最初はPoC(Proof of Concept:概念実証)として、パイロットモデルを限定的な用途で使い始めます(例:ワークフローの自動化、故障予測型メンテナンス、顧客サポートツールなど)Gartnerの調査では、PoCから本格運用へと進むAIプロジェクトは約54%(*4)。しかも、目に見える成果がすぐ出るわけではありません。

そうした中でも、AIの導入で、大きな相乗効果を上げられる取り組みがあることもわかってきました。

  • AIによる消費エネルギー管理:
    運用コストと温室効果ガス排出量の削減を同時に実現できる。
  • サプライチェーンにおける予測分析:
    在庫コストを低減し、リスクに備えてレジリエンスを強化できる。
  • 高度なコンプライアンス監視:
    報告業務を効率化し、規制当局から信頼を獲得できる。

実践における規律とは、相乗効果が望ましい方向にいくよう、AIシステムを設計することにあります。以下のような複数の指針を、早期に持つことが求められます。

  • ガバナンス設計:
    万一の際に報告を上げるエスカレーションの枠組みを構築。また、重要な意思決定は人が行うよう設計。
  • 法規制対応:
    データ主権やAI規制は、国や地域によって異なることを踏まえ設計。
  • 部門連携:
    サステナビリティ部門、リスク管理部門、IT部門の足並みを、できれば始めから、または、導入後に揃える。
  • 人材教育:
    業務プロセスなどの変更に対応し、十分な研修を実施するとともに、責任の所在を明確に定める(研修が不足したり責任の所在が不明確だったりすると、AIの効果が出ないこともある)

実際には、より広い視点を取り入れる組織ほど、より自信をもってAIを活用できる傾向があります。初期段階から指針やルールを整えておけば、後の迷いを減らすことにつながります。明確な指針やルールがあることで、導入が加速できる可能性も高まるでしょう。

「初めからAIアーキテクチャにガバナンスを組み込み、再現可能なフレームワークと明確なルールを設定することは効果的です」とJagebroは話します。

責任あるAIとは、抽象的な倫理規範ではありません。全てのプログラムに一貫した指針やルールに基づき、具体的な設計や判断を積み重ねることにほかなりません。

まとめ:きょうの成果とあすへの備え

ビジネスリーダーは、常にプレッシャーのもとで仕事に取り組んでいます。四半期ごとの業績目標、地政学的な不安定さ、規制の変化やインフレなど。抽象的な議論に割く時間はなかなかありません。

このため、AIはしばしば効率を高める「てこ」として導入されます。規律あるコスト意識はもちろん重要です。しかし本質は、コストをどのような手段で削るかにあります。

重複業務や非効率をなくすことで、競争力は高まるでしょう。一方で、安全対策を軽視したり、コンプライアンスをないがしろにしたりすることは、リスクを先送りするだけです。変化が激しいビジネス環境では、先送りしたところで突然、それが表面化することは大いにありえます。

ネットポジティブ思考は、「短期の業績」と「長期のレジリエンス」の二択を迫る考え方ではありません。むしろ両者を矛盾させないようにする考え方です。Polman氏は「AIで得た力の使い方は、ネットポジティブが方向を示してくれます」と説明しています。

AIはまさに「成長エンジン」として働きます。活用プロセスをしっかり確立していれば、効率化をぐっと推し進めるでしょう。しかし、ガバナンスが欠けていた場合、AIがもたらす負の側面を増幅させかねません。どちらに転ぶかはリーダーの選択次第です。

AI時代を勝ち抜くには、単にAIが使えるだけではなく、明確なルールをあてはめることができるかが勝敗を左右します。AIは、リーダーシップの複雑さを解消するものではありません。むしろ、難しさは増すでしょう。ネットポジティブの原則は、イノベーションとシステム全体の責任を整合させることです。そうすることで、組織はAIを単なるパフォーマンスの推進役ではなく、持続的なビジネス価値を創出する貢献者として位置付けることができるのです。

ネットポジティブに考えるための5つのステップ

ネットポジティブ思考を取り入れたいリーダーに向けて、実践的な5つのステップを紹介します。

  • 譲れない部分について、ルールを早めに決める
    例えば▼透明性、▼責任の所在、▼法規制との整合性などについて、明確なルールを定めておく。
  • コストは賢く削減する
    非効率的な作業や重複する業務を集中して削減する。ただ、コンプライアンス上のリスクにつながるコスト削減は避ける。
  • ガバナンスは部門横断で取り組む
    ▼IT部門、▼リスク部門、▼サステナビリティ部門、▼法務部門の各リーダーを、はじめから巻き込む。
  • 研究開発への投資と並行して人材教育にも投資する
    ▼充実した研修、▼運用モデルの確立、▼異なる組織文化の統合などは、技術開発と同じくらい重要。
  • 評価基準は広く
    ▼レジリエンスの強化、▼エネルギー効率の改善、▼ステークホルダーからの信頼といった指標についても追いかける。

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