第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会 概要レポート(前編)
最先端研究施設で産学連携の成果を体感し、多様な研究者と議論して得られた「気づき」とは?
2025年12月19日
富士通は、現代社会の複雑な課題に対し、テクノロジーでネットポジティブな社会を実現するためには、「革新的な技術の創出」と「それを生み出す人材の育成」が不可欠だと考えています。この高い目標の実現には、富士通単独ではなく大学との密接な連携が鍵となります。その信念のもと、2022年4月に設立されたのが、新たな産学連携モデル「富士通スモールリサーチラボ(SRL)」です。SRLでは、富士通の研究員が大学内に常駐あるいは長期滞在し、大学と連携して社会課題解決に貢献する技術開発と、未来を担う人材育成に取り組んでいます。
SRL間のネットワークを強化し、そこから生まれる「集合知」を創出することを目的に、2023年より「富士通スモールリサーチラボ全国大会」を毎年開催しています。3年間の集大成ともいえる第3回全国大会は、9月12日に東北大学で開催されました。
第3回 富士通スモールリサーチラボ(注1)全国大会について
本大会は、最先端技術に触れて議論することを目的とした技術発表・講演、先端研究施設見学と、研究開発や人材育成に関して率直に議論することを目的としたパネルディスカッションの二つのテーマで開催されました。本稿「前編」では、本全国大会の全体像に加え、最先端技術に触れて議論する中で研究者たちが得た気づきを中心に報告します。パネルディスカッションでの大学と富士通の研究者たちが繰り広げた白熱の議論は、「後編」にて報告いたします。
第3回全国大会は、まず午前の部として、東北大学青葉山キャンパスにある高輝度放射光施設「ナノテラス(注2)」を見学しました。午後の部は片平キャンパスに場所を移し、富士通執行役員副社長ヴィヴェック・マハジャンによる「大学の皆様と共にここまで進められたことに感謝します。ナノテラスの壮大さに勝るモチベーションで今日の会を進めましょう!」との挨拶で幕を開けました。最新技術や示唆に富んだ講演は、その技術的な先進性だけでなく、研究者それぞれのイノベーション創出への思いを強く刺激しました。
「ナノテラス」は技術的スケールだけでなく、多くのプレイヤーが支える「エコシステム」が素晴らしい
東北大学SRLでは、ナノテラスを活用した共同研究を進めています。ナノテラスで得られる高精度なデータを「発見知能技術」で解析し、材料科学分野で新たな知見を見出すことを目指しています。東北大学国際放射光 イノベーション・スマート研究センター(SRIS)(注3)の虻川匡司先生、東北大学ナノテラス共創推進機構(注4)の渡邉真史先生、そしてSRISにも在籍されている東北大学SRLの佐藤宇史先生の案内のもとで行われたナノテラスの見学には、各SRLの研究者約100名が参加。大規模施設の運営や実際の計測に関する課題など、活発な質疑応答が行われました。
参加研究者の多くがその先進性や規模に感銘を受けるなか、執行役員EVP富士通研究所長の岡本青史は、「ナノテラスには多くの企業が集まり、ビジネスエコシステムが形成されていることは非常に参考になる。(Fujitsu Technology Parkに建設中の)量子棟(注5)もナノテラスの取り組みを手本にできる。量子技術も、様々な企業などの参加があって初めて出来上がっていくものだ」と語りました。ナノテラス設立の背景・経緯として「震災後、一握りの研究者が始めた活動が、皆で集い社会に貢献していくとの思いのもと、多くの企業や研究者が参画する現在の姿となった」という渡邉先生からの説明は、イノベーション創出に挑戦する経営層にも、新たな視座を与えました。
多様な研究分野、そして産業界と大学を「縦横につなぐ」全国大会が研究者たちに与えた刺激
トロント大学SRLのJason H. Anderson先生には、「Reconfigurable Hardware: Future Proofing Machine Learning and High-Performance Computing Acceleration(再構成可能ハードウェア:機械学習と高性能計算のアクセラレーションを未来志向に)」をテーマにご講演いただきました。AIの進化など予測が難しい未来において、コンピューティング技術がどうあるべきかという、示唆に富んだ将来像が語られました。
