研究者の夢

AI体操採点システムの研究開発に挑む研究者

プロフィール

Portrait of Yoshihisa Asayama

浅山 能久 / Asayama Yoshihisa

人工知能研究所
大学院 工学研究科卒
2012年入社
私のパーパス:「多様な考えを理解し、自身の言動に責任を持ち、人の役に立つものを創る」
趣味はゲームやアニメ、そして運動です。運動の中でも、特にフットサルやスノーボードが得意です。

2023年6月15日 掲載

高校の友人からもらった一生の宝物

自分はどちらかと言えば、「当事者側を経験したい」というタイプの人間です。この言葉は抽象的すぎると思う方もいるかもしれませんが、例えば、自分が身の回りで使う製品を作ってみたいと思ったり、スポーツであれば観戦ではなくプレーをしたいと思うタイプということです。子供の頃は、家具をマニュアル通りに一から組み立てることが、私にとって楽しい時間でした。本棚などの家具を組み立てることは、成果が目に見える形で現れるため、満足感を得ることができました。大学院で画像処理を学ぶことにしたのも、プログラミングで生み出される結果が分かりやすく画像として反映される点に惹かれたからかもしれません。

自分がITに興味を持ったきっかけは、高校3年生の時の仲の良い友人の影響です。その友人はパソコンを使って情報検索をすることができ、プログラミングでゲームを作ることもできました。私はその様子に魅力を感じ、自分でもやってみたくなりました。当時は自分のパソコンがなかったため、父のパソコンを借りて、夜1~2時間かけてプログラムを作ってみました。しかし、独学だったのでうまくいかないこともありました。

そのような時は、授業の合間に友人にプログラミングの仕組みを聞いて、行き詰まったところの解決策を教えてもらい、また家で試すプロセスを繰り返しました。3ヶ月かかってしまいましたが、初めて落ち物パズルのゲームを完成させることができた時の感動は今でも覚えています。この経験がきっかけでソフトウェアに興味を持ち、大学では工学部に入りました。今でも、その友人には感謝の気持ちでいっぱいです。

Portrait of Yoshihisa Asayama

開発の方向性に悩んだ5年間

富士通の研究所に入った理由は、3ヶ月のインターンシップを経験し、富士通では画像処理の研究に力を入れることが分かり、自分の専門性を発揮できると思ったからです。また、研究員と気軽に会話や質問ができる雰囲気があり、働きやすい職場だと思ったことも理由です。

しかし、実際にプロジェクトに取り組むと、自分なりの働き方が見つからず苦悩し続けました。
入社してから5年間は、医療の見守りシステムや自動車の運転者監視システムの開発に従事しました。
例えば、運転者が居眠りしていないかどうかを監視する技術を研究開発していた時は、展示会で開発した技術を説明する機会はありましたが、ユーザからの直接的なフィードバックは少なく、本当の課題が何であり、何を改善すればよいのかが分からない状況が続きました。真っ暗闇の中で、船の舵を取っているような感覚でした。どこを目指してよいか分からない、何かにぶつかって船が転覆してしまうかもしれないという、とても不安な気持ちで働いていました。

もちろん、ただ不安を感じていただけではなく、膨大な課題の中から優先順位の高いもの抽出し、開発の方向性を決定するまで、チームメンバーで検討を繰り返しました。また、チームの先輩や経験豊富な開発者から多くの意見を集め、最適な研究開発を行うように日々努力していました。与えられた業務に対しては、自分なりに課題を考え、改善して数値目標を達成していました。しかし、経験不足で的外れな方向に進むこともあり、チームの先輩や上司の意見が開発内容の多くを占めていたため達成感はあまり感じられませんでした。成し遂げたい研究開発について、これで本当に良いのか?と何度も自問自答し、眠れぬ夜が続きました。

AI体操採点システムの開発に携わる

それまで自分なりの働き方に悩み苦悩していましたが、ようやく光が見えてきたのは、世界初の3Dセンシング技術を用いたAI体操採点支援システム(*1)の開発に携わることができたからです。
私がプロジェクトに参加したのは、1年間の実証実験を経て、世界初の高精度の3次元骨格推定技術の開発が成功した頃でした。このプロジェクトに参加して、まず苦労したのはそれまであまり触れてこなかった機械学習を学ぶことでした。参考書を使って独学で勉強しました。機械学習を学びながら、さまざまな課題に対して改善案を検討し、実験して数十パターンのモデルを1ヶ月間にわたって試しました。

食事を取ったりシャワーを浴びたりする時でさえ、アイデア出しに没頭し、これまでと違うプロセスで思考を巡らせることがとても楽しいと感じました。そしてある日帰宅途中に、ある仮説を思いつき、「もしもこの仮説が正しいとしたら、このような対策で改善するはず」というアイデアを実験したところ、今までにない高い精度で実現でき、大きな達成感を感じました。またこのプロジェクトでは、国際体操連盟の関係者や、社内でも体操のプロの審判員がおり、実際に技術を使用するユーザからの意見を容易に得られる環境があったため、彼らの適切な意見が次の技術改善にとても役立ちました。

Portrait of Yoshihisa Asayama

変化を生み出すための行動を取る

現代社会では、星座占いや血液型占い、性格診断テストなど、自分の性格や行動パターンを理解するための方法が数多く存在していますが、私自身は、価値観や強みを見つけるためには、時間と経験が必要だと感じています。入社して間もない頃、自分の働き方に納得できず、進め方に苦悩した原因の一つは、他人の意見に過度に耳を傾けすぎたことでした。何かを行うにあたっては、必ず論理的な思考と根拠のあるロジックが重要だと思いますが、その時の私は、周りのすべての声を拾いあげ、研究開発に取り入れようとしていました。

その結果、最初の目的を見失うことが多かったのです。そこで、私は自分自身の考えを理論的に伝えることに意識を向けながら、AI体操採点支援システムの開発に挑戦しました。まずはゴールを意識し、考えを論理的な順序で整理し、妥当な論拠を提示します。開発の説明をする前に、相手の立場や背景を考慮し、聞かれそうな質問を想定して回答を準備しました。他人からのフィードバックを受けることは重要ですが、鵜呑みにはしないようにしました。以上のことを意識するようになって、自分らしい働き方ができていると納得できるようになり仕事にやりがいを感じることができました。

自分自身に向き合い、働き方を変えたことで、鍛えてきた専門性をより生かせるようになり、周りからの信頼を得て大きな成果に繋がるようになりました。それ以来信念を持って、目標を明確にすることが、私の仕事において大切な原則となっています。研究開発において悩み続け、多くの寄り道をし、現在のパーパス「多様な考えを理解し、自身の言動に責任を持ち、人の役に立つものを創る」にたどり着くことができました。未知なる領域への探求こそが研究者として最も重要な役割だと考え、そのために新しい課題へ取り組み、世の中に役に立つ研究をし続けたいと思います。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 白 湘一

私たちは誰しも仕事に関する悩みを抱えていることがあるのではないかと思う。仕事において悩みが生じた場合は、まず自分自身に問いかけてみることが大切だと彼が教えてくれた。時間をかけてゆっくりと何ができるのかを考え、問題を解決するために必要な行動を起こすことが重要である。そして一人で抱え込まずに相談できる人と話し合い、前向きに取り組んでいくことが大切だと思えた。皆さんは、ご自身現在の働き方に満足しているのだろうか。今は良い振り返りの機会かもしれない。

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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