「脱炭素社会の実現に貢献する AI を活用した大規模系材料の長時間分子動力学シミュレーション技術の開発と実用化」が令和7年度「第73回 電気科学技術奨励賞」を受賞

2025年12月24日

「脱炭素社会の実現に貢献する AI を活用した大規模系材料の長時間分子動力学シミュレーション技術の開発と実用化」が、このたび、公益財団法人 電気科学技術奨励会主催の第73回 電気科学技術奨励賞を受賞しました。本技術はAIを活用した大規模・長時間の分子動力学シミュレーションを現実的な時間で可能にします。
贈呈式は、2025年11月25日(火)に東京都千代田区のKKRホテル東京で行われました。

左から、坂井 靖文、吉本 勇太、松村 直樹

電気科学技術奨励賞について

公益財団法人 電気科学技術奨励会が主催し、昭和27(1952)年から、日本の電気科学技術に貢献した功労者をたたえ顕彰し、電気科学技術奨励賞を贈呈しています。

受賞内容

「脱炭素社会の実現に貢献する AI を活用した大規模系材料の長時間分子動力学シミュレーション技術の開発と実用化」

受賞者

坂井 靖文(富士通 コンピューティング研究所 シニアリサーチマネージャー)
吉本 勇太(富士通 コンピューティング研究所 プリンシパルリサーチャー)
松村 直樹(富士通 コンピューティング研究所 プリンシパルリサーチャー)

技術概要

脱炭素社会の実現には、クリーンエネルギーシステムを支える燃料電池などの新材料開発が鍵を握ります。従来、材料開発は実験による試行錯誤が主流でしたが、時間とコストの観点から、近年、計算科学と情報科学を融合したマテリアルズインフォマティクス(MI)が注目されています。

MI技術の中でも、分子動力学(MD)法は、材料を構成する原子の力を計算することで、原子挙動をシミュレーションし、材料の性質を評価する手法として注目されています。しかし、MD法は原子数が増えるほど計算時間が膨大になる課題がありました。特に、数万個の原子からなる材料をシミュレーションする場合、従来の第一原理計算に基づくMD法では百年単位の計算時間を要し、実用的な解析は不可能でした。
この課題に対し、原子に働く力を人工知能(AI)に予測させる手法が提案されています。しかし、従来のAIは数万原子規模の大規模系での力の予測精度が低く、長時間のMDシミュレーションでは材料が崩壊する問題がありました(図(a))。これは、大規模系だと原子間相互作用が複雑になるため、AIによる原子に働く力の予測が困難となるからです。
この問題を克服するため、私たちは、原子間相互作用が複雑な場合でも原子の力を高精度に予測できるAIの生成手法を開発しました。開発手法によるAIを用いて、燃料電池材料候補であるナフィオンのMDシミュレーションを行った結果、2万原子系で30ナノ秒以上の長時間MDシミュレーションが、材料の崩壊なく実現しました。従来の第一原理計算では800年以上かかると見込まれていたこのシミュレーション時間が、開発技術によるAIでは約1週間で完了しました。さらに、電池材料の性能指標(水素原子の自己拡散係数)の計算結果は実験結果と良い一致を示し、AIの予測精度が実用レベルで高いことを確認しました(図(b))。

開発技術により、従来不可能だった大規模・長時間MDシミュレーションが現実的な時間で実行可能となり、MIの強力なツールとして、脱炭素社会の実現に向けた新材料開発の加速に大きく貢献することが期待されます。

図.燃料電池材料(ナフィオン)への開発技術の適用例
(a) 開発技術により、材料構造が崩壊することなく2万原子系の30ナノ秒のMDシミュレーションに成功した。 (b) 燃料電池材料の性能指標(水素原子の自己拡散係数)の評価結果。開発技術による計算結果は、実験傾向を再現した。

受賞者コメント

坂井 靖文

吉本 勇太

松村 直樹

この度は、このような名誉ある賞をいただくことができ大変光栄です。開発技術は、材料開発の現場で活躍されている技術者の皆様との議論の中で得られた課題に対し、富士通の強みである計算科学とAI技術を最大限に活用することで創出されました。特に、AIを活用した数万原子規模の数十ナノ秒を超える長時間MDシミュレーションの実現は、世界初の成果です。この成果は、研究所や事業部など多部署にわたる多くのメンバーが協力し、粘り強く研究開発に取り組んだからこそ達成できたものと深く感謝しております。今後は、今回のシミュレーション技術をさらに発展させ、さらには因果発見AIやデジタルアニーラといった富士通のコア技術とも連携させることで、脱炭素社会の実現に向けた材料開発という喫緊の課題解決に貢献して参ります。

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