技術展示では、スーパーコンピュータ「富岳」を利用して台風に伴う竜巻の予測を可能とする気象シミュレーションを実現(横浜国立大学SRL)、創薬・材料開発を切り拓くGPUを用いた高速なオープンソースの量子化学計算ソフトウェア「GANSU」を開発(広島大学SRL)、世界最大規模となる量子コンピュータ・クラウドサービス向けの基本ソフトウェア群をオープンソースとして公開・運用開始(大阪大学SRL)、高精度量子ゲート操作可能なダイヤモンドスピン量子ビットのチップ開発(デルフト工科大学SRL)など、SRL設立3年を経て生み出された様々な技術成果(注6)が紹介されました。
海外SRLを含む幅広い分野の研究者と直接会話できる機会は、「自身の研究領域に関して異分野の方の目から見た議論は有益だった」「普段の学会等での研究交流では得られない視点からの議論に参加できてよかった」といったコメントが、長いキャリアを有する研究者からも寄せられました。分野横断でフランクな議論ができる全国大会は、研究者に様々な刺激を与えたようです。
また、学生からは、「SRLで企業が期待することを明確に理解できた。産学連携は学生にとって、研究が社会の価値へ昇華することを実感できる」との感想がありました。3年にわたる産学連携の集大成としての研究成果は、学生たちにとって、研究が社会貢献に結びつく明確なイメージを与え、研究者としての未来を考えるうえでの貴重な機会となったようです。神戸大学SRLの坪倉先生からも、「学生は企業とのつながりが圧倒的に乏しい。企業の目線で社会課題に触れ、社会貢献できる姿を知ることができる場で非常にありがたい」と、学生の率直な感想とも重なる教育者としての期待も寄せていただきました。
参加者からいただいた、「全国大会に参加し、富士通が産学連携の「ハブ」として機能していることを実感した」との意見に集約されるように、多様な研究分野を、そして産業界と大学を縦横につなぐ富士通スモールリサーチラボ全国大会は、研究者をはじめとして産学連携に関わるものにとって他に類を見ない貴重な場となりました。
- (注6)[プレスリリース] 横浜国立大学SRL:富士通と横浜国立大学、スーパーコンピュータ「富岳」を利用して、台風に伴う竜巻の予測を可能にする気象シミュレーションを世界で初めて実現
- (注6)[外部リンク] 広島大学SRL:【研究成果】量子化学計算を革新!GPUで高速化するソフトウェア「GANSU(ガンス)」をオープンソース公開 従来比最大7.1倍の高速計算を実現!
- (注6)[プレスリリース] 大阪大学SRL:量子コンピュータ・クラウドサービス向けの世界最大規模の基本ソフトウェア群をオープンソースとして公開・運用開始
- (注6)[プレスリリース] デルフト工科大学SRL:ダイヤモンドスピン量子ビットの高精度量子ゲート操作技術を開発
本稿「前編」では、第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会の全体像に加え、最先端技術に触れて議論する場や、そうした場での研究者の気づきを中心に報告しました。経営層から若手の研究者まで、様々な立場の研究者に対して、技術的なインパクトだけでなく、「エコシステム」としての研究施設のあり方、異分野からの視座、研究が社会貢献に結びつく明確なイメージなど、多様な刺激を与える大会となりました。
さらに、全国大会では、「SRLのこれまでとこれから」と題して、富士通経営層をパネリストとしたパネルディスカッションを開催しました。ここでは、大学の先生方から、博士人材の育成や活躍に対する富士通の「本気度」や、学術の探求を志す大学の研究者の思いに富士通がどう応え共に取り組むのかを問う質問など、産学連携の本質に踏み込む厳しい質問が投げかけられ、富士通経営層が真正面から答えました。この白熱した議論は「後編」にてお伝えしておりますので、ぜひご一読ください。
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この記事を書いたのは
富士通株式会社
テクノロジビジネスマネジメント本部 産学連携推進室 清水 雅芳 / 浅見 智子 / 関口 麻友子
技術戦略本部 テクノロジーマーケティング戦略統括部 園部 順 / 白 湘一
産学連携を推進・変革しイノベーション創出を目指す産学連携推進室と、R&D活動を軸に富士通のパーパスから先端技術まで社内外への発信に取り組むテクノロジーマーケティング戦略統括部が共同して作成しました
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