無線通信やレーダーの消費電力を低減する世界最高効率のGaNパワーアンプを開発
~ FR3と呼ばれる6G候補周波数において世界トップとなる電力効率74%を達成 ~

2026年3月5日

当社はこのたび、電波を遠くへ飛ばすために必要なパワーアンプにおいて、無線通信やレーダーなどに広く活用が可能な周波数8ギガヘルツ(以下、GHz)で世界最高*の電力変換効率74.3%を達成する技術を開発しました。同周波数は第6世代移動通信システム(以下、6G)の候補周波数帯であるFR3(注1)の一部であり、また、X帯(注2)とも呼ばれ、各種レーダーにも広く用いられています。今回、窒化ガリウム(GaN)(注3)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注4)(以下、GaN-HEMT)における高品質な絶縁ゲート技術を開発することで高い効率と高い出力の両立が可能となりました。本技術によりワイヤレス機器の消費電力を低減し、CO2排出量を削減することで持続可能な社会の実現に貢献します。

なお、本成果の詳細は、応用物理に関する先進的な成果を掲載する学術論文誌「Applied Physics Express」に掲載予定です。

* 当社調査に基づく

開発の背景

私たちを取り巻く便利な社会は目に見えない電波に支えられているといっても過言ではありません。スマートフォンやWi-Fiなどの無線通信、気象や防衛向けに用いられる物体把握のためのレーダー、テレビやラジオなどの公共放送、電子レンジに代表される非接触加熱など、どれも欠かせないものとなっています。これらは周波数により電波の到達距離や回り込み性能、解像度、周辺機器のサイズなどに違いがあり、各々の用途に適したものが使われています。
一方、近年のデジタル化およびAI社会の進展により通信のトラフィック量は激増の一途をたどっています。その中でも人や車など移動体との無線通信は、通信速度や消費電力の観点で光ファイバーに代表される有線通信に比べ原理的に不利であり、継続的な性能向上が求められています。

従来の課題および今回開発した技術

GaN-HEMTはシリコンやガリウムひ素など他材料をベースとしたトランジスタよりも出力や効率の性能に優れているため、移動通信の基地局や各種レーダー向けパワーアンプとして広く用いられています。従来のGaN-HEMTは電流を制御するためのゲート電極に、金属と半導体を直接接触させるショットキー接合(注5)を用いた電極が用いられていますが、この構造は高い電圧や大きな電流による大電力動作 時に漏れ電流が発生し、これに起因した出力や効率の低下が課題として挙げられていました。
今回、漏れ電流を抑制する目的で、ゲート金属とGaN半導体の間に窒化シリコンアルミニウム(SiAlN)からなる絶縁膜を挿入した金属-絶縁体-半導体(MIS)型と呼ばれる構造を開発しました(図1,2)。このSiAlNの成膜にはGaN半導体と同じ有機金属化学気相成長法(MOCVD)(注6)を用いることができ、半導体の結晶成長直後にSiAlNを形成することで、絶縁膜そのものだけでなく絶縁膜/半導体界面の高品質化が可能となります。さらにSiAlNとSiNの2種類の異なる膜を積層することで、ゲートフィールドプレートと呼ばれる張り出し構造を形成し、高電圧動作時の電界集中も抑制しました。これらの技術により、FR3およびX帯である8 GHzの周波数において、74.3%の電力付加効率(PAE)(注7)かつ9.8 W/mmの出力密度を同時に達成し、高効率と高出力の両立が可能となりました(図3)。本PAEは2026年3月4日現在、5 W/mm以上の出力を有するX帯パワーアンプにおいて世界トップの値となります(図4)。
なお、同デバイスを4Gや5Gで用いられる周波数に近い3 GHzで評価したところ、80.6%のPAEおよび10.5 W/mmの出力密度が得られており、同技術が幅広い周波数に適用可能であることも示されました。

今後の展開

当社は今後、本技術の実用化を目指し、実装技術の開発と信頼性の評価を進めていきます。また、ミリ波やサブテラヘルツ波などの高周波デバイスにも同技術を適用することで、広い周波数範囲でワイヤレス機器の省電力化を行い、当社のマテリアリティ(必要不可欠な貢献分野)の一つである地球環境問題の解決に貢献していきます。

図1 MISゲートを有するGaN-HEMT断面模式図
図2 GaN-HEMTのゲート特性
図3 GaN-HEMTのパワー特性
図4 X帯パワーアンプのベンチマーク

注釈

  • (注1)FR3(Frequency Range 3):

    次世代の移動通信システムの候補周波数として国際的に検討されている周波数帯(7.125 GHz~24.25 GHz)であり、現行のFR1(サブ6GHz帯)とFR2(ミリ波帯)の中間の周波数となる。

  • (注2)X帯:

    マイクロ波の周波数分類の一つであり、8~12 GHzの帯域を指す。

  • (注3)窒化ガリウム(GaN):

    電圧による破壊に強いワイドバンドギャップ半導体の一つ。同じワイドバンドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)や酸化ガリウム(Ga2O3)と比べ、次項のHEMT構造を採ることで高い移動度を実現できる特長がある。

  • (注4)高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor):

    バンドギャップの異なる半導体の界面にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通株式会社が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話基地局、GPSを利用したナビゲーションシステムなど、ICT社会を支える基盤技術として広く使用されている。

  • (注5)ショットキー接合:

    金属-半導体接合の一つであり、片方向のみに電流が流れる整流性を有する。電界効果型トランジスタのゲート電極に用いられる。

  • (注6) 有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition):

    原子レベルで平坦な薄膜を形成する結晶成長法の一つ。トリメチルガリウムなどの有機金属を原料として用いる。

  • (注7)電力付加効率(Power-Added Efficiency):

    電力変換効率を表す指標の一つ。与えたDC(直流)電力がどれだけ信号の増幅に寄与したかを示す。

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