研究者の夢

フィジカルAIの実現に向けて~失敗を乗り越えるロボットへ~

プロフィール

宮原 捺希 フィジカルAI研究所

宮原 捺希 / Miyahara Natsuki

フィジカルAI研究所
大学院図書館情報メディア研究科卒
2021年入社
私のパーパス:人と技術を紡ぎ、世界の"楽"を増やす

Article|2026-06-26

テニスを原点に見出した研究の楽しさ

私は運動が好きで、小学5年生から大学までテニスを続けてきました。将来のキャリアは明確に決まっていませんでしたが、高校時代に達成できなかった「テニスの全国大会に出場する」という目標があり、大学では競技を続けながら学業と両立できる環境を求めて情報学部に進学しました。AI分野に興味を持つようになったきっかけは卒業研究でした。当時注目されていたAIと、自分が長く取り組んできたテニスを組み合わせたいと考え、「テニス×AI」をテーマに研究を行いました。テニスでは、相手選手の位置や打球の狙いを考慮しながら戦略を立ててプレイします。そこで、こうした情報をモーションキャプチャによって数値化し、戦略立案に活用できないかという観点からAIを用いた研究に取り組みました。具体的には、選手の位置(どこに立っているか、どこでボールを打ったか)やボールの軌道・バウンド位置を取得・分析し、試合でのパフォーマンス向上に貢献することを目指しました。大学院に進学してからもキャリアについて悩み続けていましたが、研究を進める中で、感覚的に捉えていた現象が可視化されていく面白さを実感しました。さらに、技術によって人の可能性を広げられることに魅力を感じ、研究員として新たな技術を生み出していきたいと考えるようになりました。

左:左が宮原。個人では目標の全国大会出場、そしてチームの全国準優勝にサポートとして貢献 右:学生時代の研究で自作した、テニスのプレー分析用のシミュレーションツール
左:左が宮原。個人では目標の全国大会出場、そしてチームの全国準優勝にサポートとして貢献
右:学生時代の研究で自作した、テニスのプレー分析用のシミュレーションツール

映像理解の研究を活かし、ロボットの行動知能を強化

私は現在、2026年4月に発足したフィジカルAI研究所に所属しています。当研究所は、さまざまな現場において人と多様なロボットが安全に共存・協働できる世界の実現を目指しています。さらに、現場の知見を取り入れてロボットを進化させ、協働の高度化を図るとともに、その成果を場所や業務を超えて共有し、社会全体の発展につなげていくことをビジョンとして掲げています。このビジョンの実現に向けて、ロボットがタスクを正しく理解し、業務指示に基づいて適切な行動を実行できるようにするため、ロボット、センサー、システム、空間を統合するプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi Physical OS」を開発しています(*1)。

その中で、私はこれまで取り組んできたコンピュータビジョンや映像理解の研究経験を活かし、ロボットの行動知能(*2)に関する研究に取り組んでいます。現在は、ロボットの「脳」ともいえるVLA(Vision-Language-Action)モデル (*3) を対象に、実世界で安定して行動するための技術に注力しています。特に、長時間のタスク実行において発生する行動ミスや、環境変化による失敗への対応が大きな課題となっています。そこで、ロボットが失敗を未然に防ぎ、さらに失敗した場合でも状況を認識して適切に回復できるような技術の実現を目指しています。これらの課題を乗り越えることで、実世界で活用可能な技術につなげたいと考えています。

難関国際会議の壁:「つくる」から「届ける」へ

これまで取り組んできた長時間映像理解の研究が、最難関の国際会議の一つであるCVPR 2026に採択されました(*4)。また、6月には現地でポスター発表も行いました。これまで論文投稿には何度も挑戦してきましたが、審査員からは「技術の良さが十分に伝わっていない」「初見では分かりづらい」といった査読コメントを受けていました。長時間映像のベンチマークにおいて、先輩と一緒に実験を重ね、長時間映像理解の推論性能を大きく向上させる成果を出していたにもかかわらず、提出内容が十分に評価されなかったことに強い悔しさを感じました。

当時、論文執筆をしていた私は、技術そのものだけでなく、それをどう伝えるかにも責任があるのではないかと考えました。そこでチーム外の研究者を巻き込み、議論やレビューの機会を意図的に増やすように進め方を見直しました。その結果、論文の構成や主張の明確さが大きく改善するとともに、技術もアップデートを重ね、最終的に採択へとつなげることができました。この経験を通じて、技術の価値は人によって引き出されるものであり、目標達成のためには意識の改革を起こすことも重要であると、改めて実感しました。

さらに、別のプロジェクトでは海外の展示会に一人で機材を持ち込み、デモを行うなど、研究とは異なる活動にも挑戦しました。こうした経験は非常に刺激的で、多くの学びを得る機会となりました。デモがうまく動作しないなどのトラブルにも直面しましたが、試行錯誤を重ねて改善した結果、来場者から良い反応をいただくことができ、大きな達成感につながりました。これらの経験を通じて、技術は「つくる」だけでなく、「伝え、価値として届ける」ことが重要であると実感し、企業研究者としての視野を大きく広げることができました。

CVPR2026でのポスター発表
CVPR2026でのポスター発表
海外展示会での富士通メンバーとの集合写真
海外展示会での富士通メンバーとの集合写真

多様な趣味を通じて広がる挑戦と気づき

社会人になってから始めた新しい挑戦の一つが、ダンスです。発表会などの目標に向かって練習に没頭する時間は、良いリフレッシュにもなっています。最近は即興ダンスにも挑戦していますが、振り付けを覚えることとは異なり、その場で自由に表現する難しさを実感しています。工夫を重ねながら、少しずつできることが増えていく過程そのものを楽しんでいます。研究以外のコミュニティとのつながりが広がる点も魅力の一つです。また、スポーツ観戦やオーディション番組を見ることも好きです。華やかな舞台の裏で努力を積み重ねる人たちの姿に触れることで、自分自身のモチベーションも高まります。さらに、旅行も趣味の一つで、海外で観光やスポーツ観戦を楽しむなど、日本とは異なる価値観や文化に触れることで刺激を受けています。

アメリカでミーハーに野球観戦。大きなフィールドと日本にはないエンターテインメント性がお気に入り
アメリカでミーハーに野球観戦。大きなフィールドと日本にはないエンターテインメント性がお気に入り

まだ見ぬ景色を目指して

今後の目標は、大きく二つあります。一つは、研究に限らず、自分の価値観や視野を広げられるような経験を積んでいくことです。その一つの挑戦として、博士課程への進学を考えています。外部の視点や新しい環境に触れながら研究に取り組み、自分自身の視野をさらに広げていきたいです。もう一つは、研究というキャリアを一つの選択肢として多くの方に伝えていくことです。特に、理系や研究職に対してハードルを感じている人の背中を押せる存在になりたいです。私自身、もともと研究者になることは想定していませんでしたが、ちょっとした後押しやきっかけから研究の面白さに気づき、現在に至っています。同じように自分の可能性に気づいていない人に対して、選択肢を広げられるような存在になりたいと考えています。

関係者からのメッセージ

「バランスのよい研究者」。宮原さんが入社後に私のチームに来た時の最初の印象だった。人にわかりやすく伝えられるプレゼンテーション力、英語も含めたコミュニケーション力、自主的に手を動かして研究を進めていく姿勢。研究チームのメンバーとして、こうした強みを生かし、様々な経験をして大きく成長した。しかし、これからはバランス型から研究者として尖る時。どんどんはみ出して突き抜けてほしい。そうなるための最高の研究環境をフィジカルAI研究所で提供していく。
(フィジカルAI研究所所長 鈴木源太)

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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