指を差し合う子供とロボットの手。AIと人間のインタラクション。

「Trust in AI」を変革の起点に
―持続可能な成長と未来を共創する―

Article | 2026年7月6日

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0.01秒を争うF1のレースで勝敗を決めるのは、エンジンスペックや車体の形だけではありません。レース戦略や空力デザイン、ピットクルーとの連携、ドライバーの判断力。これらが全て有機的につながって初めて生まれる、マシンとチームへの揺るがぬ「信頼」こそ、勝利の土台になるのです。一つでも欠ければ、あるいはバランスを失えば、あっという間に周回遅れとなってしまうでしょう。

多くの企業がAIという「変革のエンジン」を手に入れようとしています。しかし、技術革新へのキャッチアップ、市場の変化への適応、自社のビジネスへの最適活用。これらの設計思想が無いままAIを導入すれば「技術のつぎはぎ」に陥り、ビジネスという過酷なレースを勝ち抜くことはできません。何より、「いかに高性能か」という従来の価値基準だけではもはやレースへの出場資格すら失いかねないでしょう。

決定的な勝負の差を生むのは「信頼」です。真の信頼とは一朝一夕に築くことはできません。富士通は停止や障害が許されない多くの社会インフラの分野で、90年近くにわたってその信頼と向き合い続けてきました。連綿と紡いできた歴史を紐解き、未来を見据える今。AIの潜在能力を解き放ち、企業の変革を加速するカギは信頼にあると確信しています。

「Trust in AI」とは、単なる技術や概念ではありません。それは、AIが企業や社会の中核を担う時代に、人・組織・社会がAIを信頼し、任せ続けられる関係性を成立させるための条件です。Uvance Wayfindersは、その条件を 「説明可能」「安全・公正」「ソブリン」「持続可能」「接続」 の5つの要素として整理しました。これらは個別の機能要件ではなく、相互に作用し合うことで初めて、変革を支える「信頼」が成立します。

本稿は、Trust in AIがなぜ変革に必要なのかを問い直す、成長への招待状です。5つの要素がいかに変革と成長の好循環を生むか、共にその道を拓きましょう。

AIエージェント時代の未来を拓く変革は、Trust in AIから始まるのです。

Section 1

AIの進化が問う「信頼」の必然性

AIの進化は社会やビジネスに多大な恩恵をもたらす一方、全ての企業に根源的な問いを突き付けています。ブラックボックス化された判断プロセスをどう解明するか。特定のデータに起因するバイアスをどう排除するか。サイバー攻撃によるセキュリティと制御不能への脅威にどう対峙するか。これらは今や、経営の最重要課題の一つとして真正面から受け止めなければなりません。

AIが社会に浸透する過渡期である今、その評価軸は「性能の高さ」から「信頼性」へと大きくシフトしています。革新性や効率性だけではAIの真価は語れません。むしろ、信頼性に欠けるAIを導入すれば、レピュテーションの失墜やビジネスの中断といった深刻な経営リスクに直結します。

AIによる社会やビジネスの持続的成長には、揺るぎない土台としての信頼が不可欠です。2025年に創業90周年を迎えた富士通は、日本の情報通信技術のパイオニアとして社会基盤を支え続けてきました。コンピュータ企業からIT企業、DX企業へと事業領域を拡大する中、一貫して追求してきた価値は、信頼にほかなりません。

AIは人間の代替ではなく、人間の能力を拡張するパートナーである、というHuman Centricの思想。そして、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパス。これらはAIエージェント時代に向けて掲げるスローガンではありません。私たちの歴史そのものであり、お客さまと共にTrust in AIを社会実装していくという約束の証なのです。

Section 2

「Trust in AI」を構成する5つのコア要素

Trust in AIとは、以下で詳述する5つのコア要素の集合体です。企業の変革を成り立たせるための構造要件であり、どれか一つでも欠ければAIの真価を発揮することはできません。

