サーキュラーエコノミーはいかに強靭なグローバルサプライチェーンを実現するか

緑豊かな森の中の円形道路の鳥瞰図

2025年6月6日

地政学的な緊張やサイバーセキュリティの脅威が高まる中、環境問題も深刻化しています。カリフォルニア州は気候変動により山火事が発生し、一部は居住が困難になりました。インドネシアの海岸は定期的に大量のプラスチック廃棄物で覆われ、ガーナやチリの一部の地域では、ヨーロッパから流れ着いた衣類の腐敗によって土壌が汚染されています。

これらの課題は、私たちの経済活動のあり方、そしてそれによって引き起こされるグローバルサプライチェーンの混乱と深く結びついています。それは、私たち一人ひとりの健康と生活を脅かし、生物多様性を蝕む根本原因に他なりません。

今、求められているのは、グローバル規模での解決策、そして社会構造そのものの変革です。その鍵となるのが、”サーキュラーエコノミー(循環型経済)”、すなわち、限りある資源を無駄なく循環させて環境負荷を抑えながら発展する経済システムです。

富士通は、ビジネスと未来ビジョンを提言する「テクノロジー&サービスビジョン」において、環境、経済、人々の幸福に正味でプラスの価値をもたらす「再生型企業」への変革を宣言し、サーキュラーエコノミーを事業の中核に据えています。その実現を担うのが、サステナブルな世界の実現を目指すFujitsu Uvanceです。

本稿では、サーキュラーエコノミーがいかにして現代社会が直面する課題を克服し、強靭なグローバルサプライチェーンを構築できるのかを解説します。貴重な調査結果、関連法規制の動向、技術革新の推進力、そして顧客事例を交えながら、その可能性を探ります。

サーキュラーエコノミーとは:持続可能性と経済成長の両立

「採取-製造-廃棄」型経済からの脱却

私たちは依然として、リニアな「採取-製造-廃棄」型経済に依存しています。衣類、携帯電話、ノートパソコン、包装材など、私たちが消費する製品の多くは、地球上の有限な資源を原料とし、複雑なグローバルバリューチェーンを通じて生産されています。しかし、製品が消費者の手に渡った後、企業はその流れをコントロールできなくなり、多くの場合、製品は廃棄され、小売業者や生産者の手に戻ることはありません。その結果、資源は価値を失い、廃棄物は環境と生物多様性に深刻な影響を与えています。

廃棄は、経済的な機会損失でもあります。たとえば、エレクトロニクス産業を見てみましょう。世界経済フォーラム(WEF)によると(注1)、世界中で年間約5,360万トンもの電子廃棄物が発生しており、その量は年間3~5%の増加しています。この増加率はあらゆる廃棄物の中で最大です。WEFは、その83%が回収されずに環境中に放置されていると推定しています。これは、環境と人々に深刻な影響を与えるだけでなく、サーキュラーエコノミーの視点から見ても、大きな機会損失と言えます。

切り株から生えた小さい芽

解決策:資源循環による経済の活性化

サーキュラーエコノミーは、単なるリサイクルの枠を超え、社会構造そのものを変革し、新たな収益源を生み出す可能性を秘めています。経済成長を有限資源の消費から切り離し、資源を可能な限り高い価値を維持したまま循環させることで、エネルギー、水、原材料の消費を抑え、大幅なコスト削減を実現します。製品設計は、その成否を左右する重要な要素です。エレン・マッカーサー財団によれば、製品の環境負荷の80%は、設計段階で決定されるとしています(注2)。したがって、サーキュラーエコノミーを実現するためには、製品の長寿命化、回収システムの構築、そして所有ではなく利用を促進する「サービスとしての(As a Service)」ビジネスモデル(自動車、携帯電話、洗濯機、さらには衣類のレンタルやリースなど)が不可欠となります。

資源の枯渇を食い止め、生分解性の包装材や衣類を普及させるなど、自然環境の再生も重要な原則です。循環型の経済活動は、希少で高価な原材料への依存度を下げ、サプライチェーンの混乱、国際物流に伴う温室効果ガス等の排出量を削減し、地域経済の活性化にもつながります。

マッキンゼーの調査によると、サーキュラーエコノミーは2025年までにヨーロッパだけで1兆ドル以上の経済機会を生み出し、企業の競争力強化に貢献すると推定されています。また、別の分析では、ヨーロッパの消費財メーカーが循環型ビジネスモデルに移行することで、2030年までに最大5,000億ユーロ相当の価値を獲得できる可能性があると試算されています。マッキンゼーは、環境、社会、ガバナンス(ESG)の指標に積極的に取り組む企業が、未来のリーダーになると主張しています(注3)。ESG指標は、循環経済の不可欠な側面です。たとえば、人権の遵守、グローバルサプライチェーンにおける公正な支払い、安全な労働環境の確保などの社会問題を考慮することです。

イノベーションと新たなビジネスモデルを牽引する法規制

欧州渉外チームによると、EUだけでなく、日本や米国など、世界中でサーキュラーエコノミーに関連する法規制が強化される傾向にあります。

  • EU:ESPR(持続可能な製品設計規則)
  • EU:修理する権利指令(修理の促進と代替品の提供)
  • EU:拡大生産者責任(EPR)
  • EU:CSRD(企業サステナビリティ報告指令)
  • ドイツ:サプライチェーン法
  • 米国:カリフォルニア州サプライチェーン透明法
  • 日本:環境配慮設計ガイドライン

企業は法規制を遵守し、競争力を維持するために、新たなビジネスモデル、製品、プロセスを設計する必要があります。法規制は、省エネルギー化、資源の有効活用、副産物の活用など、新たな収益源を創出する絶好の機会をもたらします。廃棄物を価値ある資源や製品に変えることで、経済と環境の両立が可能になるのです。

