第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会 深掘りレポート(後編)

学術を探求するアカデミアや博士人材と富士通はどう向き合うか?~SRLパネルディスカッションで大学と富士通が白熱の議論~

2025年12月19日

「富士通スモールリサーチラボ(SRL)」では、富士通の研究員が大学内に常駐あるいは長期滞在し、大学と連携して社会課題解決に貢献する技術開発と、未来を担う人材育成に取り組んでいます。SRL間のネットワークを強化し、そこから生まれる「集合知」を創出することを目的に、第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会が、9月12日に東北大学で開催されました。
本大会で行われたパネルディスカッションでは、学術の探求や社会課題解決に向けた熱い思いが交わされ、SRLを軸に人材育成とイノベーション創出を推進する双方の意思が再確認されました。

大学と富士通双方のSRLに込めた思いを受け、パネルディスカッション開催

本大会では、SRLの設立から発展を強く支えてきた東北大学の小谷元子理事と、富士通で産学連携を担当するエグゼクティブディレクター豊田建のプレゼンテーションに続き、富士通の経営層(富士通執行役員副社長ヴィヴェック・マハジャン、執行役員EVP富士通研究所長岡本青史、豊田)がパネリスト、産学連携推進室長の永井洋樹が進行役として「SRLのこれまでとこれから」をテーマにパネルディスカッションを行いました。

パネルディスカッションに先立ち、小谷理事からは、「世界トップレベルの研究機関を目指す東北大学が進める大学改革の中で、2021年度に開始した共創研究所は、中長期で組織的に連携する点で富士通のSRLと共通する。SRLの構想から同じ思いで協力関係を深めることができた。数学という基礎的な学問をベースにした研究に加え、国際インターンシッププログラムを通じた研究者育成など多くの成果が出ており、さらなる協力関係を深めたい」と、連携に対する強い思いが語られました。豊田からは、富士通とアカデミアが「汽水域」のように自由に行き来し交流する、SRLが目指す理想が語られました。

全国大会で講演する東北大学の小谷理事
講演する小谷理事

永井から、富士通がテクノロジーカンパニーとして挑戦していく基盤はSRLであると改めて強調されたうえで開かれたパネルディスカッションでは、学術の探求や社会課題解決に向けた熱い思いが交わされ、SRLを軸に人材育成とイノベーション創出を推進する双方の意思が再確認されました。

博士人材育成と活躍に対する富士通の「本気度」は?

パネルディスカッションで質問の口火を切ったのは、横浜国立大学SRL(東京大学所属)の佐藤正樹先生でした。博士人材育成に力を入れる富士通の取り組み(卓越社会人制度(注1))を高く評価したうえで、「博士研究者になった後のキャリアプランについて、富士通はどう考えているのか」という、育成だけでなく活躍・活用も含めた「本気度」を問う質問が投げかけられました。

岡本は、「富士通研究所では博士人材が研究のプロとして活躍することを求めている。研究者それぞれが自分の価値観を大事にして高みを目指せる制度を作っている。自分のやりたいことが富士通でできないのであれば外に出て行くのも理解するが、一度外に出てまた富士通に戻ってくるパターンもある。挑戦し甲斐のあるテーマや環境を作っていくのは我々の仕事だ」と、研究者を尊重し、キャリアを支援する富士通の姿勢を答えました。さらに、富士通の人材育成への「本気度」を裏付けるように、会場にいたR&D人事部長の西明尚隆は「研究者自身のキャリアオーナーシップを第一に考える。アルムナイ(卒業生)コミュニティも充実しており、外部で経験値を高めた人が再び富士通で貢献したいなら、活躍できる場はいつでも用意できる」と、答えました。

さらにマハジャンからは「富士通の未来を支える基幹技術は、人材にかかっている。博士人材、数学・物理学など基礎的な学問の研究者によってはじめて、AI、コンピューティング、量子などの技術が実現する」と、人材育成の重要性に関する力強いメッセージが発せられました。