Trust in AIの5要素(説明可能・安全公正・ソブリン・持続可能・接続)を示す図。AIの判断根拠の可視化、安全で倫理的な運用、データ主権、低コスト継続利用、異なるAIシステム間の円滑な連携を示す。
「Trust in AI」の5つのコア要素の説明文
(出典)Uvance Wayfinders作成

本章では5つの要素がそれぞれどのようなビジネス価値を生むのか、そしてそれらを支える富士通の技術と取り組みを紹介します。

1. 説明可能:納得と共創の道筋

AIが出した重要な判断に「なぜその結論に至ったのか」と問うた際、明確な答えが返ってこなければ、企業はその判断を受け入れ、責任を持つことはできません。説明可能であることは、AIを単に「信じる」対象から、人間が「納得した上で任せられる」パートナーへと変えるための絶対条件です。

富士通はAIの判断プロセスを透明にする技術を追求しています。例えば、膨大な知識を体系的に関連付けるナレッジグラフは、AIの思考回路(論理推論と出力根拠)を「知識の地図」のように可視化します。さらに、このナレッジグラフを基軸としたRAG技術*1は、AIの「知の宝庫」となるデータの正確性を飛躍的に高め、社内の膨大な規定集や過去の知見から正確な根拠を探し出します。

因果AI*2は、事象の「Why(原理)」を解明します。営業成績低迷の真の原因が市場変動か、プロモーションのミスなのか。単なる相関関係ではなく、原因と結果を客観的に突き止め、ビジネスにおける再現性を担保することで次の戦略の一手を自信を持って打つことができるのです。

2. 安全・公正:人との協働と公正な社会の実現

AI技術の普及に伴い、脆弱性、サイバー脅威、倫理面でのリスクへの備えが強く求められます。安全・公正であることは、企業が社会からの信頼を得て持続的に成長するための重要な「免許証」となります。

富士通は2019年、「富士通グループAIコミットメント」を策定。外部有識者からなる委員会を設置するなど、設計段階から倫理を考慮する「Ethics-by-Design」の考えのもと、取り組みを進めています。また、欧州最大のAI倫理機関AI4Peopleの創立メンバーであるほか、OECD(経済協力開発機構)やAISI(AI Safety Institute)などの国際フォーラムに参画しています。国内でも、総務省・経産省の「AI事業者ガイドライン」改訂に検討会を通じて参画するとともに、AI法を含む国内の制度設計に関する議論の枠組みにも参画しています。

AI時代特有のサイバー脅威に対応する技術開発にも取り組んでいます。「マルチAIエージェント技術*3」は、AI自身が攻撃と防御を繰り返して脆弱性を自ら発見し、対策を導き出します。セキュリティ専門家でなくとも未然に防ぐセキュリティ対策が可能となります。

3. ソブリン:データとAI主権の自律性を保障

データとAI主権の重要性はかつてなく高まっています。データが適切に管理され、AIシステム自体が外部からの不当な影響を受けずに自律的に機能することは現代の経営において不可欠です。

ソブリンの定義の一つとして「Security(安全)」「Flexibility(柔軟性)」「Domain specific(業種・業務特化)」があります。

カナダのAIスタートアップCohereと共同開発した企業向けLLM(大規模言語モデル)「Takane*4」は、安全なプライベート環境で利用できるのが特長です。AIエージェントを領域特化し、セキュアにワークフローの品質を自律改善する「マルチAIエージェントフレームワーク*5」は、特定領域で自ら成長しながらエージェント間の連携を最適化し、エージェント同士のやりとりを適切に安全に管理します。AIエージェント共創を支える「セキュアエージェントゲートウェイ*6」は、異なる企業間でセキュアにデータや知識の連携を行うことができ、AIエージェントが協調、学習、データ活用などで連携するAIスペースの社会実装を目指しています。