地球のイメージ画

富士通グローバル戦略研究部門からの洞察

サーキュラーエコノミー実現における課題

富士通グローバル戦略研究部門は、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、市場は主に以下の課題に直面していることを明らかにしました。
a) 標準化されたデータの欠如(特に効率的なデータ共有の方法)
b) データ統合の不足(データギャップによる意思決定の遅延)
c) サプライチェーンの分断(監査可能性、製品のトレーサビリティ、材料追跡の必要性)
d) 消費者のサステナブルな行動を促すインセンティブの不足

DPP(デジタル製品パスポート)がもたらす変革

富士通グローバル戦略研究部門は、DPP(デジタル製品パスポート)がこれらの課題の多くを解決し、成長機会と新たなビジネスモデルを創出すると考えています。

  • 業界全体の透明性を高めるトレーサビリティソリューションとマテリアルパスポート
  • 資源消費量、排出量、廃棄物発生量などのデータ収集
  • クリーンな生産スキームを促進するサプライチェーンの変革
  • 自己駆動型のサプライチェーン、循環型設計、製造を支援する、デジタルで透明性の高い、最適化された資源回収エコシステムを生み出すSaaS
  • 廃棄物を利益に変える過剰在庫管理SaaSソリューション
  • 効率的な廃棄物収集を可能にするスマートセンサー
  • 過剰在庫を削減するリアルタイム在庫計画
5名のビジネスマンが会議をしている様子

信頼できるアドバイザー:富士通のサーキュラーエコノミー推進と幅広い専門知識

米国 Cleo 社の「2024 Ecosystem Integration Global Market Report」によると、調査対象企業の97%が2023年にサプライチェーンテクノロジーに投資しており、その81%が24ヶ月以内にビジネス改善効果を実感しています。

富士通は、世界をリードするテクノロジープロバイダーとして、ブロックチェーンベースのソリューションを提供する「Sustainability Value Accelerator」チーム、デリバリーのエキスパート、コンサルティング部門、戦略的アライアンス部門、広報部門など、様々な事業部門においてサーキュラーエコノミーとサプライチェーンに関する専門知識を有しています。また、社内のグローバルサステナビリティコミュニティを通じて、シナジーと知識共有を促進しています。

富士通はまた、自動車産業の「Catena-X」や、エレクトロニクス、テキスタイル、タイヤ、建設分野におけるDPPに焦点を当てたEUプロジェクト「CIRPASS2」など、様々なサーキュラーエコノミーコンソーシアムやプロジェクトに参加しています。

具体的な共同プロジェクトの事例には、ファッション業界向けのサプライチェーン透明性プラットフォーム「tex.tracer(注4)」があります。このプラットフォームは、サプライチェーンの上流から下流までのデータを可視化し、ブランド、小売業者、消費者がQRコードを通じて衣服のサプライチェーンを追跡することができます。「tex.tracer」は、人、地球、利益のバランスが取れた、より良いファッションエコシステムの構築を目指し、衣類のライフサイクルを最大化することで、繊維産業の変革を推進します。

富士通は、主にお客様とパートナーに対し、以下のサービスを提供しています。
コンサルティング:戦略策定、ビジネスモデル変革
データサービス:データ収集、プラットフォーム構築、分析・AI活用、予知保全
Sustainability Value Accelerator:ブロックチェーン技術を活用して、サプライチェーン上の多様なステークホルダーが保有するデータをつなぎDPPを実現。取引の透明化、トレーサビリティ、サーキュラーエコノミー構築のためのビジネス課題を解決する

ノートパソコンの上に浮かび上がるデジタルのチェックリスト

主要なポイント

  • 循環経済を最優先課題に: 自然災害、地政学リスク、パンデミックなどの既存価値の急激な崩壊に対応するため、テクノロジーへの投資を積極的に行い、資源の安全保障と生物多様性を促進します。テクノロジーとデータが鍵となります。
  • 法規制を基盤に: 各地域の法規制(ESPRなど)に準拠したグローバルソリューションを構築します。グローバルバリューチェーンの中で、世界は繋がっています。
  • 循環型ビジネスモデルと設計: 新たな収益源を創出し、持続可能性を同時に実現します。イノベーションと循環設計が重要です。
  • エコシステムへの参画: 「CIRPASS2」や「Catena-X」などの業界横断的なエコシステムに積極的に参加し、顧客の課題やニーズを常に把握します。

私たちが目指すのは、私たち自身と次世代が安全に暮らし、豊かに生きられる世界です。自然と共存し、地球環境を再生していくために、グローバル経済が果たすべき役割は大きく、その変革を推進する力を持っています。

自転車をこいでいる女性と子供

出展

旧富士通グローバル戦略研究部門

関連情報

この記事を書いたのは

Stefanie Horn
Director Technology Partnership & ESG Europe I Circular Economy Focus

Stefanie Hornは、富士通のグローバル戦略アライアンスユニットに所属し、ドイツを拠点に活動しています。彼女は、グローバルな業界パートナーやお客様との共同開発および共同販売活動を主導しています。サーキュラーエコノミーと持続可能なビジネスモデルのイノベーションは彼女の注力分野であり、量子技術、AI、ブロックチェーン、IoTなどの新しい技術のメリットを業界横断的なユースケースに活用しています。仕事以外の時間には、ヨガをしたり、キノコの専門家として活動したり、有機栽培をしたりしてリフレッシュしています。また、パーマカルチャー(持続可能な暮らし方)や生物多様性の保全にも取り組んでいます。

“copyright(写真) Grit Siwonia”

Stefanie Horn