このメッセージは大学の先生方に強いインパクトを与え、質問者の佐藤先生から「非常に示唆に富む説明。SRLが産学連携のプロトタイプとして発展し、大きな影響をもたらすことを期待する」と大きな期待が寄せられ、また、参加した数学系の教授から「これは数学や物理のコミュニティを勇気づけてくれるコメントですね、と隣に座っていた別の教授一緒に喜びました」との声も届きました。さらに、大阪大学SRLの藤井啓祐先生からは「博士人材育成にも理解のあるこのような制度が就職活動の在り方を変え、大学で十分な研究経験を積み企業に入るようになれば、双方にとって好ましい」と、大学と企業の関係性という観点からも期待を示しました。

パネルディスカッションで質問する横浜国立大学の佐藤正樹先生
質問の口火を切った佐藤先生
質問に答える富士通のヴィヴェック・マハジャンCTOとパネリスト
質問に答えるマハジャンとパネリスト

ビジネス創出と革新的基礎研究、富士通と大学が研究の青写真を共に描く

SRL設立3年余りを経て、SRLでの協力関係から生まれた研究成果が研究者にも実感され始めたなかで、あらためて研究テーマや協力関係を掘り下げる質問が相次ぎました。

横浜国立大学SRLの吉田龍二先生からは、「理学系の人間として純粋に現象を理解するという基礎的なモチベーションがある。基礎がイノベーションに繋がることを踏まえたうえで、SRLではどのような範囲、時間軸で研究領域を考えているのか」、東北大学SRLの水藤先生からは、「富士通の研究戦略に合致し、共に担うという言葉について、特に『共に担う』を具体的にどう考えているのか」といった、産学連携の根幹に関わる質問がありました。

岡本からは、「SRLへの期待は、アカデミックなインパクトと事業的なインパクトの両立である。基礎研究とビジネスの距離が非常に近くなっている昨今、その両立を目指す。そして、我々が考える『共に担う』とは、『共同研究のテーマやマイルストーンを、大学の先生と富士通が一緒に作ること』である」と明確に答えました。マハジャンも「『共に担う』とは、先生方と共に技術をグローバルでトップ3の水準を目指すこと。それがビジネスだけでなく、研究に対するモチベーション向上、更にはイノベーションに繋がる」と、「共に目指す高み」を示しました。

こうした企業研究の姿勢は学生にも新鮮だったようで、「若者への期待」に踏み込んだ質問がありました。マハジャンは「世界のトップに立つという気持ち。情熱を持つこと、失敗してもあきらめないこと。それができれば、ワクワク楽しくもなりますよ」と、世界を目指す気持ちを鼓舞するメッセージを送りました。岡本は「越境」の精神を強調し、「自分の殻に閉じこもらず、積極的に外に出て異なる分野の人々と交流し、イノベーションを生み出すこと」の重要性を語りました。学生も「感銘を受けた。情熱の重要性や、世界トップレベルで戦う研究を意識するようになった」と、研究者としてチャレンジする意識を強く刺激されたようです。

懇親会でも、経営層からのメッセージに関して活発な会話が交わされていました。質問した吉田先生は「パネルディスカッションを通じて富士通トップの考え方を直接聞くことで、理学を追求する立場としても、SRLの活動を魅力に感じている。自分が面白いと思えることを通じて貢献したい」と感想を述べられました。基礎研究を含む学術を志す大学研究者と共に、事業化による社会貢献という企業としての軸を保ちながら、熱意をもって共に研究を創り進めようというメッセージは、研究者を強く勇気づけました。

パネルディスカッションで質問する横浜国立大学の吉田龍二先生
質問する吉田先生(左)と水藤先生(右)
パネルディスカッションで質問する学生
質問する学生の方

最後に

SRLという新たな挑戦から3年、本全国大会での講演やパネルディスカッションを通じて、SRLの取り組みを振り返り、未来を見通すなかで、イノベーション創出と人材育成に対する大学の思いと、それに対する富士通のコミットメントが強く結びつきました。ナノテラス見学や懇親会など、多彩なプログラムを通して、多くの気づきや交流を深めることで、より大きく強い連携に向けた双方の固い意思を確認しあえた場となりました。SRLを軸として、新たな世界を切り開く産学連携のさらなる進展にぜひご期待ください。

関連情報

編集部おすすめ!

最先端研究施設で産学連携の成果を体感し、多様な研究者と議論して得られた「気づき」とは?