4. 持続可能:持続的な運用と柔軟な基盤

AIの進化と普及に伴い、計算処理に必要な電力消費量とコストは指数関数的に増えています。これは全ての企業にとって、サステナビリティ経営と財務規律の両面から無視できない経営課題です。AIを任せ続けられるためには、長期にわたり無理なく運用できる“持続可能性”が欠かせません。
富士通が2027年の実用化を目指す次世代CPU「FUJITSU-MONAKA*7」は、競合他社比で2倍の電力効率など、AI処理性能を大幅に向上させます。この卓越した電力性能を活かし、グローバルパートナーとの戦略的連携*8を通じて、お客様の多様なワークロードに対し省エネルギーと高効率なコンピューティング環境を提供します。

開発中のLLM向けAI軽量化技術*9は、高性能な計算リソースを必要とする大規模AIモデルを、少ない計算リソースで効率的に動かすことを可能にします。また、長年のスーパーコンピュータ開発で培った高性能計算技術や、将来のブレークスルーが期待される量子コンピューティング技術を組み合わせることで、AI活用の持続可能性をあらゆる側面から追求していきます。

5. 接続:つながりと協調による新たな価値

AIの活用を特定の部門や業務プロセスに閉じていては、真の力を十分に発揮できません。真の変革は組織の壁、業界の垣根を越えたデータとAIの連携によって生まれます。しかし、異なるシステムやデータを安全かつ制約なくつなげることには困難が伴うのも事実です。

ここで言う「接続」とは、単なる技術インターフェースではありません。組織のサイロを壊し、クロスインダストリーでの協業を可能にする「イノベーションの触媒」です。例えば次世代通信のインフラ技術「AI-RAN」を実現する仮想RAN(無線アクセスネットワーク)ソリューションは、リアルタイムでのデータ解析を通じた新たなサービスの創出を目指しています。AIプラットフォームの「Fujitsu Kozuchi*10」やTakaneといったAI技術は、高い接続性を設計思想の中心に据えています。組織や企業の壁を越えて知を繋ぎ、新たなビジネス価値の枠組みを広げること。それこそが、接続性がもたらす変革の果実なのです。

5つの組み合わせがAIに信頼を生む

ここまで5つの要素を個別に紹介してきました。最も重要なのは、これらはバラバラな機能ではなく、一つの統合されたシステムとして機能して初めて、揺るぎない信頼が生まれるという事実です。正確でも安全でなければ意味がなく、安全でもソブリンでなければリスクが残る。この構造要件こそ、次の章で示す産業界の変革と成長の好循環を支える基盤となるのです。

Section 3

「Trust in AI」が描く、新たな成長曲線

Trust in AIは既存の業務を効率化するツールではありません。人間とAIの協業モデル、つまりビジネスのOSそのものを書き換える変革の起点です。新たなOSが産業構造をどう変えるのか、人間とAIの役割をどうシフトさせるのか。製造、金融、医療・製薬の3つの領域を例に、変革の姿を描きます。

光る回路図の上に立つ人物。将来の道筋や決断。

製造業:生産性から「価値創造性」へ

変革の本質は、生産ラインの効率化から、技術・知見やサプライチェーンにわたるまでの「知の創造サイクル」を高速化することにあります。

  • 高精度な予兆保全と生産の持続可能性

    AIは稼働データから故障の兆候を早期に検知し、計画外の設備停止リスクを最小限に抑えます。AIの診断根拠をもとに、エンジニアは故障原因をより深く、素早く理解できるようになります。修理計画の最適化、再発防止策の立案、設備設計へのフィードバックといった、より創造的な問題解決に集中できるようになります。

  • 熟練技術の継承と技術主権の確保

    AIがベテラン技術者の暗黙知を形式知化し、品質の安定化を推進します。重要なのは、ソブリンな環境で確実に保護し、企業の競争優位の源泉として守ることです。人間の役割は、AIによって形式知化された技術を若手に教えたり、さらなる改善の仮説を立てて検証したりするなど、持続的な技術革新の主導役へとシフトします。

  • サプライチェーンの最適化とレジリエンス強化

    説明可能なAIが需要予測やリスク管理などで「なぜそうなるのか」という根拠を可視化し、膨大なデータを分析して最適な代替案を示します。人間はAIの提案をベースに、世界情勢やパートナー企業との関係といった、非構造的な情報も加えて最終判断を下せるようになります。

