様々な不確実事象に備える中長期戦略立案向けサプライチェーン・デジタルリハーサル技術を開発
2025年11月28日
近年、気候変動、地政学的リスク、物流の混乱、資材価格の高騰、都市開発による商圏の購買層変化など、企業のサプライチェーンを取り巻く環境はますます不確実性を増しています。これらの事象は、企業の調達・物流・製造・販売体制に深刻な影響を及ぼす可能性があり、従来の定型的なリスク管理では対応が困難となっています。こうした状況を踏まえ、富士通は中長期的な視点での戦略的意思決定を支援する「サプライチェーン・デジタルリハーサル」技術を開発しました。
本技術は、下記の特長があります。
- 将来起こりうる様々な不確実事象をシナリオとして想定し、調達、物流、製造、販売など製品が消費者に届くまでの一連のプロセスをネットワークとして表すサプライチェーン構造の内、不確実シナリオがどの部分にどのような影響を及ぼすかの網羅的な分析・予測
- さらに影響を最小限に抑えるための調達先拡充や物流手段変更などの改善施策の自動立案
この技術により出力されたサプライチェーン構造に及ぼす影響や施策は、専門家による分析結果と同等であるだけでなく、さらに新たな見解も、コストや納期など複数観点で高精度・高品質に提示できることを確認しました。
開発技術の詳細
AIと業務知見を融合した、富士通独自のシミュレーション技術を開発しました。開発技術では、①不確実シナリオが及ぼすサプライチェーン構造への影響を中間要因も含めて網羅的に分析し、中長期的な時系列変化の影響も予測、②さらに数千規模の膨大な候補からこれまで見出せなかった施策も含め複数観点で改善施策を導出可能です。
①不確実シナリオによる影響の分析・予測
リスクシナリオ分析:不確実シナリオとして設定した様々な事象が、サプライチェーン構造のどの部分にどのような影響を及ぼすかを公開情報や個社データから分析し、中間要因も含めて因果関係の連鎖グラフとして網羅的に自動抽出
シナリオ予測:不確実シナリオにおいて抽出した連鎖グラフの要因ごとに、その要因について将来起こりうる変化の仕方を変えた変動シナリオを自動生成。生成した変動シナリオ別に、需給や価格などの中長期的な時系列変化を予測
②改善施策の導出
施策立案:不確実シナリオとして設定した事象が及ぼす影響に対して、サプライチェーンの調達先拡充、物流手段変更、在庫調整、拠点統廃合など膨大な施策候補の中からコスト、納期、在庫量、環境など複数観点で適切な改善施策を導出
大手食品企業様との共同検証では、製品のサプライチェーンを対象に、原料調達の海上輸送において紛争などによるスエズ運河閉鎖を想定した不確実シナリオで、本技術による①不確実シナリオによる影響の分析・予測、②改善施策の導出を試行しました。
本技術の試行
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不確実シナリオによる影響を網羅的に分析
海上輸送ルートを迂回することで輸送日数が増え、並行して輸送船確保も困難となり、これらが原因となる遅れが発生し、結果として原料の在庫量が減るという影響が確認できました。このように、迂回や輸送船確保困難などの中間要因を含む影響を、網羅的に分析できました。 -
不確実シナリオにおける中長期的な時系列変化を予測
スエズ運河閉鎖による荷動き量の増加の仕方を変えた変動シナリオ別に、海上輸送運賃の中長期的な時系列変化を予測しました。予測結果を過去のケースと照らし合わせた結果、海上輸送運賃が急上昇する傾向を正しく捉えられており、技術の妥当性を確認しました。 -
影響を最小限に抑える複数の改善施策の導出
有識者による立案施策と同様の結果に加えて、コストなど複数の観点で適切な代替ルートなどの施策も導出でき、大手食品企業様から、技術の導出精度について高い評価を獲得しました。
開発者コメント
コンバージングテクノロジー研究所 開発チームメンバー
水谷 政美
植木 美和
大谷 武
伊東 利雄
高橋 英一
雨宮 智
烏谷 彰
馬場 孝之
大塚 浩
尾形 晋
武部 浩明
前田 一穂
宮崎 信浩
遠藤 進
栗林 宗一郎
小林 久也
馬場 幸三
宮本 晶規
コメント:
我々のプロジェクトでは、製造、物流、小売、建設など多様な業種のお客様に対し、サプライチェーンの中長期戦略の立案を支援するサプライチェーン・デジタルリハーサル技術を開発しています。今回、お客様のサプライチェーンに影響を及ぼしうる様々な不確実な事象に対して、影響を網羅的に分析、予測して、影響を回避するため、調達先の拡充や物流手段の変更などサプライチェーンの構造変革も含めた改善施策を自動導出する技術を開発し、お客様が実際に経験された事例を用いて技術の有用性を検証しました。これからも最先端の技術を駆使し、様々な業種のお客様との共同実証を進めながら、事業運営の中核を担うサプライチェーンの最適化を実現する技術の研究開発を行っていきます。
今後の取り組み
今後は、製造業をはじめとする多様な業種への展開に向け、実証と技術強化を進めます。本技術により、企業のサプライチェーン戦略に新たな視点をもたらし、レジリエンスの強化と持続可能な事業運営の実現に貢献します。