第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会を、9月12日に東北大学で開催しました。本大会は、最先端技術に触れ議論することを目的とした技術発表・講演、先端研究施設見学と、研究開発や人材育成に関して率直に議論することを目的としたパネルディスカッションの二部構成で開催しました。
第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会集合写真

UR都市機構×富士通
ゼロトラストで実現するセキュリティと利便性を両立した次世代基盤

UR都市機構と富士通は、ゼロトラストの概念に基づいたフルクラウドのセキュリティ基盤を構築し、堅牢なセキュリティと職員の利便性向上を両立しました。関係者インタビューを通して、取り組みや展望をご紹介します。
UR都市機構様と富士通担当者の集合写真

進化した異業種交流型ワーケーション
~地域創生とビジネス創出の機会~

富士通「異業種交流型ワーケーション」で地域課題解決とビジネス創出を両立。長崎での成功を受け、島根・松江で実施。企業・自治体・アカデミアが連携し新ビジネスを共創。成果と展望を紹介。
集合写真(上定市長/平松CHRO/参加者 等)

この記事を書いたのは

富士通株式会社
テクノロジビジネスマネジメント本部 産学連携推進室 清水 雅芳 / 浅見 智子 / 関口 麻友子
技術戦略本部 テクノロジーマーケティング戦略統括部 園部 順 / 白 湘一

産学連携を推進・変革しイノベーション創出を目指す産学連携推進室と、R&D活動を軸に富士通のパーパスから先端技術まで社内外への発信に取り組むテクノロジーマーケティング戦略統括部が共同して作成しました

富士通株式会社 テクノロジビジネスマネジメント本部 産学連携推進室 清水 雅芳 / 浅見 智子 / 関口 麻友子 技術戦略本部 テクノロジーマーケティング戦略統括部 園部 順 / 白 湘一

編集部おすすめ!

最先端研究施設で産学連携の成果を体感し、多様な研究者と議論して得られた「気づき」とは?

第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会を、9月12日に東北大学で開催しました。本大会は、最先端技術に触れ議論することを目的とした技術発表・講演、先端研究施設見学と、研究開発や人材育成に関して率直に議論することを目的としたパネルディスカッションの二部構成で開催しました。
第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会集合写真

UR都市機構×富士通
ゼロトラストで実現するセキュリティと利便性を両立した次世代基盤

UR都市機構と富士通は、ゼロトラストの概念に基づいたフルクラウドのセキュリティ基盤を構築し、堅牢なセキュリティと職員の利便性向上を両立しました。関係者インタビューを通して、取り組みや展望をご紹介します。
UR都市機構様と富士通担当者の集合写真

進化した異業種交流型ワーケーション
~地域創生とビジネス創出の機会~

富士通「異業種交流型ワーケーション」で地域課題解決とビジネス創出を両立。長崎での成功を受け、島根・松江で実施。企業・自治体・アカデミアが連携し新ビジネスを共創。成果と展望を紹介。
集合写真(上定市長/平松CHRO/参加者 等)

類似記事を探す

最先端研究施設で産学連携の成果を体感し、多様な研究者と議論して得られた「気づき」とは?

第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会を、9月12日に東北大学で開催しました。本大会は、最先端技術に触れ議論することを目的とした技術発表・講演、先端研究施設見学と、研究開発や人材育成に関して率直に議論することを目的としたパネルディスカッションの二部構成で開催しました。
第3回富士通スモールリサーチラボ全国大会集合写真

富士通×PwC「CSR担当者Meetup」レポート

富士通とPwC「CSR担当者Meetup」を開催。70名超が参加し、課題解決とソーシャルインパクト創出を目指しました。SDGs達成に向け、企業間連携を促進します。
富士通とPwCJapanの担当者4名の集合写真

未来を拓く産学連携:国内外16大学と富士通が社会課題解決に向け熱く議論 ~第2回富士通スモールリサーチラボ全国大会を開催

国内外16大学と富士通の研究者や有川節夫九大名誉教授・元総長らの参加の下、富士通スモールリサーチラボ第2回全国大会を10/17~18に神戸大にて開催しました。各拠点の成果を共有し、大学と企業が密連携し、技術革新や人材育成に取り組む思いを強くしました。
富士通スモールリサーチラボ全国大会の集合写真