金融業:厳格なガバナンスと「超」パーソナライズの両立

変革の本質は、厳格な規制と倫理性が求められる中でも厳密なガバナンスを維持したまま、顧客一人ひとりに深く寄り添うサービスの実現にあります。

  • 厳正な不正検知とデータ主権の確保

    AIが膨大な取引データから不正パターンをリアルタイムで検出し、その根拠とともにアラートを発します。人間は特に悪質な手口の分析や、新たなセキュリティ対策の立案など、高度な専門性が求められる業務へとシフトします。顧客データは常にソブリンな環境で管理されるので、データ主権を守ります。

  • 融資審査の迅速化、公平性

    AIは客観的かつ説明可能なデータに基づき、従来のバイアスを排除し、公正かつ迅速な融資審査を支援します。人間は画一的な基準による判断から解放され、AIの審査結果を参考にしつつ、起業家の情熱や事業の将来性といった定性的な要素を評価する時間を確保します。AIの判断に人の温かみを加え、新たなビジネスの芽を育む機会を増やします。

医療・製薬:個別化医療と創薬プロセスの「爆速性」

変革の本質は、経験則に頼り気味だった医療から、データ駆動型への移行を加速することです。

  • 診断支援の革新と個別最適化医療の加速

    AIは医療画像や患者データを複合的に解析し、病変の早期発見と診断精度の向上を支えます。医師はAIの示唆を「第二の専門医」の意見として参考にし、自身の経験や患者との対話から得られる情報を統合して、患者一人ひとりに最適な治療計画を立案・実行します。

  • 新薬開発の劇的な加速とコスト効率の向上

    AIは膨大なデータから有望な候補を効率的に探索し、創薬プロセスを劇的に短縮します。人間はAIが示した候補物質の作用を解明したり、新たな創薬ターゲットの仮説を立てたりといった、より創造的で知的な探求と実証に集中できます。

これらはTrust in AIがもたらす変革と成長のほんの一例に過ぎません。不確実性の高まる現代において、過去の成功に固執したり、半端なAI導入で満足したりすることは、企業にとって成長機会の逸失、ひいては経営戦略上の大きなリスクとなりかねません。5つの要素を個々の課題に応じて最適につなぎ、統合することで、AIは「使える」から「任せられる」存在へと昇華し、真の変革エンジンとなるのです。

Section 4

おわりに

Trust in AIは、単なる最新技術の総称ではありません。AIエージェント時代を見据えたとき、社会とビジネスを持続可能な成長へと導く揺るぎない礎であり、変革の原動力そのものです。

説明可能、安全・公正、ソブリン、持続可能、そして接続。これらの5つの要素は個々に独立して存在する技術のリストではありません。有機的に連携し、相互に作用することで信頼という価値を生む、不可分の構造要件です。一つでも欠ければ信頼できるAIのバランスは崩れ、真の変革は起こり得ないでしょう。

私たちの使命は、5つの要素を深く探求して最先端の技術を開発し、シームレスに統合し、社会やお客さまのビジネスに実装すること。さらに、その価値を最大限に発揮できるよう、業務プロセスや組織の変革までを包括的に支援し、実現に最後まで取り組むことです。これは、創業以来「信頼」を追求し続けてきた富士通だからこそ担える責任であり、提供価値です。

ビジネスの成否がAIによって大きく左右される時代だからこそ、今、一歩を踏み出す時です。Trust in AIを変革の起点とし、私たちと共に、新たな価値と持続可能な社会を共創していきましょう。

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AIが社会やビジネスの基盤となるいま、AIの価値は「性能」だけでは語れません。 評価軸は「信頼性」へ――信頼を欠くAIは、レピュテーションの失墜や業務の中断といった経営リスクにもつながります。 Wayfindersが整理した「Trust in AI」という考え方を手がかりに、信頼を変革の土台として捉える全体像を紐解きます。
白地に赤い波状の線が右下から中央に向かって流れる抽象的な背景。